- インタビュー
2024年05月09日
搭乗型ロボットとは?——MOVeLOT廣井健人氏に聞いた、ロボットエンタメ新時代
- MOVeLOT.Inc
廣井 健人 - 代表取締役
人がロボットに乗り込んで操縦する体験は、これまでSFかアニメの中のものと思われていました。しかし近年、AIやIoTなどのテクノロジーが急速に発達し、ロボット技術も目覚ましい進化を遂げ、高機能ロボットは現実のものになりつつあります。
昨年2月、主にイベントなどを対象に、エンターテインメント分野での利用に主眼を置いた搭乗型ロボットを開発するスタートアップMOVeLOTが創業しました。昨年から今年にかけ数社から、シードラウンドで1億円以上の調達に成功しました。
MOVeLOTが取り組んでいること、そして、実現したい未来について、代表の廣井健人さんに話を聞きました。
エンタメ&カルチャーとしてのロボット
搭乗型ロボット操縦空間「ROBOT BASE UNIT」
ロボットを単なる製品や道具としてではなく、新しい体験そのものとして提供するスタートアップMOVeLOTは、廣井さんがロボットエンターテインメント業界に長年携わってきた経験から、ロボットによる体験の可能性と価値を見出し創業しました。
当社は、ロボットそのものを製造・販売するのではなく、搭乗型ロボットを中心とした体験空間全体をパッケージングして提供することが最大の特徴です。
廣井氏
同社のビジネスモデルは大きく2つに分かれます。遊園地のように来場者から入場料を徴収する「店舗型」と、企業や自治体のイベントに出向いて出演し、出演料を得る「イベント出張型」です。
他社が開発したロボットは1機体で数億円と製作コストが嵩む一方、当社は500万円程度でローコストに抑えることができます。
廣井氏
その理由は、モジュール設計によりロボット構造を柔軟に変更できるため、少ない部品で効率的な製造が可能になったことにあります。
当初はイベント出張型の事業から始めました。ロボットを全国に運んでいたんですが、そのときの運用性がすごく高かったんです。いろんな場所にロボットを持ち運んで、体験を提供することはできたんですが、それだけでは物足りなくなってきました。
廣井氏
そこで生まれた新たなアイデアが、移動式の体験空間の構築です。イベントに必要な設備一式を大型トラック1台に積載できるため、全国どこでもイベントに出向いて体験を提供することが可能になりました。
どんな場所でも同じような体験空間が作れるんです。設置スペースさえ確保できれば、わずか数時間で巨大ロボットを交えた体験空間を構築できます。私たちは、従来の企業が直面していた移動・設置の壁を打ち破ることに成功しました。
廣井氏
MOVeLOTでは参加者に事前コンテンツを提供してロボットへの興味を高めてもらい、その上でロボット搭乗体験を楽しんてもらいます。コンテンツで熱量を上げてから、最後にロボットに搭乗してもらう流れは、今後も変わることはない、と廣井さんは語ります。
例えばVRやARなどの最新テクノロジーを取り入れたコンテンツを事前に体験すれば、ロボットへの期待感が高まります。さらに小型ドローンとの連携により、ロボットの視点から空中の映像を映し出すこともできます。
このようにゲーム的な要素を取り入れつつ、リアリティの高い臨場感あふれる体験を提供することが可能です。従来の体験とは一線を画す革新性に富んだサービスといえるでしょう。そして、体験をローコストで提供できることから手が届きやすい料金設定が可能になっています。
1回の入場料金は1000円前後を想定しています。家族連れでも気軽に利用できる価格帯です。
廣井氏
同社は2024年9月に本格的なサービス提供を開始する予定です。当初は国内の大型イベントを中心に出展しますが、年内には東京都内に常設店舗をオープンし、2025年までに国内で数十カ所のロボット体験を提供できる体制を整える計画です。さらに、国外にも積極的に進出し、2028年までに世界100〜200カ所での展開を目指しています。日本発の革新的なロボット体験を世界中に広め、新時代のロボットカルチャーを確立したいと、廣井さんは意気込みます。
