- インタビュー
2021年02月01日
ベンチャーキャピタルに必要な「持続可能社会」への取り組みーーグローバル・ブレイン百合本氏 Vol.2
- グローバル・ブレイン株式会社
百合本 安彦 - 代表取締役社長
日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、前回に引き続き、昨年12月に新たな投資戦略を公表したグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦さんにお話を伺います。
前編では地政学的な知見から中国・インドの変化に着目し、よりグローバルな投資戦略を進める姿をお話いただきました。後半はグローバル・ブレインの投資における企業成長のノウハウから新たな領域へのチャレンジについてお聞きします。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、回答はグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦さん。文中敬称略)
少し話を変えて、グローバル・ブレインとしての新たな投資領域についても伺わせてください。現在、KDDIも含めて1500億円以上のファンドを運営されています
百合本:おかげさまで1998年に設立し、2001年に森トラスト様から10億円のファンドをお預かりしてから2021年で20周年という形になります。昨年には新たにキリン様や農林中央金庫様、セイコーエプソン様、ヤマトホールディングス様からCVCをお預かりいたしまして200憶円のファンドを追加し、また三井不動産様の投資の組み入れも終わりまして、第2号をスタートさせていただきました。
現在の運用残高は(全体で)1,524億円ということで、1,500億円を突破いたしました。(グローバル・ブレインの純投資ファンドの)7号は組み入れが進んでおりまして、2021年には新しい8号の準備を開始すると同時にグロースファンドも設立したい考えです。また、現在7つのファンドを運営させていただいておりますけれども、まだ空いてる領域がありまして、モビリティであったりエネルギーといった分野についてもチャレンジしたいと思っています。
振り返れば2010年代のスタートアップ投資はまだまだ不確定要素が多い領域だったように思います。グローバル・ブレインが成長できた要因はどこにあるとお考えでしょうか
百合本:我々の戦略というのはソーシングの窓口を広くして(投資した企業に対して)徹底的にバリューアップをして成長させる、というものです。年間で5,000社ぐらい投資検討させて頂いていて、ビジネスや財務法務、知財、デザインといった部分を検証し、最終的には50社から100社ぐらいの企業に投資を実行しています。
現在、キャピタリストが約30名在籍しているのですが、それ以外にも支援チームを作っておりまして、バリューアップやビジネスデベロップメント、人材採用、PR、デザイン、IPO支援それから労務管理、知財戦略といった部分を支援させていただいております。そして最後にIPO支援やM&A支援をしてエグジット率を高めるというのが鉄板戦略になっています。
特に時間がかかると言われてきたライフサイエンスの領域には専門チームを作るなど体制も強化されています
百合本:ライフサイエンスについては1年半ほど前からソーシングなどを進めた結果、投資件数も5件ぐらい実績が出てきました。ソーシングについてはSequoia Capitalなどのシンジケート案件に参加するなどしています。注力領域としてはアドバンスドセラピーと言われている遺伝子治療だったり、マイクロバイオ、医療機器では診断から治療までのトータルソリューションなどの分野で投資計画を立てていますね。
体制については現在、5名の研究者出身のメンバーで構成していて、そこでカバーできない部分については、専任アドバイザー制度というのも設けて慶応大学医学部の岡野教授などにアドバイザーをお願いしています。
インパクト投資や持続可能な社会への取り組みについても積極的に発言されていました
百合本:インパクト投資は社会的だけでなく、経済的リターンを追求するという点でESG投資と違います。それとインパクト投資は社会的なペインをテクノロジーで解決することができる点が分かりやすいですよね。また、社会的なリターンを評価する「インパクト評価」ができるようになったことも、大きな要因です。投資家についても大きなBlackRockのようなプレーヤーが出てきておりまして非常に盛り上がってる領域です。
例えば講演でも例示したのですが、Andreessen Horowitzやビル・ゲイツ財団などが出資をしているApeel Sciencesという企業は食料コーティングをする技術を開発しています。これを活用すれば食品の保存期間を延ばしてフードロスや冷凍冷蔵設備がないところに食糧を提供するといったことができます。
ベンチャーキャピタルとして持続可能な社会についても言及がありました
百合本:グローバル・ブレインとしてのSDGsへの取り組みは、例えばワークショップやソーシャルスタートアップ支援といった次世代の育成などもやっているのですが、やはり注目しているのはカーボンニュートラルです。
ここは非常に重要だと思っていまして2050年までに主要各国が排出ゼロを目指す中、業界リーダーとしてもしっかりと取り組みたいです。オフィスでの資源消費量を削減したり、プラスティックスマート運動なども大切なのですが、一番重要なのはやはり脱炭素、サーキュラーエコノミーに対する投資を加速していくことです。
我々としてこの地球温暖化であるとかサーキュラーエコノミー、脱炭素などの問題に真剣に対処するためにも、関連のスタートアップへ投資するだけでなく、大企業さんと協業を推進することで解決したいと思っています。
コロナ禍によって大きく動いた2020年でしたが、これからの10年は産業デジタル化がさらに加速することからオープンイノベーションへの取り組みもさらに重要性を増しそうですね
百合本:はい、アフターコロナは本格的なオープンイノベーション、つまり大手企業がスタートアップ企業の尖った技術やサービスを活用してDXを推進していく、そういう時代が到来すると考えています。今の状況は企業にとって百年に一度ぐらいのチャンスだと考え、今回、公表させていただいた戦略がグローバルで開かれたオープンイノベーションの推進に役立つと期待しています。