- インタビュー
2025年07月25日
人の目の代わりとなるAIで小売業界を変える「Idein」エッジ技術がローソンで実証する次世代店舗運営

- Idein株式会社
大古 力也
名刺サイズの小さな基盤上でAIを動かし、人の行動をリアルタイムに検知してデジタルサイネージと連携させるエッジ AI プラットフォーム「Actcast」を武器に、コンビニの売上向上とオペレーション業務削減を同時に実現する気鋭のスタートアップが、Ideinです。
同社は2025年6月23日にオープンした「Real×Tech LAWSON」1号店「ローソン高輪ゲートウェイシティ店」で、AIデジタルサイネージの実証実験を開始しました。棚の前で悩む顧客を検知し、最適な商品提案を自動表示する革新的なシステムについて、IdeinのAIカメラ事業チーム、大古力也氏に詳しく伺いました。
AIカメラが検知する顧客行動と自動連携
Idein は大きく2つの事業を展開しています。1つはAIを活用したソリューションの企画・開発、もう1つはそのソリューションの基盤となるエッジAIデバイスの管理・運用ができるプラットフォーム「Actcast」の運営です。
弊社はエッジAIというところに特化しており、名刺サイズぐらいの小さな基盤の中でAIを動かし、そのデバイスを管理するプラットフォームとしてActcastを開発運営しています。
大古氏
同社の強みは、汎用デバイス上での深層学習推論を高速化する世界でも類を見ない技術力にあります。2020年1月の正式ローンチ後、Actcastは国内トップシェア(同社調べ)のエッジAIプラットフォームへと成長し、実用的なAI/IoTシステムの開発・導入・活用を支援しています。
ローソン高輪ゲートウェイシティ店での取り組みでは、Idein はサイネージへの配信システム「SIGNAGEi」を提供するシルバーアイ社と協力し、AIデジタルサイネージシステムの実証実験を行っています。同社の役割はAIカメラを使った顧客行動の検知です。
システムは2つの機能の実装を行いました。1つ目は顧客が棚の前に何秒滞在しているかを計測すること、2つ目は顧客がどの棚に手を伸ばしたかを検知することです。
KDDIとローソンの公式リリースによると、棚前での滞在時間が長い顧客には商品ランキングを表示し、商品に手を伸ばした際は関連商品のレコメンドやお得情報を提供するとしています。
AIカメラが例えばおにぎりの棚に人が手を伸ばしたということを検知したら、それをトリガーにサイネージ側に情報を送って、おにぎりに特化した情報を表示することを想定しています。
おにぎりと一緒にお茶を買うとお茶が何円引きですよとか、他の棚のおかずと相性がいいですよといった、関連商品を一緒に提案できるようにします。
大古氏
棚の前での滞在時間検知は、購買に悩む顧客への能動的なアプローチを可能にします。一定時間以上棚の前に立っている顧客を「悩んでいる人」と判定し、ランキングや新商品情報を自動表示することで、購買を後押しします。
売上向上とオペレーション削減の一石二鳥
活用イメージ
このAIデジタルサイネージがコンビニと高いマッチ性を持つ理由は、売上向上とオペレーション業務削減という2つの課題を同時に解決できることにあります。
売上向上の面では、コンビニ各社が重視する日販(1日ごとの売上)の改善に直結します。
コンビニ各社も決算報告などで何年までに何パーセント上げますといった目標を掲げていますが、なかなか上げる方法が難しいのが現状です。悩んでいる人向けに新商品を案内したり、手に取った商品によってもう1つ買い合わせ商品を案内することで、販売点数を増やせる可能性があります。
大古氏
オペレーション面では、週1回から2週間に1回のペースで実施されるキャンペーンやフェアのポップ交換作業を自動化できます。
シールや販促物を差し替える作業が非常に大変だという声が上がっており、それを全部自動で変えられることは大きなメリットです。毎週月曜日の深夜に変更作業をしなければならない中で、アルバイトの夜間作業負担を大幅に軽減できます。
大古氏
この技術は、コンビニ以外の小売業界にも広く応用できます。多数の商品を扱い、売上向上を目指しながらもオペレーション効率化や人材確保に課題を抱える業種すべてが対象となります。スーパーマーケット、ドラッグストア、アパレル店舗など、それぞれの業態に合わせたカスタマイズが可能です。アパレル店舗では、特定のハンガーラックに手をかけた顧客に対し、コーディネート提案を自動表示するといった活用も想定されます。
このAIデジタルサイネージがこれまで普及しなかった理由について、大古氏は市場の成熟度とハードウェアの課題を挙げます。
AIセンサーを使って何かを検知しようというところまでマーケットが成熟しなかったことと、サイネージなどのハードウェアが市販品として出ていないことがハードルでした。売り場ごと、店舗ごとに特注で用意しなければならず、生産リードタイムや費用が課題となっていました。
大古氏
一方で、ポイントカードの普及や来店計測技術の発達により、より高度な顧客行動分析へのニーズが高まってきています。ローソン高輪ゲートウェイシティ店での実証実験は、複数企業が参加する大規模なプロジェクトです。事前に想定していた課題の多くが杞憂に終わったと大古氏は振り返ります。
ネットワーク構成や連携方法など、事前に検討していた課題はありましたが、想像以上にチーム全員がどうやったら一番早く実現できるか、どうすれば一番ロスなく実現できるかを考えて、半年近く動いてきました。
大古氏
複数のベンダーが関わる複雑なプロジェクトながら、全社が連携して課題解決に取り組む体制が、スムーズな進行を支えています。
「人の目の代わり」を目指す将来構想
今後の展望として、同社は KDDI のパートナープログラム「WAKONX(ワコンクロス)」への参画を目指しています。
僕らはAI技術やAIプラットフォームを持っていますが、お客様に提供するための手段がありませんでした。お客様はAIを使ったソリューションを求めているので、そのソリューションを作れるパートナーを探しており、WAKONXの理念とぴったり合っています。
AIカメラが人の目の代わりになることで、売上を上げる、業務オペレーションを下げる、本来売れるチャンスがあるのにそれを逃していないかを確認する、そういったことができないかと考えています。
大古氏
ローソン高輪ゲートウェイシティ店は、IdeinのAIサイネージ以外にも多数の先進技術が導入される総合的なリテールテック実証店舗です。飲料陳列ロボット、自動調理ロボット、自動掃除ロボットなどのロボティクス技術に加え、3D アバターによる遠隔接客、プライスレール連動サイネージ、都市 OS との連携など、様々なリテールテック機能が実装されます。
店舗イメージ
店舗では「リアルの温かみとテックの力を融合」をコンセプトに、ローソンが目指す2030年度までの店舗オペレーション30%削減の実現に向けた実証が行われます。複数の技術を組み合わせることで、売上向上と業務効率化の両立を目指す次世代コンビニの姿が具現化されています。
2025年6月23日のローソン高輪ゲートウェイシティ店オープンを皮切りに、IdeinのAIデジタルサイネージは小売業界に新たな価値を提供し始めます。エッジAIの技術力を武器に、現場のリアルなデータを収集・活用することで、売上向上とオペレーション効率化を両立する未来の店舗像を描いています。
「ソフトウェア化された世界を創る」という同社のビジョンは、AIが当たり前のように小売現場で活躍する時代の到来を予感させます。