- インタビュー
2023年11月15日
けんすうに聞く「NFTってオワコンなの?」の興味深い回答/【MUGENLABO Café・推しスタ】
- アル株式会社
古川 健介 - 代表取締役
MUGENLABO Magazine編集部では定期的に開催している「スタートアップ×大手企業」のマッチングイベント「MUGENLABO Café」にやってきてくれたスタートアップをピックアップしてご紹介しています。今回は特別編として連続起業家で、現在は漫画やキャラクターなどのコンテンツビジネスを幅広く手掛けるアル株式会社 代表取締役、古川健介さんに「NFTってオワコンなの?」というお話を伺ってきました。
現在、古川さんたちがプロデュースする、ナマケモノのきせかえNFTキャラクター「sloth(すろーす)」は、今年3月にスタートしたプロジェクトです。投機的な動きをあえて抑える独特の販売戦略を展開し、販売から半年をかけて1万点の本体・きせかえアイテムの販売に成功しています。(太字の質問はMUGENLABO Magazine編集部。回答は古川健介さん。記事中は彼の愛称として使われている「けんすう」の表記を使わせていただきました)
ナマケモノの着せ替えNFTキャラクター「sloth(すろーす)」の販売が好調と聞きました。最近は仮想通貨(暗号資産)はビットコインETFの承認可否などの話題もありやや相場も戻っていますが、それでもNFTについては大きく価値が失われたという話もあります
けんすう:みんなちょっと時間軸を焦りすぎなんですよね。YouTubeも2004年に出た時にもう「テレビはダメだ」と言われたけど、実際に芸能人が入ってきたのは15年かかったわけです。なんかそんな感じだと思うんですよ。数年単位で見ないと、なかなかこれがどういう効果があったり、どういう影響があるかはわからないかな、と思っているので、僕はまだまだおもしろい使い方があるんじゃないかと思っています。
ちなみに11月に入ってから、また盛り上がりがすごくなってきて、買ってくれる方がすごく増えてきた印象があります。
「NFTはこれからだ!」というのも「オワコンだ!」というのもまだ判断するのが早すぎる感じはしていて、「どうなるか全然わからない分野」というくらいで捉えていますが、「お客さんの課題感も、ニーズも、何に使えるかもよくわからない」からこそ面白いとも思っています。たとえば、生成系AIとかの分野では、やっぱりお客さんの課題や、それに対する解決方法もすぐに思い浮かぶので、全然性質が違いますね。
NFTについてはユーティリティ(利用価値・機能)が、プロフィール(PFP)だったり居場所(POAP)の証明だったりと結局のところよく分からないままトレードが先行したように思います。NOT A HOTELの会員権はわかりやすかったですが、それでも一般的な利用ケースとはやはり異なります。改めてNFTのユーティリティはどこにありそうですか
けんすう:ユーティリティという考え方で言えば、NFTって、利便性のために使おうと思ってもまだ使いづらいと思っています。NOT A HOTELはかなり特殊な事例で、あのレベルの高単価かつ利用する側のユーザーリテラシーが非常に高い物ってあんまりないんですよ。例えば高額なウイスキーや日本酒がいけるじゃんと思っても、そこが好きなユーザー層はNFTなどの話にまだ全然ついていけない可能性が高い。
チケット販売などはあるかもしれませんが、オンラインチケットですらまだ厳しい現状を考えるとまだまだ難しいですね。普通にQRコードを見せるだけ、というケースでも敷居を感じる人がいる中で、NFTのウォレットで入場する、みたいな概念はまだ早すぎるかなと。
もちろん、10年後にはこういった事例はあると思いますが、現在のNOT A HOTELのような利用方法は『外れ値』として認識しないと混乱する、というのが個人的な見解です。
わかりました。では、どうすればいいでしょうか
けんすう:どうすればいいでしょうね(笑)。今、この時点でも、 NFTを使ったゲームなどは成り立つと思っていますが、これも「ゲームのおもしろさ」よりも、「投資家が、投資対象として魅力に感じるか」というところを狙わないと難しいかなと思っています。ゲームをやるユーザーを大量に集めたいならNFTじゃないほうがいい気がするので。
なのでここ半年くらいの状況としてはは、基本的にNFTは「デジタルデータを適切に売買できるようになる」、ということがメインかなと。そのあとに、「インフルエンサーが活用することで、ファンも稼げるようにする」みたいな仕組みの一部として使われるんじゃないかと予測しています。
これまでも価値の源泉の多くがトレードから生じるもの、つまりは「値上がるかもしれない」という価値だったので、明確にバブルだと思っていたし、バブルが終われば価値は逆に下がると大方が予測していました。そして、その通りに価値が下がったというのが今の状況です。
