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2026年01月21日

KOIF Go Global Session 海外市場に挑むための、マインドセットとEXIT戦略


KDDIは500 Global社と共催で、「KOIF Go Global Session Vol.1」を開催した。本イベントは、海外展開時に必要なマインドや、生じる課題への対応力を身に着けることが目的だ。本記事では、グローバルビジネス有識者による「グローバルマインドセット」と「EXIT戦略」を深く掘り下げた2つのセッションの模様をお届けする。


KDDIが語る「スタートアップと共に世界へ」の決意

KDDIオープンイノベーション推進本部 副本部長 舘林 俊平氏

イベントは主催者であるKDDI舘林の挨拶で幕を開けた。この度の新体制移行と「KDDI Open Innovation Fund V(KOIF V)」設立は、「スタートアップと共に世界へ挑戦する」という明確なビジョンの表明だとしている。

舘林はこれまでのオープンイノベーションの活動を通して、「日本のスタートアップの海外進出は容易ではない」という現実を学んだ結果、「経営者がグローバルに向けたマインドセットをどれだけ作っていけるか」が非常に重要であるということに気が付いたという。
「今日の学びに留まらず、海外進出に必要な課題や不足している要素を具体的に洗い出し、今後のKDDIのグローバル支援の方向性を一緒に作ってほしい」という強いメッセージが参加スタートアップへ伝えられた。

500 Globalの圧倒的な実績とグローバルネットワーク

500 Global松田氏

500 Globalは2010年創業のシリコンバレーに本社を置くベンチャーキャピタル(VC)であり、当初から「世界中にユニコーンを作れるタレントがいる」ことを信じて投資を展開してきたと500 Global松田氏は語る。その結果が、80カ国以上、3,000社を超えるポートフォリオ企業であり、これまでに35社以上のユニコーン企業を育てたという圧倒的な実績である。

同社の最大の強みは、広範なグローバルネットワークにある。これは単なる投資先のリストではなく、投資先企業や共同投資家、そして世界有数のアクセラレーターとしての活動を通じて構築された、4,000社以上のスタートアップを含むコミュニティなのだ。このネットワークを最大限に活用し、投資先企業の世界中のマーケットアクセスを可能にしている点が、他のVCとの大きな差別化要因である。

また、国内の投資家向けにグローバルマインドセットを学ぶ教育プログラムを展開するなど、日本のスタートアップエコシステム全体のグローバル化に貢献しており、今回のKOIF Go Global Session Vol.1は、このような協力関係のもと、共同で開催されたものである。

セッション①:世界市場で戦うための「グローバルマインドセット」

本セッションでは、シリアルアントレプレナーであり投資家であるJanko Milunovic(ヤンコ・ミルノビッチ)氏が登壇した。同氏は、9カ国以上での居住経験や、ヨーロッパから米国への事業展開支援 などの豊富な経験を持ち、創業者がグローバル展開を成功させるための「思考の変革」について具体的な事例を交えて解説した。

グロースマインドセットの定義と「凡庸さ」の回避
セッションでは、企業の価値評価と成長の可能性について、PayPalとDropboxの成功事例が提示された。

グロースマインドセットとは、「これが本当に最善か?」「もっとできることはないか?」と常に自問自答し、自分自身の限界や戦略、野心、可能性などを疑うことにオープンでいる姿勢である。
これを実践する第一歩は「気づく(noticing)」ことであるとJanko氏は語る。「知ることへの障害は、気づくことができないことである」という言葉が示す通り、成長や改善のためには、まず何が改善できるかに気づく必要がある。

また、Dropbox創業前のHouston氏の事例を通じて「凡庸さ(mediocrity)」を避ける重要性が説かれた。彼は凡庸だと感じた状況から抜け出すために退職し、Dropboxを創業した。自分が凡庸であることに気づき、変化を起こすためには、測定し、観察し、異なる考え方を受け入れるオープンさが必要であると説明した。

「F1カー」から「飛行機」へ。成長の乗り物を変えるタイミング
事業の成長は、乗り物に例えることができるとJanko氏は言う。

-F1カー:国内市場など、舗装された道(既存市場)で最速を目指すモデル。
-飛行機:海を越え、世界へ展開するためのモデル。

F1カーは短距離では飛行機に勝てるが、長距離では決して勝てない。重要なのは、「いつF1カーから飛行機に乗り換えるか」を計画することである。

日本国内で成功を収めることは素晴らしいことだが、グローバルな成長を目指すなら、どこかのタイミングで「翼をつけ、飛び立つ」必要がある。それは事業モデルの変革かもしれないし、海外パートナーとの提携かもしれない。自社の「フィニッシュライン」をどこに設定するかで、選ぶべき乗り物は変わってくる。

Janko Milunovic氏

成功の鍵は「人」。PayPalマフィアが証明した最強チームの作り方
PayPalの初期メンバーがYouTubeやTeslaなど巨大企業を設立した「PayPalマフィア」の事例は 、卓越したチームの重要性を証明している。また、Googleの創業者たちがCEOにEric Emerson Schmidt(エリック・エマーソン・シュミット)氏を選んだ決め手は、カルチャーフィット、すなわち過酷な状況を共に乗り越えられる信頼関係であった。

