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2024年11月12日

日本 vs. 世界「スタートアップ格差」を埋めるにはーー国際競争力復権へのシナリオ

Forbes JAPAN
谷本 有香
執行役員 Web編集長
デジタル庁
村上 敬亮
統括官 国民向けサービスグループ長
株式会社スペースデータ
佐藤 航陽
代表取締役社長
KDDI株式会社
中馬 和彦
オープンイノベーション推進本部長

9月3日と4日の2日間、KDDIは都内で「KDDI Summit 2024」を開催。イベントの締めくくりとして「スタートアップと切り拓く日本の未来」と題するパネルディスカッションを実施いたしました。


日本のスタートアップや起業家が、グローバルでさらに活躍するには何が必要かを議論するこのセッションに参加したのは、デジタル庁 統括官 国民向けサービスグループ長の村上敬亮氏、スペースデータ 代表取締役社長 佐藤航陽氏、KDDIオープンイノベーション推進本部長 中馬和彦氏の3名で、モデレータは、Forbes JAPAN執行役員 Web編集長の谷本有香氏が務めました。


世界との格差はどこから生まれるのか


Forbes JAPAN執行役員 Web編集長 谷本 有香氏

セッション冒頭、モデレーターを務めた谷本氏は日本と世界の時価総額トップ10企業を比較したスライドを提示し、今、日本のスタートアップが置かれている状況を端的に示します。
解説によると、世界のトップ10企業の半数以上が創業30年以内のいわゆるスタートアップ由来の企業である一方、日本のトップ10には古くからの大企業が並び、スタートアップはトップ100にも入っていない現状があるというのです。

では日本の経済構造や企業文化のどのような特徴が、スタートアップの成長や時価総額の拡大を妨げているのでしょうか?
村上氏はイグジット戦略の一つであるM&Aにおいて、経営判断の構造的な問題、また欧米のスタンダードを画一的に採用したことから生まれた弊害を指摘します。

(買収の)担当者は、特定の市場やトレンドを見て提案するんですが、一方で、経営会議のボードメンバーは、事業ポートフォリオ全体を見ているので、(買収担当者が提案する)尖った戦略が通りにくい現状があります。また、日本企業は、2000年代に欧米流のコーポレートガバナンスを導入したことで、個性ある企業が均質化してしまいました。かつてのソニーのような、おもちゃ箱をひっくり返したような面白いことをやっている人がたくさんいて、経営陣が面白いプロジェクトを拾い上げていくというダイナミズムが失われたのかもしれません。

村上氏

スタートアップエコシステムを構成する大企業側の課題を挙げた村上氏に対し、シリアルアントレプレナーで、創業した企業を上場に導いた経験を持つ佐藤氏は、自身の過去も振り返りながら、日本のIT業界やスタートアップ業界の成熟度の低さに言及しました。


スペースデータ 代表取締役社長 佐藤 航陽氏(写真中央)

かつては技術があって、ビジネスモデルが当たれば何とかなるだろうと思っていたこともあります。しかし地球全体をちゃんと捉えて、社会構造も踏まえた上で自分たちの立ち位置を考えないと、(世界のスタートアップとの)この差は永遠に縮まりません。

政府の方と話すと、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)は自然発生的に生まれたものだと捉えているようですが、実際は国と起業家が連携しながら、ほぼ国策に近いレベルで産業を作り上げています。同じ土俵で戦うには、日本も同様のアプローチが必要かもしれません。

佐藤氏

起業家を増やすための機運づくりとともに、構造的に彼らの成長を促す仕組みづくりは、積極的に進めていく必要がありそうです。

日本にGAFAが生まれないワケ

GoogleやFacebookなどの海外テック企業の経営陣が考えている事業レイヤーと、日本のスタートアップが考えているレイヤーにはまだまだ大きな差がある。そう指摘するのはシリアルアントレプレナーであり、現在宇宙スタートアップ「スペースデータ」を創業した佐藤航陽氏です。

上場企業経営の経験もある佐藤氏は、日本のIT業界とスタートアップ業界がまだまだ発展途上にあると振り返ります。特に強調したのが技術やビジネスモデルだけでなく、政治や地政学的な要素も含めた「立体的な把握」の重要性でした。

私も15年ぐらいスタートアップ、ITの世界にいて感じていましたが、やはり自分たちは幼かったと感じています。当時のGoogleやFacebook(現在のMeta)の経営陣が何を考えて経営されてるのか、という話を聞くとやはり全然レイヤーが違うんですよね。私たちも当時、メルカリなどが出てきた瞬間も一緒にいましたけども、やはり技術があってビジネスモデルが当たれば何とかなるだろうというのが大きかったと思います。