NFTの投機的なビジネスモデルってご存知の通り、二次流通での転売が鍵なんですよね。以前は転売された時に一次販売側へ転売される度に5%や10%の利益が入るというものだったので、必然と取引量が重要になってくる。このモデルだとNFTプロジェクトもマーケットプレイスも、売買を促したくなるのでどうしても投機的な要素を煽るようなことが起こってしまうのです。
とはいえ、先程申し上げた通りに「いまの現状では投資マネーを連れてくる」が圧倒的に効率的なので、プロジェクト運営としては合理的だとは思います。
開始半年で1万アイテムを販売したきせかえNFT「sloth」
slothは1万アイテムが売れたと聞きました
けんすう:slothは投機的な要素を含まないNFTを作るっていうことがベースにあったんです。投資マネーを刺激したほうが圧倒的にビジネスとしてはいいんですが、そこでの勝負ではなくて、「デジタルアイテムを欲しいと思って買う」というところを意識しました。
二次流通を完全に無視しているので、未だに二次流通の総取引量がわずか3ETHしかない状況なんです。これはコントロールしづらい場所なので、いかに抑制するかがやはり非常に難しい問題なんです。
2022年後半にリリースした「marimo」のプロジェクトでは初日に100ETHも取引されてしまったんです。あれも「育てられるNFT」として出して、投機じゃないよといったんですが、どれだけ投機じゃないと言い続けてもやはりされてしまったんですね。その意味で、今回は転売を極端に抑えられたのが一つの成果かなと思ってます。
取引での手数料モデルではなく、新たなモデルに挑戦していますよね
けんすう:そうなんです。二つ目の成果でもあるんですが、売買以外で継続的な収益を得る方法を試しています。
例えば衣装の販売などで収益をあげるモデルに挑戦して現状、うまく回り始めているんです。きせかえの衣装が出てくると「この衣装欲しい」とみんなが買ったりする。NFTを売買させることで売上をあげるのではなくて、デジタルアイテムの追加販売で売上がちょっとずつ上がっていくっていうのが、生き残るポイントかなと思っています。
あとは、グッズの追加販売のように見えて「本体とは別に、ユーティリティが付与されたNFTを配る」とかにも、きせかえの仕組みは使いやすいかなと。
ところでslothは当初、デジタルペット的なユースケースを見かけましたがその後はどうでしょうか
けんすう:これはGPTのAPIを使ってちょっと試してみたんですが、そんなにユーザーがいない中でそれを実装しても、使うのが100人とかになっちゃうなと思ったんですよね。ユーザー数が少ないというのがNFTの問題の一つです。だから、こういうのを実装するのはまだ早いなと思いました。
ゲーム的なものとしては複雑なものよりも、ものすごいシンプルなものが限度かなと思っています。marimoでいうと「少しずつ大きくなる」とか、slothでいうと「衣装をきせかえられる」とかです。
今は、こうやって、いろんな衣装を作っていくというのを増やしつつ、今後は本体を増やすっていうのをやろうとしてます。互換性のある本体と衣装が増え続けると、どんどんきせかえられるものが増えるじゃないですか。
着せ替えだけでも楽しむ方々がいますよね
けんすう:例えば、アイドル育成プロジェクトみたいのがあったときに、ファンの人たちにアバターを売って、それを原資にしてアイドルが活動していく、といった企画をいろいろな企業と話しています。アイドルのライブTシャツとかサイリウムとかをこのきせかえのアイテムとして売って、そうすることで自分のアバターをどんどんパワーアップできる。
「すごいファン」アピールができるみたいな感じの、クラウドファンディングとファンクラブとファンコミュニティを繋げるデジタルアイテム、みたいな感じのユースケースが今のところ一番筋が良さそうですね。
slothでは着せ替えなどの作業にウォレット接続が必要
そこでNFTやクリプトの頭痛の種、ウォレット問題が出てきますがどうクリアすべきでしょうか
けんすう:そこはあまり僕らが頑張るものではないかなと。メタマスクとかいろんなものがどんどん簡略化していくっていう流れはあるので、様々なプレイヤーによって、少しずつ解決していくんだろうなと思っています。今は、そこを越えられる人だけがお金とか払って新しいアイドルを応援したりするんだろうなと。
一部の人から応援されたアイドルの曲とかが、誰でも見れるYouTubeなどに露出していって、一般の人はそれを見て「何か新しいアイドルだな」と思って楽しむという構造になりそうです。全員がNFTを理解したり、参加する必要はないんですね。