「戦略はカルチャーに食われる」という言葉が示す通り、どんなに優れた戦略も、実行するチームと文化がなければ達成できない。自社のビジョンに共鳴し、共に成長できる最高のチームを築くことが、経営において最優先事項であるとJanko氏は語った。

リーダーは自分自身に投資せよ!最高のパフォーマンスを生む自己変革
テニス界の王者Novak Djokovic(ノバク・ジョコビッチ)選手が成功の要因としてチームの存在を挙げ、食生活の改善など自己の肉体と精神に徹底的に投資し、イノベーションを起こし続けてきたことは周知の事実である。

企業のリーダーも同様であり、会社の成長ステージに応じてリーダーに求められるスキルも変化する。リーダーは、コーチングによるコミュニケーションスキルの研鑽、セラピーやトレーニングによる心身の健康維持、そして自身の思考パターンの客観的な見直しと改善といった自己成長への投資を怠ってはならない。

リーダー自身の成長なくして企業の持続的な成長はあり得ないため、最高のパフォーマンスを発揮するために、まずは自分自身を最高の状態に保つことが重要である。

爆発的な成長を遂げる企業は、単に運が良かったわけではなく、彼らは高い目標を掲げ、それを実現できる最高のチームを築き、圧倒的な実行力で計画を推し進めている。そしてその根底には、常に自己変革を恐れない「グロースマインドセット」があると、Janko氏はその重要性について改めて強いメッセージを伝えた。

ワークショップによるマインドセット
日本におけるイノベーションの現状にも言及された。過去のイノベーションの「黄金時代」が終わり、近年世界を革新するスタートアップが日本からあまり出ていないという厳しい現状を指摘した。
しかし、ユニコーン企業であるSmartHRや、AI分野で注目されるSakana AIといった成功例にも触れ、参加者に対し「あなたは次のユニコーンになれるか?」と問いかけ、野心を持つことを強く促した。そして、自らの野心のスケールとグロースマインドセットを行うためのワークショップも実施された。

セッション②:グローバル展開を見据えた思考とEXITを意識した経営者の在り方

セッションの様子 <左:500 Global松田氏 右:Gonçalo Fortes氏>

セッション②では、スタートアップ「Prodsmart」を立ち上げ、グローバルに事業を拡大し、最終的に大手ソフトウェア企業Autodesk社へのEXITを成功させたGonçalo Fortes(ゴンサロ・フォート)氏の経験に迫るインタビューイベントの模様をレポートする。なお、本セッションではモデレーターとして500 Global松田氏も登壇した。

ポルトガルの小さなソフトウェアハウスから始まり、世界市場へと挑戦し、成功を収めるまでの道のり、そしてその過程で彼が何を考え、どのように行動したのかを解説する。

作る前に支払いを得る「検証主導の販売」の思想
コンピュータサイエンスを学んだポルトガル出身のGonçalo氏は、3人規模の受託ソフトウェアハウスとして創業した。しかし、「Silicon Valley Comes to Lisbon」を契機に、中小製造業向けの生産工程追跡プロダクト「Prodsmart」への戦略転換を決断した。これは、非構造化された産業データを処理するという、当時としては革新的なコンセプトであった。

欧州での資金調達を試みたが、この結果は失敗に終わった。その後、Gonçalo氏は顧客開発とリーンスタートアップの原則を徹底した。見込み客に「これを構築したら、お金を払いますか?」と尋ね、イエスと答えた顧客には即座に前払いを求め、これを強力な検証手段とした。Gonçalo氏は販売を単なる取引ではなく「検証」と位置づけ、組織の重点をエンジニアリングから販売へとシフトさせる思想を確立したのである。

アグレッシブな価格戦略と資金調達の効率化
ポルトガルは優れた市場である一方、規模には限界があるため、Prodsmartは創業当初から世界市場での成長を前提にした事業設計を行っていた。欧州での試行錯誤を経て、翌年にはサンフランシスコへ拠点を移し、グローバルスケールでの事業展開とVCへのアクセスを結びつける環境に身を置いた。
小さな市場での成功は一定の手応えにはなるものの、その先の成長機会が限られるため、最初から国外に出ることを前提に設計することが重要であると述べた。

米国移転後、彼は価格設定を戦略的な検証対象と捉え、市場の反応を見ながら段階的に価格を引き上げるアグレッシブな取り組みを実行した。その結果、想定以上の価格帯でも受け入れられることが明らかとなり、価格は単なる収益手段ではなく、企業文化や顧客からの信頼を形づくる要素であるという認識を得た。そして、その妥当性を判断する唯一の方法は机上での議論ではなく、実際に販売し、市場と向き合うことだという学びに至った。

