- インタビュー
2025年04月01日
スマートマップで観光DX「Nutmeg」好調のワケ——ハワイから世界展開も加速へ

- NutmegLabs Japan
中口 貴志 - Co-founder / CEO
NutmegLabs Japanは、観光DXプラットフォーム「Nutmeg(ナツメグ)」の日米両市場での拡大を加速させるため、約5億円のプレシリーズB資金調達を実施した。日本での導入施設500社以上という実績を基に、すでに進出しているハワイに加え、米国本土のテーマパーク市場への本格展開を視野に入れています。
「日本の10倍の市場規模がある米国で成功すれば、大きく飛躍できる」と語るのはNutmegLabs JapanCo-founder / CEOの中口貴志氏。今回は中口氏に観光産業のデジタル化でどのようにグローバルを攻めるのか、詳しく話を伺いました。
観光体験の全過程をカバーする統合プラットフォーム
幅広い観光産業に導入が進むNutmeg
訪日外国人観光客の増加と人手不足という相反する課題に直面する日本の観光産業。この状況を打開するために躍進しているのがNutmegです。
Nutmegの強みは、観光に関わる「旅前」「旅中」「旅後」の全フェーズを一元管理できる点です。これまでの観光システムでは、予約、チケット発行、顧客データ管理、施設案内などが別々のシステムで運用されることが多く、それらの連携に多大な労力が費やされてきました。
観光業界では各フェーズごとに異なるシステムを使うことが一般的でしたが、我々はすべてを一つのプラットフォームに統合しました。
中口氏
観光事業者はNutmegを導入することで、自社サイトからのシームレスな予約受付から、現地での顧客対応、さらには訪問後のフォローアップまで一貫して管理できます。
また、Nutmegが提供する機能は多岐にわたります。
まず基盤となるのがオンライン予約・決済システムです。事業者の既存サイトと連携し、顧客は簡単に予約から支払いまで完結できます。加えてCRM(顧客関係管理)機能により、顧客データの蓄積と分析が可能になります。これにより事業者は顧客の嗜好やニーズを把握し、効果的なマーケティング施策を展開できるようになります。
Nutmegのビジネス実績
最新の実績では、Nutmegの導入事業者数は500社を超えているそうです。小規模なツアーやアクティビティ運営会社だけでなく、テーマパーク、リゾートホテル、バス・フェリー・観光船といった交通インフラ事業者まで、顧客層が多様化していることが特徴です。
流通額は過去1年半で3.5倍以上に増加しました。
1月も前年比で330%ほどの伸びを記録しており、次の1年はもっと成長する。
中口氏
同社が前回資金調達をしたのは2023年5月のこと。コロナ禍が終息し、シリーズA調達から約1年半の期間でこの成長率を達成したことは、観光産業の回復基調とNutmegのプロダクト価値が市場に認められた証左とも言えます。
NutmegLabs Japanのビジネスモデルは「サブスクリプション+トランザクション」の形態を取っています。月額固定の機能利用料に加え、予約決済の手数料収入という二本柱です。機能の拡充によるサブスクリプション収入の増加と、流通額拡大に伴うトランザクション収入の増加という好循環が、同社の成長エンジンとなっています。
観光産業は慢性的な人手不足に悩まされる一方、インバウンド需要の高まりで対応の複雑化・多様化が求められています。Nutmegはこの相反する課題に対し、デジタル化による業務効率化とサービスの質向上という一石二鳥の解決策を提供しました。
スマートマップ機能で差別化
Nutmegを導入しているソレイユの丘
Nutmegが提供するさまざまな機能の中でも、特に市場での反響が大きく、今回の資金調達を前倒しする決め手となったのが「スマートマップ機能」です。2024年8月にリリースされたこの機能は、従来の施設案内図とは一線を画す複合的なサービスを提供しています。
例えば横須賀市に位置する「ソレイユの丘」の広大な敷地内には、農業体験エリア、動物との触れ合いエリア、アトラクション、飲食店など多彩な施設が点在しています。