一方、その裏側にある政治だったり地政学だったり、いろいろな関係者が絡み合ってこの世界全体ができてるということをちゃんと立体的に把握できてなかったんです。裏側があるという社会構造も捉えた上で『自分たちはどこにいればいいんだっけ、何をすればいいんだっけ』ってことを考えない限り、永遠にこの差は縮まらないなと思ってます。

佐藤氏

佐藤氏は行政関係者などの識者との会話を通じ、しばしば「GAFAはなぜ日本に生まれないのか」というテーマで意見交換することがあるそうです。その際、佐藤氏はある発言にショックを受けたと次のようなエピソードを話しました。

結構ショックだったのが、ああいうもの(GAFAのようなビックテック)は『自然発生的に生まれた』ものであると認識されていることなんです。私が知ってる範囲でお伝えすると、国と起業家、場合によっては軍隊のような組織も含めて全員が連携しながら、ほぼ国策に近いレベルで産業を売っていこうとしているからあれができるんです。

確かにブランディング的にはパーカー着たお兄ちゃんがシリコンバレーから出てきてあっという間に何百兆円の会社になった、というストーリーを被せているんですが、実際の裏側は大人たちも含めてしっかりルールメイキングをして産業を作っている。そういうプレーの上で成り立ってるという話なんです。

佐藤氏

また、起業家の意識についても佐藤氏はその意識改革が必要だと訴えます。
海外のベンチャーキャピタリストが世界中のシリアルアントレプレナーを調べたところ、多くの国では2回目のチャレンジをしているか、自身がインキュベーターとなって新しいベンチャーキャピタルを始めているそうです。

一方、日本では途上で「自分が成功したら社会に還元する」という意識がまだまだ希薄なのでは、と指摘しました。佐藤氏は、起業家自身が「国のイノベーションと未来に重要な存在である」という自覚を持つことの重要性を強調し、「経済の端っこにいる」という感覚から脱却する必要があると強調しました。

〝ウミガメ起業家〟の少なさと、5年先を知る3階層目の人々の存在


デジタル庁 統括官 国民向けサービスグループ長 村上 敬亮氏

ウミガメは砂浜で生まれ大海へと旅立ち、産卵期に再び生まれた砂浜へと戻ってきます。転じて、母国から海外へと旅立ち、現地でスタートアップで働いたり起業したりした後、母国に戻って新たなスタートアップを始める起業家のことを、一部ではウミガメ起業家と呼んでいます。自身もシリコンバレーでVCとして働いた経験を持つ村上氏は、現地での日本人起業家の少なさを肌身で感じた一人です。

中国のスタートアップエコシステムでは、アメリカで学び、経験を積んだ人材が中国に戻って起業するモデルが確立されています。
しかし、日本人の起業家がシリコンバレーには、まだまだ少ない現状を憂慮しています。

村上氏

現在、シリコンバレーでの起業家の約半数が中国人かインド人であるという事実は、日本のプレゼンスの低さを浮き彫りにしています。
時代背景や環境が急速に変化する中で、起業家に必要な力ーー未来を生み出す価値を培う力は育めるのでしょうか。村上氏は従来のMBA教育では不十分だと指摘し、ビジネス環境における「階層」の重要性を強調します。

音楽産業で言えば『レコードがCDになって、DVDになって、ブルーレイになって、次は何になるんだろう』という従来の日本的な見方ではなく、『iPodが来て、Spotifyが来て、Apple Musicが出てきた』というように、カテゴリ自体を創造していく視点が重要です。

村上氏

ここで注目すべきなのは、レコード、CD、DVD、ブルーレイが単一機能がそのままアップグレードしているのに対し、iPod、Spotify、Apple Musicは、従来あったサービスの複数の機能を融合しているという点です。言い換えれば、こうして生まれた新製品や新サービスは「カテゴリディスラプター」とも呼べるでしょう。

村上氏は、こうした単一の製品やサービスを生み出す起業家を1階層目と定義した場合、それらを横断・複数束ねる製品やサービスを見ている人たちを2階層目、そうして積み上げて行った先にある3階層目にいる人たちは、5年後の勝者を知っていると述べ、高い階層にいる人ほど長期的な予測が可能になると説明しました。

それは単に未来を知っているということではありません。5年後に勝つ企業や技術は、この世界のどこかで静かに開発が進められているんです。それがどこにあるのか、どのような条件で勝ち上がるのか、そしてそのときの競合が誰になるのかを把握することが重要になってきます。