成長というと顧客数を増やす発想に偏りがちですが、価格そのものを戦略的に捉える視点は示唆的だと感じました。
日本では長年価格が安定してきた背景もあり、グローバル展開を目指す創業者にとっては、価格戦略をどう設計するかを改めて考える必要があることを示す事例だと思います。

松田氏

米国進出にあたっては、高額な人件費を懸念する取締役会の反対があったが、「安全な道より挑戦」を選び、ポルトガル国内の成長限界を示すデータで取締役会を説得し、米国進出を決行した。組織構築においては、人件費の高い米国ではセールスやマーケティングなど文化的な近接性が求められる職務に絞って現地採用し、エンジニアリングなどの職務はポルトガルに残すなど人件費の調整を図った。しかし、スケーリング前のVP of Sales採用は時期尚早な失敗であったと分析し、再び自らが現場でボトムアップのプロセス再構築を行う道を選んだのである。

アメリカに行くというのは全員一致の決定ではなかったということですね。しかし、自分が行くべき道がそこだと分かっていたので、強引にでも進める必要があった、つまり、Gonçaloにはビジョンがあったのですね。

松田氏

創業者が語るEXITの葛藤と合理性
スタートアップの資金調達は、時間とコストがかかる。
資金調達も「営業」として捉え、効率化させる必要がある。VC専用のCRMを構築して、見込み投資家の情報を管理
し、起業家ネットワークを起点に需要を創出した。1日に複数の面談を実施し、短期間で最適な調達タイミングを
判断することで、営業や開発に専念できる体制を整えるべきだとGonçalo氏はいう。

またEXIT戦略において、創業者がコントロールできるのはIPOのみであり、M&Aは「企業は売られるのであって、売るものではない」という言葉通り、買い手の意向に依存する。
Prodsmartは最終的にAutodesk社に買収されたが、これは財務的合理性による決断であった。
しかし、創業者にとって買収は「成功の証」である一方で、目的の喪失やアイデンティティが揺らぐほどの、大きな感情的葛藤を伴う経験であったとGonçalo氏は語った。

日本文化に傾倒した「武者修行」
Gonçalo氏は親日家であり、退任後は日本で6か月間の「武者修行」(居合道や滝行など)を通じて自己と向き合い、レジリエンスを再構築したという。
修行の地は対馬であり、早朝9時には、僧侶がマントラを唱える中、凍てつく滝の下で1分間耐える滝行に挑戦。この修行は、長年の経営者としてのプレッシャーを解放し、心身を再構築するためにとても有効的な時間であったとGonçalo氏は当時を振返った。

Gonçalo氏は現在新しいプロジェクトに取り組んでいる。しかし、以前経験していたプレッシャーとは異なり、今は過去の経験から自分に自信が持て、非常にリラックスした状態で業務に従事できていると語り、EXITが新たな学びと自己変革の始まりであったことを示唆した。

セッション全体から得られた知見とKDDIの継続支援

2つのセッションを通じて、参加者はグローバル市場で成功するために不可欠な「グローバルマインドセット」と「EXIT戦略」という両輪の重要性を学んだ。文化の壁を越える柔軟な思考法から、EXITを見据えた資本戦略まで、スタートアップが直面する課題に対する具体的な示唆が提示された。

本イベントは、参加者の世界市場への飛躍を後押しする第一歩である。KDDIは、今後も「KOIF Go Global Session」を継続的に開催し、スタートアップのエコシステム全体への貢献を深めていく。

登壇者

Janko Milunovic

ソニーの新規事業開発を皮切りに、欧州大手銀行のデジタル部門責任者やStartupbootcamp BerlinのCOOを歴任したシニアリーダー。Bstorm共同創業者としてバイアウトも経験し、現在はPayment24の取締役やOneDay.orgのEIRを務める。500 Globalのメンターとして世界中の起業家を支援しつつ、Hatchers AIの創業者として、テクノロジーと金融の最前線でイノベーションを牽引。

Gonçalo Fortes

Forest.AIの創業者であり、Endeavor Portugalの取締役も務める起業家・投資家。
金融ソフト開発のCrazydog、2022年にAutodeskへ売却した製造DXのProdsmartなど複数の起業を成功に導いた。買収後はAutodeskの製品管理ディレクターとして現場革新を牽引。現在は500 Globalのメンター等を通じ、AIを活用したPMF達成の支援に尽力。SFやコミックを愛する、情熱的な連続起業家。

Jeff Matsuda

500 Global 日本カントリーヘッド、カリフォルニア大学バークレー校卒業、コロンビア大学修士課程修了。
20年以上にわたり、モルガンスタンレーやUBSで金利トレーディング、OYOやDelivery Hero等のグローバルベンチャーで最大300人の部門統括、スタートアップの共同創業、日本法人の立ち上げやカントリーマネージャーも複数歴任。0→1、1→100の両フェーズに通じ、新規事業、新市場参入、営業戦略、業務設計まで幅広く経験。現在はスタートアップ支援とエグゼクティブコーチとして活動中。

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