- インタビュー
2026年02月19日
「AI レディ化に投資する」——変わり始めた日本企業

- 株式会社フライウィール
横山 直人 - 代表取締役 CEO
データ基盤整備の重要性が認められ始めた今、次の問いは「では、何をどう準備すればいいのか」だ。
フライウィールは「AI レディ化」の要件を5つに整理している。データの構造化、ベクトル化による意味づけ、データの品質管理、ガバナンスとセキュリティ対応、そしてユーザーのアクションを AI の学習に活かすフィードバックループだ。
中でも重要性を増しているのが、ガバナンスとセキュリティへの対応である。AI エージェントが普及すれば、社内の機密データに AI がアクセスする機会は飛躍的に増える。「どの AI が、どのデータに、どこまでアクセスしていいのか」を制御する仕組みがなければ、情報漏洩や誤った意思決定のリスクが高まる。さらに、地政学的なリスクが高まる中、データを国内に留める「ソブリン AI」の議論も活発化している。
変わり始めた日本企業
日本企業の意識も変わり始めている。昨年後半から、「ユースケースと並行して、まず AI が使えるようにデータを整える」という企業が増えてきたという。
ーー顧客企業の意識はどう変わったか
横山:最近、本当にこの去年の後半ぐらいから、日本の会社は少ないんですけど、AI レディ化させることはもう絶対必要だから、それをどう使うかは置いといて、AI レディ化させることに投資しますっていう会社が増えたっていうのは、大きい変化でしたね。
アメリカではすでに当たり前の考え方だ。横山氏が海外の元同僚と話すと、「期待効果を考えずに、一旦全部 AI が食べられるようにする」という姿勢が徹底されているという。
ーーアメリカ企業との違いは
横山:アメリカの会社は、もうそういう世の中になるから、AI レディ化することには投資する、と決めています。ユースケースづくりと並行して、スピード感もって、AIレディ化を急いでいる会社が急激に増えています。
ただし、日本企業がアメリカと同じアプローチを取れるわけではない。
フライウィールとしては、Conata Data Agentで小さく成功事例を作り、その効果を踏まえて全社的なデータ基盤の構築につなげていく流れを提案している。
ーー日本企業にはどうアプローチしているか
横山:まだやっぱり、そこまで踏み込んで投資をするぞと決めて実行できてる会社は少ないです。なのでまず Conata Data Agent で試してもらう。今まで RAG を組んでやってたのと比べて、うちで試してみてください、と。違いはデータインフラの話なんです。AI レディ化されてるからこういうパフォーマンスが出るんですよ、というのを見せて、その事実とともに来期予算を取りに行く。この進め方がすごく効いてるので、AI エージェントを自社で持っててよかったなと改めて思ってます。
経営層から求められる成果の基準も変わりつつある。これまでは「情報を探す時間が週1時間減りました」といった効率化の指標で良かった。しかし今は、売上や利益への直接的なインパクトを問われるようになっている。
ーー経営層の期待値はどう変わっているか
横山:最近のトレンドとしては、経営層の人たちが社長から問われてるのは「それでいくら売上が上がったの?利益は増えたの?」ということなんです。今まではその情報を探すのに時間が一人あたり週1時間減りましたとか、それで良かったのが、じゃあ結果として数字的にどう変わったのかを求められるようになってきている。
アメリカは「まずコスト削減の目標を決めて、AI 投資予算をここまで出していいから、それでなんとかしろ」という文化だ。日本はそうではないが、業務委託費などへのインパクトは、来期あたりから問われ始めるだろうと横山氏は見ている。
AI レディ化への投資が進む一方で、避けては通れない課題がある。セキュリティだ。AI が社内データにアクセスするということは、機密情報が外部に流出するリスクと隣り合わせになることを意味する。
「サプライチェーン」——セキュリティという壁
クラウドに一度移行したものの、センシティブなデータは外に出せないという企業は多い。特に製造業の技術情報や金融機関の顧客データなど、競争力の源泉となる情報ほど、AI 活用との両立が難しい。
この課題は、単なる企業のリスク管理にとどまらない。地政学的な緊張が高まる中、データの所在地そのものが安全保障上の問題になりつつある。
ーーセキュリティへの意識が高まった背景は
横山:3年半前ぐらいに政治家、経営者、大学の研究者が集まる勉強会で、とある政治家の方に、「民間に期待することって何ですか?」と聞いたんです。ロシア・ウクライナ戦争があった時期だったんですけど、「サプライチェーンです」とはっきり言ってました。そういう大きな地政学としての課題感は、一般の人にとっては想像以上な状況に今なってると思います。
今やデータは単なる「社内情報」ではなく、国家レベルの「安全保障」に直結しています。特に、日本の競争力の源泉である製造業の設計図や独自のプロセス情報。これらをオープンなクラウドに安易に流すことは、国力を流出させることに等しい。だからこそ、我々は「Conata オンサイト」や閉域網での運用に徹底してこだわっているのです。
ーーConataオンサイトとは
横山:お客さんのクラウド上に我々の Conata をインストールするっていうやり方をしてます。つまり、お客さんの AWS とか GCP とかから外に情報が出ないっていう。これは明確なニーズとして強くあって、特に技術系の情報とか、外に絶対出したくないっていうものは、安心して利用できる環境を提供しています。