村上氏

村上氏は、特に宇宙産業は新しい市場が開かれたばかりであるため、これまでにない規模のマーケットが、ブルーオーシャンとして広がっていく可能性が高いと見ています。
多様なプレイヤーが連携し、表からは見えないコミュニティを形成しながら、新たな価値を生み出していくところに、日本企業にもチャンスが大いにあると語りました。

国際競争力復権へーースタートアップとつくる未来

佐藤氏は、スタートアップや起業家の成熟度を高める上でも、シリアルアントレプレナー(連続起業家)の世代横断、キャリア横断的な繋がりが重要になってくると語ります。

アメリカや中国やヨーロッパの起業家は、自分が成功してお金持ちになって有名になったら終わりではダメで、社会にお返しするような行動をしなければいけない、という義務感みたいなものを持っているんではないかと思います。

佐藤氏

佐藤氏の話を聞いて村上氏は、時間をかけて若手を育て上げるキャリアパスが形成されてきたスポーツ界、特に、野球やサッカーで先人達が苦労してきたことを指摘しました。
日本出身の若手アスリートが近年、メジャーリーグやワールドカップなどで活躍することが増えたのは、このアマチュアからプロ、ユースからプロへの道筋が形成されたことも影響しているからです。

また谷本氏は自身が編集長を務めるForbes JAPANの人気企画「FORBES JAPAN UNDER 30」を引き合いに、国内のビジネス系若手人材層の薄さとその構造的な問題を指摘します。

実は我がForbes JAPANの「FORBES JAPAN UNDER 30」では、毎年いろんなカテゴリーから30歳以下の30人を選んでるんですが、とにかくビジネス部門を選ぶのが大変なんです。アスリートとかアーティストはすぐ埋まるけれども、毎年、毎年ビジネス界の方たちを選ぶのが難しい。実はこれは日本だけの事情と言われてます。つまり若い子たちに権限がいかなかったり、そういう若い人たちがやりづらいような社会構造が、こういったところにも出てきているんではないでしょうか。

谷本氏


KDDIオープンイノベーション推進本部長 中馬和彦氏

起業家も同じです。
初めてスタートアップする起業家は、その先を走る先輩起業家、経営者の背中を見て育ちます。しかし、現在の日本には決してその「起業家のキャリアパス」が明確にはなっていないのかもしれません。
村上氏や佐藤氏の議論を受けて中馬氏は、骨太の起業家が日本で育ちにくい環境の根底には、エコシステムやプラットフォームの構築に対する理解不足があるとして、日本の産業構造の変革が必要だと指摘しました。

スポーツでは、アスリートが長い期間にわたって力をつけ、次の世代を育てるためのシステムが整備されています。一方で、ビジネス界ではそのようなシステムが十分に構築されていないのが現状です。ビジネスでも長期的な視野を持ち、世代を超えたリーダーシップを育てることが、持続可能な成功を実現するために必要だと思います。

中馬氏

野球やサッカーの世界のように、起業家にもアマチュアからプロ、ユースからプロといった自然に登れる道のりが必要なのではないか。またそれを支える環境こそ、エコシステム全体で作るべきではないだろうか。
この長期的な視点に立った仕組みづくりこそ今の日本、産業界に必要とされている、そう語る中馬氏はこのセッションの参加者たちに向けて次のようにメッセージを送りました。

日本では、エコシステムやプラットフォームなど、形のないものを作り出すことが非常に難しい。これらは、単に技術力や製品開発の問題ではなく、イノベーションを支える制度や文化、さらに、自己増殖していくような仕組みを設計し、推進するためのリーダーシップの不足が大きな要因です。
(日本は)モノ作りで成功してきたがゆえに、モノを作ることにしか投資していない、人に投資していないことが、この20年を生み出しているんじゃないでしょうか。リスクを恐れずに先導する人材や、複数のプレイヤーが協力し合うエコシステムが形成されてこそ、長期的に持続する成功をつかむことができるはずです。

ビジネスにおいても、単に短期的な利益を追求するのではなく、長期的な視野とリーダーシップが求められます。特にグローバル市場で成功を収めるためには、世界のトップを目指すための明確なマイルストーンを設定し、それに向けた長期的な計画を持つことが重要になってくるでしょう。

だからこそ、日本の大企業は、スタートアップ支援においても重要な役割を果たすべきです。単に資金を提供するだけでなく、スタートアップがグローバルに成功するために必要なエコシステムやインフラを提供する責任があります。特に、次世代のイノベーションを推進するために、企業の内部だけでなく、業界全体での協力が必要だと思います。

中馬氏

日本のスタートアップが成長し、次の日本を担える産業を生み出すことができるか。まさに今、私たちが直面しているこの時代にこそ、その答えが隠されているのだと思います。

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