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2026年02月17日

ワークフローが美しい国だから必ず勝てる——フライウィール横山直人氏が語る、AI 時代の日本企業の勝ち筋

株式会社フライウィール
横山 直人
代表取締役 CEO

「データを人々のエネルギーに」をミッションに掲げるフライウィール。同社が提供するデータ活用プラットフォーム「Conata」は、企業内に散在するデータを AI が活用できる状態に整える基盤だ。

代表取締役 CEO の横山直人氏は、NTT ドコモで海外 i-mode 事業に従事した後、Google Japan でエンタープライズ事業の立ち上げや Android のビジネス開発責任者を務め、Facebook Japan では執行役員として新規事業開発を担当した人物。2018年にフライウィールを創業し、日本企業のデータ活用を支援してきた。


ChatGPT の登場から2年。AI エージェントが業務を自動化し、AI 同士が会話する時代が見え始めている。一方で多くの日本企業では、「PoC は回るが、全社展開の道筋が見えない」「データ整備の投資判断がつかない」といった壁が残る。この局面で、日本企業はどう戦えばいいのか。横山氏に聞いた。


データ基盤の価値を証明するまで

株式会社フライウィール 代表取締役 CEO 横山 直人氏

AI 時代において、データ基盤の整備は競争力の源泉になる。しかし、そんな主張に耳を傾ける企業は、かつてほとんどなかった。
フライウィールが創業した2018年当時、「AI 時代にそなえてデータインフラに投資すべきだ」と説いても、経営層を納得させることは極めて難しかった。“整備した結果、何がいくら良くなるのか”を短期で示しづらい。データ基盤は、投資対効果を定量的に示しにくく、価値が出るまで時間がかかる領域だからだ。横山氏は「経営を納得させられない、説得できないというのがやっぱりあった」と当時を振り返る。

そこで同社が取った戦略は、データ基盤を“整備して終わり”にせず、業務アプリケーションとセットで成果を出し、価値を証明することだった。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYA)の発注業務を AI で自動化するプロジェクトは、その典型例だ。
大企業の内部には、データベースや業務システムが数百単位で散在している。TSUTAYA の場合も例外ではなく、横山氏によれば「大きい会社だと数百におよぶデータベースがあるのは当たり前」だという。それらをつなぎ合わせ、必要なデータを探し出し、AI が活用できる形に整える。地味だが、この工程にこそ価値がある。

ーー具体的にはどういう作業をするのか
横山:例えば TSUTAYAの発注業務を AI で自動化するというのをやった時も、当然データベースってバラバラにあるんです。大きい会社だと600個ぐらいデータベースがあるのは当たり前だったりする。それをなんとかつなぎ合わせて、場合によってはデータベースがバラバラのまま、インデックス化させて、必要なデータを探して引っこ抜いてきて、こっち側でジョインさせて答えを出す。そういうことをずっとやってきました。

需要予測によるシフト最適化、物流の効率化——。こうしたアプリケーションで数字として結果を出すことで、ようやく経営層のゴーサインを得られる。そんな時代が長く続いた。

しかし近年風向きが変わり始めた。生成 AI の急速な普及により、「データを整えておかなければ AI 活用が進まない」という危機感が、経営層にも広がり始めたのだ。AI 時代のデータ基盤の価値が、ようやく認められるようになった。

こうした経験を経て磨き上げられたのが、フライウィールの主力プロダクト「Conata」だ。同社の事業はソリューション事業とプロダクト事業の二軸で展開されている。ソリューション事業では、AI 時代に何が課題なのかを顧客と一緒に探りながら、PoC を回していく「価値探索型のモデル」を採用。その上で、プロダクト事業として、データを実務の仕組みにしていく段階で Conataを活用してもらう流れだ。

ーーConataの位置づけを改めて教えてほしい
横山:基本的には、お客さん自体もこの AI 時代、データを活用する時代に何が課題なのか悩みながら、いろんな課題解決を手探りでやっている状態だと思うんです。なので我々がそれに伴走して、価値探索型のモデルとでも言いましょうか、何が本質的に大事なのかを我々の方からご提案して、一緒に PoC を回していく。これがうちの強みの一つになってると思います。

Conataは大きく二つのレイヤーに分かれている。一つは、現場が使うアプリケーション層—— AI エージェント製品の「Conata Data Agent」。もう一つは、その精度と再現性を支える裏側のデータインフラ層だ。

ーーConata Data Agentとデータインフラの関係は
横山:データエージェントはアプリケーションの層に位置づけていますけど、その裏側にあるデータ処理、ここがやっぱり肝で精度が変わってくるので、データエージェントにはデータインフラの機能が内包されています。

ただ、現状ではそのデータインフラは主にData Agent の価値を最大化するために設計されている。現在、同社はこのデータインフラ部分を Conata Data Agent 以外にも開放する構想を進めている。企業内に散在するデータベースをつなぎ合わせ、AI が活用できる状態に整えることに価値がある、というのが横山氏の考えだ。

