- インタビュー
2021年03月10日
店舗とサイト「間」の購買体験を探せーーアイスタイルとKDDI「@cosme TOKYO -virtual store-」での共創
- 株式会社コスメネクスト
坂井 亮介(写真右) - Flagship store事業部/@cosmeTOKYO
- KDDI株式会社
下桐 希(中央)、藤倉 皓平(左) - サービス統括本部
課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。
KDDIとアイスタイルは1月8日から、XRを活用したバーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」を提供開始しています。利用者はスマートフォン向けアプリ「au XR Door」内に設置された店舗へ仮想的に来店し、化粧品ブランドの購買体験を楽しめるというものです。
このバーチャル店舗では、花王の化粧品ブランド「KANEBO」「KATE」「SOFINA iP」の商品が販売されるほか、バーチャル空間で仮想的に商品を手に取ってテスターを利用したり、8K(5G推奨)の高画質できめ細やかに表現された店舗の内観や商品の色彩によって、実際に来店したような体験が可能になっています。KDDIとアイスタイルは今回のバーチャル店舗での取り組みを通じ、先端技術を活用したビジネスモデルの共同創出も狙うとしています。
アイスタイルでは2020年1月にJR原宿駅前に体験型のフラッグシップショップ「@cosme TOKYO」をオープンさせており、600ブランド2万アイテムを展開していました。両社は感染症拡大をきっかけにEC利用が拡大するなか、この店舗でのワクワクするような体験とXR・5Gを活用した完全非接触の購買を融合させた取り組みとして、今回のバーチャル店舗を開始しています。
本稿ではKDDI・アイスタイルの両社でこの共創案件を担当したアイスタイル坂井氏、KDDI下桐氏、藤倉氏のお二人に話を伺いました(文中の太字の質問は全てMUGENLABO Magazine編集部)。
スマホのみ「没入体験」への挑戦
バーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」においてユーザーは「au XR Door」アプリを立ち上げてスマホをかざすと、360°画像としてバーチャル店舗を歩き回ることが可能になります。
また、商品棚の前で手に取った商品をタップすると@cosmeの公式通販「@cosme SHOPPING」へ遷移し、商品購入ができます。行きたい場所についてはフロアマップから直接移動することも可能で、花王の商品の一部については各ブランド棚や店舗内1Fに設置されたテスターバーにて、テスターを使ったような体験ができるようになっています。
KDDIは今回の協業で5G・XR技術の提供を実施し、アイスタイルは「@cosme TOKYO」で得たリモート接客などのノウハウや@cosmeとのクチコミデータベースとの連携を担う、という分担になっています。
今回のバーチャル店舗設置の狙いについて教えてください
坂井:2020年1月にJR原宿駅前にオープンした新体験フラッグシップショップ「@cosme TOKYO」ではワクワクする空間やランキング売り場、手書きのポップ、カウンセリングなど店舗でしか体験できないお買い物の楽しさをお届けしており、600ブランド2万アイテム以上の幅広い品ぞろえとさまざまな楽しい仕掛けを用意しました。
今回の取り組みには『購買体験』をどうアップデートしていくのかというテーマがあります。これは@cosme視点ではあるのですが、「@cosme TOKYO」のような店舗によるリアル購買とeコマースによるオンライン購買があった時、この中間にあるような体験を作れないか、というのが狙いのひとつです。
なるほど「店舗とコマースの中間」の体験は新しい視点ですね
坂井:仮想空間に入るとワクワクしたようなコンテンツが溢れていて体験もできる。買いたい場合は買える。これは2次元のeコマースだけではなかなか表現しきれない部分です。一方、来店には物理的な移動や接触がハードルです。これをスマートフォンひとつで実現しようという、本当の最初の一歩がau XR Doorの取り組みなんです。
実際に使ってみると没入っぽい体験でありながらスマートフォンのみで利用できるので、手軽な反面、スペースを必要とするなど戸惑いもありました
KDDI:実は今回、「@cosme TOKYO -virtual store-」に使ったアプリ「au XR Door」はそもそもVRヘッドセットを利用してXRサービスを企画・開発しているチームが新たに提案したものなんです。
VRヘッドセットは特に女性が着用する際、髪型が崩れるなどの運用面の課題がありました。また、機材も必要になるので、一人で体験するにはややハードルが高かったんです。そこで没入体験でありながらスマートフォンだけでそれを実現できないか、そう考えた結果があの「どこでもドア」体験だったんです。実際に利用データを見てみると、仮想店舗に来店した人はポップをズームで見ていたりと実際の来店と同様のアプローチが優先される、ということが徐々に見えてきています。
一方、課題があることも認識していて、例えば歩き回るスペースがない場合にどうするのかとか、ユーザーからの定性的なフィードバックや、実際のデータから見えてくる「つまづき」を参考に今後のアップデートを議論しているところです。
まだ始まったばかりですが、この新しい購買体験のヒントは見えてきましたか?