だからやっぱり投資家に近いのかもしれません。「ソニーの製品は使うけど、ソニーの株主ともなると少ないよね」みたいな感覚というか。
そもそもNFTではなく、単なるデジタルアイテム・キャラクターですれば良いような気もしますが
けんすう:それもある意味で正しいんだけど、売買や交換が簡単なデジタルアイテムというところには魅力があります。例えば衣装とこの衣装を交換しましょうとか、それが欲しいんで3,000円で売ってほしい、みたいな時に、マーケットプレイスを自分たちで作らなくていいっていう部分が大きい。NFTは共通規格みたいなものなので、流通が容易なのは良い点かなと。あと、ユーザーを囲い込もうとするプラットフォームが出づらい仕組みなのも、日本勢にとっては有利に働くと思います。
slothが展開するコラボプロジェクト
となると、新しい時代のIPビジネスとして考えた時、どういうイメージでNFTを使えばいいでしょうか
けんすう:スマホで昔のゲームを作っても、いまいちピンとこなかったけど、パズドラのように、スマホネイティブのものを作ったら盛り上がった、みたいな感じで「NFTネイティブだからこそ輝くIP」みたいなのをやらないといけないんだろうなと思っています。
まず、一つあるのが「お客さんから最初に投資を受けて作れる」という点です。ユーザーが投資家になれる、という点は大きいんじゃないかなと。エンジェル投資家などをやっていると、スタートアップに投資をする魅力はとてつもないと思っているんですが、IPづくりにも、このように、投資家が出てくる時代になるのではないかなと思っています。
また、「ユーザーが保有できる」というところが鍵になりそうです。slothの上限は5,000体ですが、それぞれ見た目が違うので、「5000体のキャラの飼い主みたいになれる」というところに面白さを感じるようなものにしないといけない。
例えば、TikTokでアニメを作るにしても「自分が持っているキャラが出演する」みたいになると嬉しいよねといった感じですね。キティちゃんやミッキーマウスは一人しかいませんが、NFTの場合「5,000体いる」というのが前提でIP設計をしたりするんだろうなと。
slothの事業の展開についておしえてください
けんすう:もちろん、IPとしてslothを育てていくというのはありつつ、一つはきせかえキャラクターのデジタルアイテムが一つのグッズとして事業として成り立つように、企業と一緒に作っていくというのをやろうと思っています。実際にいくつかの企業と話していますが、本体を作ってデジタルグッズを扱い、何か新しいIPを作るときに、たとえば僕のアイコンのように、、slothの形に合わせて作ると、slothの衣装アイテムがそのまま使えるっていう仕組みも始めました。
現在のけんすう氏のアイコンは、slothと互換性があるため、slothのアイテムを着用できる
レゴマリオというのがあると思うんですが、あれってやっぱり何がいいかっていうと、今までのレゴの資産をそのまま使えて遊べるから良いんですよね。マリオが独自のブロックで登場して互換性がないっていうと、やっぱりちょっと使いづらい。でもレゴがベースだったら本体も一緒にどんどん増やせるし、例えばグッズを誰でも作れるとか、売れるようになる。どんどん本体が増えてどんどんアイテムも増えて、クリエイターさんもそこで稼げるようになって、となってくるとちょっと面白いかなと思っています。
コラボした企業側のビジネスモデルはどうなりますか
けんすう:とても単純で、本体とグッズが売れて売れるじゃないですか。slothっていう無名のキャラクターでも、IPを展開する前に4,500万円も売り上げています。。これが有名なIPだったり、有名な会社だったら最初からもっとお金が集められるかもしれない。そうすると、クリエイティブに使える予算も増えるし、リスクも取りやすくなります。
ユーザーはどのような参加方法がありますか
けんすう:例えばVoicyとのコラボという事例があるんですけど、SNS上でこのslothをプロフィールに設定したり投稿すると『ああ、この人Voicyが好きな人なのかな』っていうアピールができる。意外とこういう「好き」とかをアピールするのって難しいんですよね。あとはきせかえた状態でリアルなキーホルダーとかTシャツみたいなグッズにしてあげるとやっぱり嬉しい。
さらにこういったデジタルアイテムを交換したりすることもできる。アイドルのグッズショップがあっても2次の流通まで作るのって大変じゃないですか。ある意味、デジタルアイテムの共通規格が、人類史上初めてできたものなのがNFTなので、メルカリみたいなものが簡単にできちゃうんですよね。
ありがとうございました
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