- インタビュー
2024年08月13日
KDDIが切り拓く、KDDIの宇宙フロンティア「MUGENLABO UNIVERSE」の挑戦
- KDDI株式会社
原 吉之介 - オープンイノベーション推推本部 ビジネス共創推進室
KDDIが立ち上げた新プログラム「MUGENLABO UNIVERSE」は、宇宙事業への参入障壁を下げながら、最終的に地球規模の課題解決を目指す新たな取り組みです。宇宙ビジネスが民間主導の新時代に突入し、宇宙を活用したオープンイノベーションが身近になりつつある中、このプログラムは宇宙企業だけでなく、あらゆる企業が宇宙を活用できる機会を提供します。
本プログラムの主要な特徴として、多様な実験環境の提供が挙げられます。現在、株式会社ElevationSpace、株式会社デジタルブラスト、株式会社スペースデータなどの企業や、鳥取砂丘月面実証フィールド「ルナテラス」が、この実験環境を支援しています。大企業との事業化検討機会の提供や地上でのビジネス創出に重点が置かれています。
また、株式会社ispace代表取締役CEOの袴田武史氏、宇宙エバンジェリストでグローバル・ブレイン株式会社パートナーの青木英剛氏、一般社団法人SPACETIDE CEOの石田真康氏など、業界の第一人者が講師として参加しています。
宇宙ビジネスの可能性を広げ、地上の課題解決を目指すこの取り組みについて、KDDIのオープンイノベーション推進本部の原吉之介氏にお話を伺いました。
「MUGENLABO UNIVERSE」の立ち上げ背景
KDDIは長年にわたり、宇宙通信分野での取り組みを続けてきました。例えばJAXA協力のもと、月面通信や月と地球間の通信に関する実証実験や技術検証を行っています。しかし、こうした取り組みを進める中で、通信環境の整備だけではなく、同時にサービス開発も進める必要があると原氏は語ります。
結局のところ、通信というのは通信環境を整備するだけでは十分な価値が生まれません。通信が繋がった後に、その上で提供されるサービスがあってこそ、人々はそのサービスを利用することができます。そういったベースの環境を作り上げるため、月面や月と地球を結ぶ上でのサービスを提供できる方々と事前に接点を持つことが重要、且つMUGENLABOがこのプログラムに取り組んでいる意義であり、KDDIが関わる理由でもあると考えています。
原氏
本プログラムは、通信インフラの上に乗る「サービス」を開発する企業との関係構築も重要となっており、かつてのezwebやau スマートパスのようなプラットフォームビジネスの経験を活かし進めています。さらに、MUGENLABO UNIVERSE立ち上げの背景には、宇宙産業全体の変化もあります。従来、宇宙産業は「宇宙村」と呼ばれる閉鎖的な環境でしたが、近年多様な産業との連携が求められるようになっており、この変化に対応すべく新たな参入者を集める必要性が高まっています。
これらの市場状況から、スペースデータ社の佐藤氏とKDDI代表取締役社長CEO高橋との対話を通じ、KDDIのこれまでの経験と宇宙産業全体の変化という二つの要因が重なって生まれたプログラムがMUGENLLAB UNIVERSEです。
MUGENLABO UNIVERSEの具体的な取り組み
MUGENLABO UNIVERSEの主な目的は、宇宙環境を活用して地上の課題解決を図ることです。この大きな目標に向けて、本プログラムでは具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。
まず挙げられるのは、宇宙ビジネスに興味を持つスタートアップへの支援です。主に以下3つの形で行われています。
- 実証実験の環境提供
- 宇宙ビジネスに関する情報提供
- 宇宙ビジネスの専門家とスタートアップのネットワーキング支援
宇宙ビジネスでは、地上とは異なる環境下での実験が必要になることが多々あります。MUGENLABO UNIVERSEは、そうした特殊な実験環境をスタートアップに提供することで、スタートアップのアイデア実現を後押ししています。
これには、メディアの活用や有識者による講演などが含まれます。宇宙ビジネスは専門性が高く、参入障壁が高いと思われがちであるため、基礎的な情報から最新のトレンドまで、幅広い情報を提供することで、スタートアップの参入を促進しています。
アイデアがあっても、それを実現するための専門知識や人脈がない場合もあるため、MUGENLABO UNIVERSEではそうしたスタートアップと専門家を繋ぐ架け橋の役割を果たしています。
さらに、MUGENLABO UNIVERSEは大企業との連携促進にも力を入れています。具体的には、スタートアップが開発したテクノロジーやサービスの事業化を目指し、大企業とスタートアップのマッチングなどを行っています。MUGENLABO UNIVERSEは、両者を繋ぐプラットフォームとしての役割も担っています。
原氏は今回のプログラムへの意気込みを述べました。
宇宙という領域の魅力を伝え、非宇宙のスタートアップにも宇宙ビジネスの可能性を感じてもらうことに注力したいです。
そのため、講演会などでは宇宙ビジネスの基礎知識や参入しやすい領域について、わかりやすく説明することを心がけており、多角的なアプローチで宇宙産業の発展と地上の課題解決を目指しています。
原氏
これらの取り組みを通じて、宇宙ビジネスの裾野を広げ、新たなイノベーションの創出を促進することが期待されています。
MUGENLABO UNIVERSEの反響
宇宙ビジネスは、関連していないスタートアップにとってはハードルが高いと思われがちなので、幅広いスタートアップに門戸が開かれていることを示す必要があり、支援内容や対象領域を明確にすることに苦心したと原氏は語ります。
こうした立ち上げ背景もありプログラム発表後、MUGENLABO UNIVERSEはメディアでも多く取り上げられ、社内外からも多くの反響をいただきました。特に、他社に先駆けて発表できたことは大きな成果だったといいます。この先行発表により、MUGENLABO UNIVERSEは宇宙ビジネス支援の先駆者としての位置づけを確立しています。
今後の展望
プログラム発表から約2ヶ月が経過し、新たな段階に入ったMUGENLABO UNIVERSE。現在は非宇宙系スタートアップへの認知度向上の取り組みに注力しています。プログラム発表後、宇宙ビジネスに関心のあるスタートアップからの反応は良好であり、原氏はこれからの取り組みについて述べました。
まだ宇宙領域に興味がない、または宇宙ビジネスとの接点を見出せていないスタートアップにも、このプログラムの価値を伝えていくことが非常に重要であり、これまで宇宙と無関係だと思われていた分野のスタートアップにも参加してもらいたいと考えています。
具体的には、KDDI ∞ Laboや他の事業部門と連携し、様々なスタートアップとの接点を増やしていければと思っています。
原氏
MUGENLABO UNIVERSEの目指す姿について、原氏は大きな展望を語りました。
民間主導の宇宙ビジネスの可能性を最大限に引き出し、大企業とスタートアップの連携を促進することで、日本の宇宙産業の国際的地位向上を目指したいと思います。日本の宇宙産業は世界第4位の規模を誇っていますが、長期的にはアメリカや中国と並ぶレベルにまで日本の宇宙産業を引き上げていきたいです。
原氏
このようにMUGENLABO UNIVERSEは、通信インフラの先にある価値創造と宇宙産業の民主化という大きな挑戦に取り組み、目の前の課題を一つ一つ解決しながら、同時に大きな夢の実現に向けて着実に歩みを進めています。この新しい取り組みが、日本の宇宙ビジネスにどのような変革をもたらすのか、今後の展開に大いに注目です。
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