- インタビュー
2024年05月17日
「Pride Fund」設立、小売業大手J.フロントリテイリングが挑む事業承継支援のカタチ
- J.フロント リテイリング株式会社
丸岩 昌正 - 事業企画部 事業創造担当 部長
- J.フロント リテイリング株式会社
大木 泰生 - 事業企画部 事業創造担当 専任部長
- J.フロント リテイリング株式会社
大和 隼治 - 事業企画部 事業創造担当
大丸松坂屋やパルコを傘下に持つJ.フロントリテイリンググループ(以下、JFRグループ)は3月、地域に根差した企業の事業承継を支援する「Pride Fund」を設立しました。スタートアップへのマイノリティ投資を行うベンチャーキャピタルファンドと異なり、このファンドは業歴が長い企業へのマジョリティ投資を行うことで事業承継問題の解決を支援し、廃業による地域経済の衰退を防ぐという目的が設定されています。
スタートアップとの共創分野では、すでに「JFR MIRAI CREATORS Fund」というCVCファンドを持つJFRグループが、今回事業承継ファンドを創設した意味について、ファンドの運営を担当される、JFRグループ 事業企画部事業創造担当で部長の丸岩昌正氏に伺いました。また、専任部長の大木泰生氏、担当の大和隼治氏にも加わっていただきました。
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・大丸松坂屋百貨店、パルコを持つ小売業界のリーディングカンパニーが未来志向のスタートアップと共創する理由——J.フロントリテイリング下垣氏、大和氏
JFRグループが事業承継を支援する意味
Pride Fund を通じて、JFRグループは、これまで中核とする百貨店・SC事業を展開するなかで築き上げた全国のメーカーとのネットワークを最大限に活かし、地方に根差す老舗メーカーの事業承継を支援するための新たなプロジェクトに乗り出します。このファンドでは、各地域に息づく優れた地場産業や食品・伝統工芸品ブランドの存続を図ることを目的としています。
Pride Fund には、日本政策投資銀行とIgnition Point Venture Partnersの2社も参画し、運用期間10年間で総額30億円の出資が計画されています。JFRグループはこのファンドを通じて、自らが有する既存のインフラやノウハウ、ネットワークを存分に活用し、投資対象となる企業の事業継続と企業価値の向上を後押ししていく狙いがあります。
長年の歳月を経て磨き上げられ、地域の誇りとも言えるようなブランドをつくりだす企業が、後継者がいないなどの理由から廃業に追い込まれてしまうのは痛恨の極みです。私どもとしては、こうした貴重な地域資産とも言える企業を承継し、未来に引き継いでいきたいという決意を新たにしています。
丸岩氏
Pride Fund 概要
対象となるのは、デパート売り場などで高い人気と評価を得ている、菓子や惣菜、加工食品、工芸品などの地域ブランドです。こうした地場の名門メーカーでは近年、後継者不足や経営陣の高齢化により事業の将来が見通せない状況が目立ってきており、長年受け継がれてきた貴重な技術や製品、ブランド価値そのものが失われてしまう恐れが出てきているのが実情です。
このファンドでは、JFRグループが出資先を最終的に自らが買収し、グループ内の事業会社としてその企業を継承していく方針です。ただし、従来の事業の単なる存続にとどまらず、JFRグループ独自のリソースやノウハウを投入することで、製品の高付加価値化、新規販路の開拓、雇用の確保など、抜本的な企業価値の向上を目指していくことになります。
私どもとしては、そうした事態が避けられるよう、極力先手を打って対策を講じていかなければなりません。かねてから地域社会との共生を経営の基本に据えてきましたが、今回、それがこのプロジェクトに存分に反映されているように思います。
長年、百貨店事業を中核に据えてきた私どもには、全国各地の優れた生産者やメーカーとの太いパイプがあります。このファンドを通じてグループインしていただいた企業については、我々のネットワークを最大限活用して支援することにより、埋もれていた可能性を存分に開花させていく考えです。
丸岩氏
Pride Fund 構造
JFRグループの事業ポートフォリオ再編にも寄与
注目すべきはこうした地域ブランド支援が、単なる既存事業の承継や維持にとどまるものではないという点です。むしろJFRグループ自身にとっての新たな成長機会の創出が、大きな目的の一つとされているのです。
JFRグループは長らくデパート事業を中核に据えてきましたが、近年は既存事業にとらわれることなく、抜本的な事業ポートフォリオの再構築を重視する方針に転換しています。今回の取り組みもまた、ファンドを起点に、JFRグループにとって手つかずだった分野への進出を視野に入れているようです。
この取り組みは、地域貢献やCSR活動にとどまるものではありません。優れたブランド価値を持つ企業の買収を通じて、JFRグループ自身の新たな収益の柱を構築し、事業ポートフォリオを変革していく狙いがあります。収益力のある地域ブランドを最大限に活かしながら自社の事業に取り込み、それを起点に私どもにとって新規の分野である食品やお土産品の製造事業への本格参入を図っていく可能性も視野に入れています。
丸岩氏
実際、JFRグループでは将来的には、2号ファンドの設立も想定しており、今後もこのプロジェクトを拡大・深化させていく構えをみせていて、日本の食文化の継承と創造を担う新たな事業を構築することも視野に入れているようです。
1号ファンドでは地域企業の存続への注力が主眼となりますが、長期的に見れば、ファンドを通じた地域ブランド買収は、JFRグループが新たに手掛ける〝地産地消〟のフードビジネスの創造につながる可能性があり、地域経済の活性化に少なからず寄与できるかもしれません。
事業承継を手掛けるリテール企業の先駆けになれれば、世界に冠たる〝おいしさ〟を失わずに世の中に広めていくという価値を生み出せるにちがいありません。従来の百貨店・SCの売り場を中心とした事業からの脱却を図り、より幅広い業態への進出を目指す中で、このプロジェクトは新たなステージへの飛躍のステップとなり得るものです。
丸岩氏
PrideFund運営チームの一人である大和氏は、JFRグループのCVCである「MIRAI Creators Fund」にも関わっていますが、それとは一線を画した投資スタイルであるPrideFundの意義を次のように語ってくれました。
PrideFund では地域のものづくりをされている企業とスタートアップを上手く融合させながら、新ブランドの開発や次の日本文化を担う商品開発をご一緒できれば、すばらしい取り組みになると考えています。これからの1年間、地域の中小企業やスタートアップの皆様と、しっかりとネットワークを築くことに注力していきたいと思っています。
大和氏
同じくPrideFundを担当する大木氏は、PrideFundの可能性を次のように語ってくれました。
私は前職の金融機関において事業承継ファンドの運営部門で働いていましたが、金融系のファンドは自前の販売網を持っておりませんので投資先企業の売上拡大をご支援するのは難しく、企業価値の向上策はコストカットがメインとなるケースが多くありました。しかしPrideFundは、投資先企業のトップライン向上を中心に支援することができます。これはPrideFundの特徴であり、この取り組みを通じて地域企業のバリューアップに貢献できることを楽しみにしています。
大木氏
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