- インタビュー
2023年08月18日
KDDI∞Laboとローンディールがタッグ、大企業→スタートアップのレンタル移籍加速への期待
KDDIとローンディールは今年5月、スタートアップでの業務経験を希望する大企業社員と、人手不足に悩むスタートアップ企業をマッチングする人財支援プログラム「side project with MUGENLABO」を開始すると発表しました。
ローンディールではかねてから「side project」を運営していましたが、これを事業共創プラットフォーム「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」のパートナー連合に参加する大企業82社とのマッチングにアレンジしたものです。
このプログラムでは、大企業の社員が3カ月間、就業時間の20%を目安に、研修の一環としてスタートアップの業務に従事します。スタートアップはプロジェクト単位で専門スキルを持った大企業の人財を活用でき、大企業の社員は、スピード感のある業務を体験できます。
side project with MUGENLABOには第一弾として、KDDI ∞ Laboパートナー連合からKDDI、テレビ朝日、日本電気(NEC)、日本郵便の4社が参加意志を表明しています。このプログラムが立ち上がった経緯や背景について、ローンディール代表取締役の原田未来さんに伺いました。
ローンディールさんと言えば、大企業の人材をスタートアップに〝レンタル移籍〟してもらい、そこからオープンイノベーションを生み出す支援を行う事業を8年やってらっしゃいます。これまでどういった苦労がありましたか?
原田:当社ではフルタイムで半年から1年間ベンチャー企業に参画するという取り組みを行っています。この点について、最初の大きな課題は大企業に納得してもらうことでした。というのも、社員にベンチャー企業で経験を積んでもらうという行為の直接的な費用対効果が見えづらい部分があるからです。この問題をどのように解決し、育成効果に確信を持ってもらうかが、一つの難題でした。
しかしながら、この課題に対しては、「人生100年」やオープンイノベーション、働き方改革、人的資本経営といった、さまざまな議論や流れがあります。日本の大企業でも、何かを実現するためにはまず人が重要であるという認識が強まっています。その結果、私たちの取り組みに賛同していただける企業が増え、現在では70社以上の大企業が導入してくださっています。ここまでの道のりは困難もありましたが、それを乗り越えて来られたことが、私たちの一つの成功だと考えています。
その一方で、現在も課題は残っています。ベンチャーを経験した後にその経験をどのように大企業で活かすかという点です。事実、ベンチャー経験者は大企業の中では少数派で、その経験を組織が生かすことが難しい場合があります。私たちは現在、どのように組織改革を進め、ベンチャー経験者を活かせる環境を整えるかという課題に取り組んでいます。
プログラム概要
今おっしゃった、大企業で育った人々にとって、ベンチャーを経験した後にその経験をどのように活かすか、ベンチャー経験者を活かせる環境を大企業でどう整えるかという点については、どのようにすればいいか。その方法は見えていらっしゃるでしょうか。
原田:今回の話題とも関連していますが、私たちは、外部の知見を持つ人材を(大企業の中に)増やすことが重要だと考えています。自身のやり方に固執するのではなく、さまざまな人々が異なるアプローチを持っていることを理解し、外部の経験を通じて自社の組織を変革する可能性を探ることが大切だと思います。
そのためには、こうした視点を持つ人材の比率を組織内に増やすことが重要です。もちろんフルタイムのレンタル移籍という形でベンチャーを経験してもらうに越したことはないのですが、それでは時間がかかりすぎます。。就業時間の20%程度であれば、外部を経験した人材を一気に増やせるのではないかと考えています。この思考が、私たちが「side project」というプログラムを立ち上げた背景です。
これまで私たちはフルタイムでの丁寧なサポートを行い、高品質なサービスの提供を目指していました。ですから今回の、20%というプログラムにおいても、単に稼働時間を削減し、経験の質を落とすのではなく、新たな価値をどのように創出できるかという点に注力しました。
短い時間ではあるけれど、質を低下させず、新たな価値が提供する方法を模索する。これはなかなか難しいことです。さまざま試行錯誤を重ねられたと思います。ローンディールさんのノウハウになるかもしれないですが、お話になれる範囲で、何がポイントになるのでしょうか。
原田::最初の重要なポイントは、事前にしっかりとワークショップを実施することです。単にマッチングを行うだけでなく、参加者が自身の目的や、WILL(意思)やCAN(できること)を明確に言語化し、なぜ参加するのか、そして自分の能力をどのように活かすのかを理解した上で参加していただくことが重要です。
次に、私たちのプログラムは誰でも参加できる仕組みではありません。マッチングが成立し、ベンチャー企業から承認を得た人だけが参加できるシステムを構築しています。このため、研修プログラムのように誰でも参加できるものではなく、真剣に取り組む意思を持ち、選ばれた人だけが参加できるという一定のハードルが設けられています。20%の枠組みではありますが、一定のハードルがあることが特徴的です。