ロボット体験の普及で、社会とテクノロジーを再定義
これまでロボットは一部の技術者のものでしたが、MOVELOT では誰もが気軽にロボット体験を楽しめる環境を整備することに注力しておいて、そのためにも、ロボットに関する概念を一般化し、新たなロボットカルチャーを確立することが不可欠だと廣井さんは考えています。
ロボットに乗るという行為そのものに、新しい価値観や意味合いを持たせていきたいのです。これまでの産業用ロボットのイメージから脱却し、ロボットを娯楽や体験の対象として捉え直す必要があります。
廣井氏
同社のサービスを通して、ロボットが人々の生活に溶け込み、誰もが能動的にロボットと関わる社会を実現できるかもしれません。産業分野で活躍するロボットはあくまでも〝道具〟でしたが、これからはエンターテインメントの対象として〝共生〟の側面を帯びてきます。
また、エンターテインメント分野に浸透することで、技術者や開発者だけでなく、クリエイターやアーティストがロボット開発に携わるようになれば、機能性・合理性だけでなく、芸術性や遊び心に富んだロボットが生み出される可能性も出てくるでしょう。
さらに、ロボットが人々の生活に浸透していけば、子供の頃からロボットに触れ親しむ機会が増えます。そうなれば、テクノロジーリテラシーが向上し、将来のイノベーションにもつながっていくかもしれません。
子供たちがロボットと直接的に触れ合いながら育つことで、テクノロジーへの親しみやロボット観が自然と身につきます。そうした経験が将来の創造性やイノベーション力を高めるはずです。
廣井氏
もちろん、プライバシー、ロボットに過度に依存しすぎることによる人間味の喪失、倫理的な問題など、ロボットが人々の生活に浸透することへの懸念や課題もあります。しかし、こうした課題をクリアできれば、人とロボットの新たな関係が生まれる可能性は十分にあります。
テクノロジーに対する人々の価値観は大きく変容し、イノベーションが加速度的に進展していく環境が生まれるかもしれません。テクノロジーを単なる〝モノ"ではなく、人間と共生する〝存在〟として捉えるようになれば、人間とテクノロジーの関係そのものが一変します。
乗り越えるべき数々の難題
訪日外国人による体験
MOVeLOTがこうした未来社会を実現するためには、多くの課題をクリアしていかなければなりません。同社の成長を阻む要因として、まず技術面での壁が挙げられます。既存のロボットは可動範囲が狭く、単に移動するだけの機能しかないです。
より臨場感と迫力のある体験を提供するには、ロボットの動作の自由度を格段に高める必要があります。複雑な動作やアクションを実現できるロボットの開発が求められています。
廣井氏
また、全国展開やグローバル展開を視野に入れた場合、現地の安全基準や規制をクリアすることも大きな課題です。特に海外の場合、各国の法令は国内よりも厳しいケースが多く、認可を得るには多大な時間とコストがかかってしまいます。
さらに、同社の事業が軌道に乗るためには、人材の確保と育成が不可欠です。オペレーターから設計者、プログラマーに至るまで、これまでにない分野の人材を継続的に確保し、教育する体制を整備しなければなりません。
初期投資に加えて、全国展開やグローバル展開を視野に入れると莫大な資金が必要になってきます。外部の出資者やスポンサー企業を巻き込んでいく必要があります。これを誤れば、事業の立ち行き遅れや継続が困難になる恐れがあります。
廣井氏
技術、安全規制、人材、資金といったさまざまな課題を抱えつつも、MOVeLOTのサービスが認められるようになれば、ロボットは人々の生活に浸透していく大きなきっかけになります。そこには、技術に対する価値観そのものを大きく変える力が潜んでいるかもしれません。
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