こうした広大な敷地を持つソレイユの丘では、スマートマップ機能が特に効果を発揮しています。来場者は自分の現在位置を確認しながら、各施設への最適なルートを把握できます。また、混雑状況のリアルタイム表示により、混雑を避けた効率的な施設巡りが可能になりました。
スマートマップ機能の最大の強みは、単なる地図表示ではなく、予約・決済・会員管理などNutmegの他機能と完全に統合されていることです。
例えば、ユーザーはマップ上でアトラクションの待ち時間を確認し、混雑しているなら即座にファストパスを購入することができます。また、近くの飲食店を見つけてクーポンをゲットしたり、モバイルオーダーで並ばずに注文したりといった操作も可能です。
ソレイユの丘のスマートマップ
一方、事業者側にとっては、マップを通じた追加サービスの提案によって客単価の向上が期待できます。
入場券だけ持って入ってきた方に対して、ファストパスを購入いただくことで顧客単価を上げることができます。
中口氏
大手テーマパークは独自の高度なアプリを持っているが、中小の観光施設がそこまでの機能を持つことは難しかった層です。Nutmegはその機能をより手軽に、あらゆる規模の観光施設に提供しています。
さらにスマートマップ機能のもう一つの重要な価値は、ユーザーの行動データを収集・分析できる点です。Nutmegのシステムでは、ユーザーがマップ上でどのエリアに関心を持ち、どのような順序で施設内を移動したかなどの情報をヒートマップとして可視化することが可能です。
例えば、時間帯別の混雑状況データは、スタッフの適切な配置に活用できます。この時間帯に園内のこのエリアが混むという予測が立てば、その時間に合わせて人員を増強するといった判断ができるようになります。
お客様がマップ上で何を見たとか、どういう顧客体験をされているかというところがデータで可視化されるというのが評価されています。
中口氏
ハワイから日本、世界へ
Nutmegのグローバルサイト
多くの日本のスタートアップが国内市場で実績を築いた後に海外展開を図るのに対し、Nutmegは創業初期からハワイ市場に進出するという異色の戦略を取りました。
ハワイは実は我々が一番最初に売り上げが立ったエリアです。
中口氏
同社はハワイの事業者との関係を強化し、現在では顧客基盤を着実に築きつつあるといいます。
導入しているハワイのクアロア牧場では、多言語対応のスマートマップが外国人観光客への対応力を高め、スタッフとの言語コミュニケーションが難しい場合でも、直感的に操作できるマップが観光体験をサポートしています。
この早期国際展開が功を奏した背景には、ハワイという市場の特性があります。日本人観光客の人気渡航先であるとともに、アメリカの観光産業の特徴も併せ持つハワイは、日本企業がアメリカ市場に進出する際の市場として理想的でした。
Nutmegはサンフランシスコ本社に加え、ハワイ支社と日本(東京子会社)に拠点を構えています。ハワイ拠点は主に現地の顧客対応と営業活動を担当。これに対しサンフランシスコ拠点は、シリコンバレーの最新テクノロジートレンドをキャッチアップしつつ、米国本土市場への展開戦略を推進する役割を担っています。
中口氏がアメリカ市場に早くから注目したもうひとつの理由は、その圧倒的な市場規模だと言います。観光におけるアメリカ市場の中でも特に注目しているのがテーマパーク産業です。
日本のディズニーさんも数千億円規模の売り上げですが、アメリカはフロリダだけでおよそ8兆円あります。
次に行くとしたら、アメリカ国内の観光施設テーマパークとかの業界を攻めようと思ってます。わかりやすくディズニーやユニバーサルといったものがありますが、実はそこ以外ってそんなにデジタル化されていないんです。
中口氏
日本発のSaaSがアメリカ市場で成功するのは容易ではないですが、Nutmegには独自の強みがあります。日本のおもてなし文化とデジタル技術の融合です。「気持ち良い顧客体験」を実現するというビジョンは、日本の細やかなサービス精神と最新テクノロジーを掛け合わせたものです。
創業から約7年。特にコロナ後の2年間で急成長を遂げてきた同社だが、グローバルでのポジションを掴み取ることができるのか、今後の展開に注目です。
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