- インタビュー
2022年03月08日
ネットとソフトで仕組みを変えて産業を変革 - ラクスル 松本恭攝氏
KDDIはこの度「KDDI ∞ Labo」立ち上げから10周年の感謝を込めて、書籍「スタートアップス -日本を再生させる答えがここにある-」を出版することになりました。MUGENLABO Magazineでは特別に、書籍の掲載内容の一部を切り出してご紹介していきます。
はじめに
第2章では「過去10年にスタートアップが引き起こした変革」として上場、M&Aなどの形でエグジットした8社のトップが、これまでの10年にそれぞれの領域で起こした社会の変革について語ってもらいます。今回はその中でもラクスル 代表取締役社長CEO 松本 恭攝 氏のインタビューの一部を特別にご紹介いたします。
インタビュー風景
ネットとソフトで仕組みを変えて産業を変革
起業のきっかけ「自ら仕組みを生み出そう」
起業を考え始めるきっかけとなったのは、2008年、新卒で就職したコンサルティング会社で知ったある事実です。入社と同じ年にリーマンショックが起こり、コンサルタントとして様々なクライアント企業のコスト削減策を考えることになりました。最も削減率の高い項目として印刷関連の費用が上がってきたのです。印刷業界を調べたところ、6兆円の市場に対して、上位2社でシェアの約半分を占めていることが分かりました。2社は多くの外注を利用しており、7〜8割の印刷生産が協力会社や外注によって賄われているのです。
そこからさらに二次受けや三次受けといった形で多重下請けになっている業界構造が、コスト上昇の要因でした。この点を理解すると、印刷関連はコスト削減のポイントが明確でした。実際に印刷している会社に直接発注できれば、コストを一気に下げられるからです。どの印刷会社がどういった印刷機を持っているのかを把握し、直接発注できれば、発注コストを抑えられるだけでなく、納期が早まり、下請けの印刷会社の取り分も増やせます。こういった仕組みがあれば、企業のコスト削減につながるだけでなく、印刷業界の構造を変革できるのではないかと考え、まずは同じようなアイデアを実践している企業がないかを探してみましたが、存在しませんでした。そこで、「自ら仕組みを生み出そう」と起業を決意したのです。
「産業の負」が残るBtoBの生産性を向上
2005年に発行された「フラット化する世界」が印象に残っているのですが、インターネットの登場で世界は大きく変わりました。1995年のWindow95の登場をきっかけに、先行したのはコンシューマーインターネットの領域です。米国のヤフー、アマゾン・ドット・コムなどの利用が一気に広がりました。2000年代に入ってスマホが登場して、Facebookに代表されるSNSが発達します。ゲームやエンターテインメントの市場はネットに適応する形で大きく姿を変えています。アマゾンが日本に上陸した時には、個人がネットを使っていても、クレジットカードの情報を入力するECは広がらないのではないかという考えも珍しくありませんでした。
しかし今ではワンクリックでの決済がごく当たり前のものになっています。個人に比べて業務でのネットの利用拡大は遅れました。B2Bの世界で情報革命、産業構造の変革が本格化したのは2010年代に入ってからではないでしょうか。BtoBの方が「産業の負」、つまり古い業界構造が温存されています。有力なB2Bのインターネット企業もこれ以前にはほとんど存在しませんでした。2010年代には、米国でUberやAirbnbといったサービスが登場し、世界で利用が拡大します。両社はサービスがデジタルだけで完結するのではなく、リアルにしみ出しているのが特徴です。
BtoCでもBtoBでも、デジタルとリアルが組み合わさったサービスは、未開拓の領域であり、大きな可能性があります。我々が手掛けているサービスも、デジタルで完結するのではなく実際に人や物が動くことでソリューションにつながるのが特徴です。労働人口が減る中で、日本企業の抱える一番の課題は生産性、特にホワイトカラーの生産性の向上です。人手不足の問題は常に指摘され続けてきました。今後は、これまで遅れていたデジタル化を推進し、一人当たりの生産性を現在の1・5倍くらいに上げていかなければ立ち行かなくなります。デジタルがリアルにしみ出したサービスは、生産性向上の起爆剤になるものです。