3つ目のポイントは、参加する人数を増やすことです。1人だけを試験的に送り出すのは効果が薄いと感じました。組織の規模によりますが、一定の規模の組織から一定の人数を送り出すことを目指しています。過去には年間1人や2人程度のレンタル移籍というケースもありましたが、KDDIさんからは今回、同時に16人もの人材がプログラムに参加されています。このように規模が大きく変わると言えます。
他の企業の事例では、例えば10人程度の新規事業部門から5人程度の人材が送り出すということがありました。新規事業部門の約半数が同時にベンチャー体験をすることは、組織に与えるインパクトが大きいと考えられます。レンタル移籍では深く関与することができますが、今回の取り組みではより広範な影響を及ぼし、組織の変革を促進するというのが3つ目のポイントです。
ワークショップの様子
大企業からの人材を迎えることで、スタートアップにはどんなメリットがあるんでしょうか。
原田:実際の取り組みを通じて気づいたことの一つは、スタートアップでは緊急性が低いが重要なタスクが見落とされやすい傾向があるという点です。
例えば、規模の小さなスタートアップでは、社員の給与を手動で振り込んでいたりします。会計ソフトの導入やシステムによる自動化が可能ではありますが、スタートアップでは現状その余力がなく、手作業で対応せざるを得ない状況があります。こうした課題に対処するには、会計ソフトの導入や適切な就業規則を作成する能力を持った人材が必要となります。
営業面においても、特定の業界に留まらず異業種への展開やBtoBへの転換など、リソースの制約からすぐに対応できない課題が多く存在します。こうした課題は、経理や人事の知識を持つ人材が参画することで、3ヶ月の期間内に一定の進展を見込むことができます。適切な業務の分割方法やノウハウを持つと、このようなリソース制約を克服できることが分かってきました。
私たちは分割方法の実例やモデルケースを約100パターン用意し、アドバイスを提供しながらサポートしています。これにより、スタートアップが一時的な人材を受け入れる際のノウハウを蓄積し、貢献することが可能だと考えています。
side project with MUGENLABO には、どのくらいの方々が参加されるのでしょうか。
原田:KDDIさんは第1バッチから参加される予定で、全社から募集により16人の人材が参加しています。テレビ朝日さん、日本電気(NEC)さん、日本郵便さんは9月から始まる第2バッチからの参加です。現在、KDDIさんはじめ(MUGENLABO 以外からの side project 参加者も含め)5社55名の方が、6月から第1バッチのオリエンテーションを開始しています。
KDDIさんではオンライン説明会を開催し、社内公募という形で有志の方々が参加しました。30代半ばで将来のキャリアについて考えている方から、40代後半で一定のキャリアを築いたが、自身のキャリアを社外でどう活かせるか試してみたいというモチベーションを持っている方まで、さまざまなバックグラウンドを持っておられます。職種で見ても、総務やバックオフィス関連の方から営業の方までさまざまです。
プログラムの実践フェーズが始まると、どのようにフォローアップするのですか。
原田:毎週、週報の形で振り返りを行っていただき、さらに月に1回は合同の振り返り会を設けています。この会には同時期にプログラムに参加している方々が集まり、過去1ヶ月間の活動や学んだことを共有します。このフレームワークにより、参加者同士が互いの経験を深め、新たな刺激を受けることが可能となっています。
3ヶ月間のレンタル移籍期間を終え、そのスタートアップに興味が出て、本当に転籍(転職)したいというケースは出てきませんか。人財を送り出す大企業にとってはリスクですよね?
原田:昨年のトライアルやレンタル移籍の結果を見てみると、参加者が自身の置かれている環境を客観的に観察する機会が増え、その結果、元の所属会社の良さを新たに認識するケースが多く、この経験が必ずしも転職へと繋がるわけではないようです。むしろ、参加者が多様な知見を得る機会として強調されます。過去のレンタル移籍のケースでは、半年や1年の参加後に戻ってきた人々のうち、1年以内に転職を選択した割合は非常に低く、3〜4%に過ぎません。
大企業に戻ってからは、新規事業を立ち上げている方々も確かにいらっしゃいます。しかし、プログラムへの参加は、主にきっかけ作りの役割を果たします。アンテナを張り、社外での新たなアイデアや可能性を探求するきっかけとなるものです。正直に申し上げると、わずか20%の業務時間で3ヶ月間参加しただけで新規事業を立ち上げることができると期待するのは過度です。ですから、このプログラムは新たな始まりの一歩として捉えられるべきだと考えています。
KDDI ∞Labo との取り組みを通じて、ローンディールさんとして期待されていることは何ですか?
原田:まずは、私たちはスタートアップとのネットワーク構築の重要性を強く認識しています。現在、レンタル移籍を含めて約600社とのつながりを保持していますが、新たな視点やオープンイノベーションを推進するためにも、さらにネットワークの拡大が必要です。スタートアップ側に適切な受け皿がなければ、この取り組みは広がりません。そのため、共に強固な受け皿を作り上げることが求められます。
そして、大企業とスタートアップ間でオープンイノベーションを実現するためのノウハウは、KDDIさんがお持ちだと私たちは考えています。そのノウハウを活用し、人々の交流が生まれた後も、「人々が交流できて良かった」という結果だけでなく、その交流をきっかけに新たな事業が生まれるような具体的な成果を創出したいと考えています。
ありがとうございました。
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