坂井:コスメって本当に多くの種類があるので、それらを自宅にいながらにしていくつも試せる、例えば自分の顔に合った商品を見つける、といったこともできるようになるかもしれません。こういった魅力的なブランドとの出会いの方法をアップデートできるんじゃないかと考えています。
データの活用についてはいかがでしょう。来店した人の属性データなどから多様な商品のおすすめをする、といった流れは想像できそうです
坂井:データをAIで読み解いたりそれをマッチングに使うことはeコマースでも可能です。どちらかというと、それ以上にヒューマンタッチが重要で、つまり接客ですね。お客さんの肌にあったパーソナライズされた提案活動、これが化粧品には大切なんです。ここについてはもちろんテクノロジーも使いますが、オンラインカウンセリングのような人の力を組み合わせた、テックタッチ・ヒューマンタッチを融合させた空間づくりには挑戦していきます。
少し話を変えて、コロナの影響と実際の利用ユーザーからの反応についても教えてください
KDDI:そもそもKDDIでは新型コロナウイルス感染症の影響で売上に悩んでいる化粧品メーカーや小売に対して、リアル店舗やECとは異なる新たな販路として、実店舗のVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)を再現し、在庫がなくても店舗体験をユーザーに提供できる低コストのバーチャルストアを企画していました。特にテスターを試すのが憚られる中、手に取ったかのような体験ができる機能やARのメイクアップ機能は実物がなくても商品確認ができる、という点で非常に重要と考えています。
坂井:これはコロナ感染拡大の以前からですが、小売りのDXや店舗体験の可視化・価値化はテーマにありました。やはり化粧品はリアル店舗にお越しいただいてから始まるUXが多かったんです。そうこうしている内に感染症が拡大し、店舗としての魅力である「巡ること=出会うこと」「試すこと=手にとること」「相談すること」ができなくなってしまったんですね。
なるほど
坂井:今回のケースでは、こういった本来提供できるUXの価値が下がっている状況をバーチャル体験で補う、というのが目標にありました。そこでオンライン/バーチャル上での出会いの場である店舗を立ち上げ、店舗やオンライン上から仮想的に商品を手に取ったり、テスターを使ったような体験と「公式通販」から商品の購入ができる、というところまで用意した、というのがここまでの取り組みですね。
協業のスピード感はどのような流れだったのでしょうか
坂井:とあるメーカーさんにお繋ぎいただいたのがキッカケです。目指す方向やイメージはお互いすぐにリンクしていたと思っておりまして、この仲間たちなら絶対に新しい価値が見出せると思ったことを覚えています。実施に至るまでのハードルは時間と環境ですかね。
KDDI:私たちもオンラインとオフラインを融合させた顧客体験をXR Doorを通じて実現できると感じたため、ご紹介いただいた後、KDDI側からも協業をお願いしました。
坂井:ただ、とにかく時間もなくて、9月中旬に初めてKDDIさんとお会いしてから4社を跨ぐ横断プロジェクトが生まれ、毎週のように打ち合わせを重ね、12月にはデモを出すというところまでもっていったのは素晴らしいスピード感でしたね。今回はずっとコロナ感染拡大との闘いでもあり、本当はお披露目を@cosmeTOKYO1周年のリアルイベントでさせていただきたかったですが、緊急事態宣言により延期となったのは心残りです。
反響はいかがですか
坂井:リアルな店舗とECのオムニチャネル化・OMOという発想自体はお持ちの人が多いですが、我々は店舗”体験”のオンライン化にこだわりました。また他企業がすでに展開しているブラウザ用の表面的なバーチャルサイトではまだまだ表現が難しいです。その点において、将来を見越したチャレンジであり「らしさ」があると化粧品業界の関係者から注目をいただいています。
KDDI:@cosmeブログでは「@cosme TOKYO -virtual store-」の記事が約50万閲覧を超え、XR Doorの新規ユーザー数も増えています。多くのユーザーにバーチャルストアの可能性を感じていただけているのではないかと思う一方、緊急事態宣言が発令された結果、リアル店舗と連携した取り組みがまだ実現できていないのが課題です。この件についてはアフターコロナに向けて準備しております。
ありがとうございました
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