成長の軌跡知名度は上がったがまだこれから
創業から10年以上が経ち、最近では個人で訪れた個人経営の飲食店や小売店、あるいはギャラリーなどと話していると、かなりの確率で「チラシの印刷はラクスルです」と言ってもらえるようになりました。少し前までは「名前は聞いたことがある」といったところで終わっていましたから、手ごたえを感じています。中小企業や店舗商売を営む方々からの発注は確実に増えています。「ラクスルのおかげで助かった」や「ラクスルで時間が短縮できている」という声をいただく機会も少なくありません。印刷事業の年間売上は、まだ200億円程度です。印刷業界の上位5社に入るところまできましたが、最大手は売り上げが1兆円を超していますから、今後も成長の余地はいくらでもあります。
現在は、ラクスルとハコベル、ノバセル、ジョーシスの4事業を手掛けています。印刷、運輸、テレビコマーシャル、コーポレートITですから、それぞれに関連がないように思われるかもしれませんが、ベースは共通しています。デジタル化が進んでいない、もしくはインターネットによる産業構造の変化が起きていない産業、労働集約型で外部に依存する産業に対して、インターネット技術やソフトウエアを持ち込んで構造を変えていくことです。ゆくゆくはそれぞれの業界でプラットフォームになっていきたいですね。
- めぇ〜ちゃん
- 松本さんが語るこれからの10年とは何かが気になりますね。
続きは書籍「スタートアップス -日本を再生させる答えがここにある-」にてご覧ください!
「スタートアップス -日本を再生させる答えがここにある-」書籍概要
次の10年で、日本が世界での競争力を再生させていくうえで不可欠となる、スタートアップと大企業による事業共創がどのような変革をもたらすのか、過去10年で日本経済に影響を与えてきたスタートアップ企業トップへのインタビューを通じて明らかにする。
更に日本を代表するベンチャーキャピタル(VC、CVC)71社への調査を実施。ESG関連企業への投資意欲について分析するとともに、VC、CVC各社が推薦する有力スタートアップ92社をリストアップ。どのようなスタートアップたちが日本経済の再生をリードしていくのか、示唆を打ち出す。
目次
- 第1章「日本のイノベーション、これからの10年 スタートアップと大企業の共創で実現」
対談:SHOWROOM 前田裕二氏/小学館 畑中雅美氏/KDDI ∞ Labo 中馬和彦
- 第2章「過去10年にスタートアップが引き起こした変革」
上場、M&Aなどの形でエグジットした8社のトップが、これまでの10年にそれぞれの領域で起こした社会の変革について語る
◆ソラコム 玉川憲氏
「スウィングバイIPOでグローバルIoTプラットフォームを目指す」
◆ウォンテッドリー 仲暁子氏
「仕事に夢中になれる人を増やしたい」
◆ラクスル 松本恭攝氏
「インターネットとソフトで仕組みを変え産業のムダをなくす」
◆BASE 鶴岡裕太氏
「ロングテール対象にECを民主化」
◆マネーフォワード 辻庸介氏
「FinTechはこれからが面白い」
◆ビザスク 端羽英子氏
「エキスパートネットワークサービスを日本に定着」
◆オイシックス 高島宏平氏
「ECでサステナブルな食を届ける」
◆ビジョナル 南壮一郎氏/mediba 江幡智広氏
「今の日本には伸びしろしかない」
- 第3章「VC・CVC ESG関連スタートアップ投資動向調査」
8割超が重要テーマに挙げるが、リターンは未知数。日本のVC、CVC 71社のスタートアップへの投資方針、ESG分野の投資に対する意識などを独自調査から明らかにする
- 第4章「ESG関連有望スタートアップス VC、CVCが選んだ92社」
ESGの視点を意識しつつ、これからの10年で日本を変える可能性のある92社の有望スタートアップを紹介
https://www.amazon.co.jp/dp/4296110462/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_QT0RYMWY70JF6CJA8WY9
日本のスタートアップと大企業の共創がこれからの10年を創る
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