「Facebook が毎日上がるのを見ていた」——データで勝つ原体験

なぜ横山氏は、データ基盤という地味な領域に着目したのか。その原点は、Facebook 時代の経験にある。

ーーデータを整備することの重要性に気づいたきっかけは
横山:それはですね、Google とか Facebook、Microsoft が普通にやってるからです。2016年ぐらいに僕も Facebook にいたんですけど、その時、社内のプロダクトにどんどん AI を入れていって、めちゃくちゃ成長したのを見てたんで。たまたま僕もグロースの仕事をしてて、毎日 Facebook がグロースするのを見てたんで、いやこれはすごいなと。

横山氏がエンジニアに同じ話をすると、返ってきたのは「モデルよりもデータの量で精度が出る」という答えだった。大量のデータを持っている会社ほど AI の精度が上がる。これが横山氏の基本思想となった。

ーーただ、データ基盤は地味な領域だ
横山:めちゃくちゃ地味な領域なんで。どうしてもやっぱりLLMのモデル開発を行うとか、モデルのファインチューニングとか、そっちがこの3年ぐらい注目されてきたと思うんですけど、風向きが変わったのが本当にこの1年、去年から今年だったと思いますね。

横山氏は、プラットフォーマーが取りに来る領域では戦わないという判断をした。モデル開発は Google や OpenAI のような巨大企業がものすごい資金力で押さえにくる。日本のベンチャーがそこで戦っても勝ち目はない。

ーーモデル開発ではなく、データ基盤に注力した理由は
横山:その領域はプラットフォーマーが、ものすごい資金力で絶対に取りに来るところなので、ここで戦っちゃダメだと思いました。日本の大企業でさえそこで戦っちゃダメな領域じゃないですか。当時はそういう時代だったと思います。

では、顧客企業がやるべき仕事は何か。それが「AI レディなデータ」を整えることだった。フライウィールは AI レディ化の要件を5つに整理している。①構造化(AI が読める形にする) ②意味づけ(ベクトル化等) ③品質管理 ④ガバナンス/セキュリティ ⑤フィードバックループ(利用ログやユーザーのアクションを改善に活かす)——の5点だ。

ーーAIレディなデータとは具体的に何か
横山:まずは構造をわかりやすい形に変える構造化の部分だったり、ベクトル化させてデータの意味づけをしていくことだったり、間違ったデータをちゃんと直すとか。あと当然、AI がいろんな AI と会話しだして、どこと話してるかわからないみたいになるとまずいんで、ガバナンスやセキュリティに対応するとか、ユーザーが何かアクションを行った時にちゃんとそれが戻ってきて、AI の学習に活かされるようにするとか。こういう5つのポイントを我々は提唱してきています。

ChatGPT 登場——「一旦頭の中を整理し直さなきゃ」

2022年11月、ChatGPT が登場した。世界中が生成 AI の可能性に沸く中、横山氏はどう受け止めたのか。

ーーChatGPTが出た時、どう思ったか
横山:かなりわからないことが起こりそうだという、ものすごく大きいモメンタムがあったんで、共同創業者でCTOの波村と一旦全部頭の中を整理し直さなきゃいけないなというスタンスで臨みました。ただ、やっぱりどう考えても、モデル自体は OpenAI や Google が取る。そうなった時にお客さんがやらなきゃいけない仕事って何なのかという、そこに原点回帰した感じですね。

モデルは巨大プラットフォーマーが押さえる。では顧客企業は何をすべきか。横山氏は「AI レディなデータを整えること」に改めて立ち返った。

横山氏の戦略は明確だった。しかし、生成 AI の登場は思わぬ追い風ももたらした。フライウィールが長年取り組んできたデータ整備の作業がより簡単にできるようになることに気がついたのだ。

ーー生成AIによって、データ整備の作業はどう変わったか
横山:データ整備の一個一個の作業も、生成 AI の登場によってめちゃくちゃやりやすくなっていきます。うちの社内の開発でも、手作業だったものを自動化していくことがいろいろな場面で生まれてきています。
例えば製造メーカーの技術仕様書。従来、こうした複雑な資料をコンピューターが理解するのは困難でした。それを JSON ファイルに変換し、AI が理解できる形に構造化する作業は、生成 AI 以前は精度が低く、膨大なコストがかかっていました。

ーー具体的にどのくらい効率化されたのか
横山:体感ですが、桁で効率が変わった感覚があります。例えば大手製造業のお客様の事例では、業界特有の複雑な数式を含む技術資料や、テキスト情報のない古いPDFデータにおいて、従来は人手に頼るしかなかった数式のLaTeX化や構造解析なども、今では9割を自動化できています。生産性は少なくとも10倍、感覚的にはそれ以上の劇的な効率化を実現しています。従来手作業でコストをかけなければいけなかったことが、今後は自動化が進むでしょう。業務におけるインパクトは大きいですよね。

効率化の恩恵は大きい。しかし横山氏の表情には、楽観だけではない緊張感もにじむ。技術の進化が速いということは、それに乗り遅れれば一気に置いていかれるということでもある。

ーー楽しい時期だったのでは
横山:ワクワク感とドキドキ感もありつつ、とにかく時代の流れに自分たちの強みを乗せて、商品にして、お客さんに使ってもらえる価値に変えていけるかが勝負で。技術の進化と世の中のモメンタムがバシャッて来た時に、ちゃんとお客さんの価値に届くように形を変えるスピードを急がなきゃという、ものすごい危機感を持ってやっています。

次に続く:「AI レディ化に投資する」——変わり始めた日本企業

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