もう一つは、KDDI との連携で生まれた「KDDI Conata Data Agent」です。KDDI の閉域網サービス「WVS」の中で、インターネットから閉ざされた環境でもデータにアクセスできる仕組みを構築しました。
ーーKDDIとの連携で何が可能になったか
横山:KDDI の商品として展開している KDDI Conata Data Agent は、KDDI の WVS という閉域網の中で検索や AI エージェントによるデータアクセスができます。インターネットから閉ざされた閉域網環境の中でも、データを活用できるようにしたんです。
これにより、オープンなインターネット上の情報だけでなく、企業が持つセンシティブな顧客データや技術データも、安心して AI で活用できるようになります。
KDDI の既存顧客基盤を活かした展開も進んでいる。
セキュリティの壁を越えたとしても、AI レディ化にはもう一つの課題が残る。AI エージェントが増え、やがて AI 同士が会話するようになったとき、それをどう管理するのか。ガバナンスの問題だ。
AI 同士が会話する時代——ガバナンスという新たな課題
AI エージェントは今後どう進化していくのか。横山氏は、AI の進化を3つのフェーズで整理する。現在進行中のエージェント化、次にクリエイティブ領域への拡張、そして最終的には AI 同士が会話して意思決定する世界だ。
ーーAIエージェントの今後をどう見ているか
横山:まずエージェント化を進めているのが AI 3.0。その次にクリエイティブな領域も、人間が指示しなくても生み出してくれる世界になる。最後はエージェント同士が会話して意思決定するという世界になっていく。これが一つの進化のフェーズだと思います。
AI 同士が会話するフェーズは、アメリカではすでに始まりつつある。日本はまだだが、今年がその始まりの年になるかもしれないと横山氏は見ている。
ーーAI同士が会話するようになると何が起きるか
横山:それが実際に起こり始めています。AI 同士が会話し、意思決定するようになれば、業務の自動化は指数関数的に進む。しかし同時に、それを管理する仕組みが必要になる。フライウィールでは現在、AI 同士の会話を管理し、ガバナンスを効かせる機能の開発を進めています。
ーーAIの時代でも、人材業に近い仕事が必要になると
横山:我々はそこを、AI のモデルとかいろんなものを使いつつ、実際に企業さんの視点からして今後必要になってくるだろうなって思うものを準備して、本当にそれが使い物になるのか、価値が生めるのかっていうのをどんどん検証しに行くっていうのを進めていきます。
ワークフローが美しい国
AI 時代において、日本企業に勝ち筋はあるのか。横山氏は製造業の現場を見ながら、強い危機感と同時に、日本ならではの強みも感じているという。
ーー製造業のロボット化が急速に進んでいる
横山:フィジカル AI の領域とか、ロボット周りの進化はすごいですよね。中国とアメリカの進み方が凄まじいので。昔、うどんとか麺類をロボットアームで掴むのってかなり難しかったんですよ。以前 Facebook のリサーチチームと CES で新しい技術を一緒に見て回ったことがあるんですけど、その頃はとてもじゃないけど実用化は無理だなという時代でした。それがこの間動画で見せてもらったら、もう本当に実用レベルのサイズ感で、柔らかいものも掴めるようになっていました。
ロボットの進化は、製造業の競争環境を根本から変えつつある。これまで日本の製造業は、熟練工の技術と緻密な品質管理で世界をリードしてきた。しかし、その優位性がソフトウェアとハードウェアの組み合わせで再現可能になれば、人件費の安い国に生産拠点を持つ企業が一気に追い上げてくる。
ーー日本の製造業は危機的状況なのか
横山:日本の製造業は日本の強みだと思っています。それが全部持ってかれ、ある意味ロボットに代替されたら、これは大変なことになるなっていう危機感をすごく強く持ってますね。
危機感を語る一方で、横山氏は日本企業ならではの可能性も見ている。それは意外にも、日本企業が「古い」と批判されがちな部分に関係している。業務マニュアル、手順書、チェックリスト——こうした文書化の文化が、AI 時代には武器になりうるというのだ。
ーー日本企業の強みは何か
横山:日本企業は長年、業務プロセスを丁寧に定義し、マニュアルや手順書という形で「暗黙知の形式知化」に心血を注いできました。それは一見、古臭い「アナログな文化」に見えるかもしれません。
しかし、AI 時代において、これほど良質な「教師データ」の宝庫はありません。
ワークフローが美しい国だからこそ、そのプロセスを正しくデータ化し、AI に受け継ぐことができれば、日本は再び世界を圧倒できる。フライウィールは、その「ラストワンマイル」をデータ基盤で支えていきます。
日本企業は業務プロセスを丁寧に定義し、手順書を整備してきた。それは AI 時代において、むしろ大きなアドバンテージになりうる。
問題は、そのノウハウが AI に渡せる形になっていないことだ。大企業の幹部たちも危機感を持っているが、スピード感が出ていない。横山氏は、そこを支援することがフライウィールの役割だと考えている。
ワークフローが美しい国だからこそ、日本は AI 時代でも勝てる。
フライウィールが目指すのは、その強みを「AI が使える形」に翻訳し、成果が出るところまで実装していくことだ。データ基盤という地味だが本質的な領域で、横山氏はその確信を深めている。
関連リンク
関連記事
インタビューの記事
-
ワークフローが美しい国だから必ず勝てる——フライウィール横山直人氏が語る、AI 時代の日本企業の勝ち筋
2026年02月17日
-
スタートアップに会いたい!Vol.104- 大和ハウス工業
2026年02月12日