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2024年04月22日

「スイングバイIPO」がもたらした共創ーKDDI 担当者とELYZA代表に聞く子会社化とそのウラ側

株式会社ELYZA
曽根岡 侑也
代表取締役
KDDI株式会社
木村 塁
経営戦略本部 Data&AIセンター

KDDIおよびKDDI Digital Divergence Holdingsは3月18日、東京大学松尾研究室発のAI企業ELYZA連結子会社化し、共同で大規模言語モデル(LLM)を活用した生成AIの社会実装を加速させることを公表しました。


ELYZAの持つLLM研究開発力とKDDIグループの計算基盤やネットワーク資源などを組み合わせ、日本語に最適化された汎用LLMの開発や領域特化型LLMの開発、生成AIを活用したDX支援・AI SaaSの提供に取り組みます。また、ELYZAもKDDIグループの支援を受けながら、次の段階に事業ステージを進め、将来的なIPOも視野に新たな成長を目指すとしています。


前回の記事では ELYZA 代表取締役の曽根岡侑也さんに「国産」LLM のインパクトについてお聞きしました。今回は曽根岡氏に加え、KDDIでこの共創事例をリードしたKDDI 経営戦略本部 Data&AIセンターの木村塁さんと共にグループインまでの経緯、そして「スイングバイIPO」に向けた狙いをお聞きしました。


前回の記事:KDDIと手を組んだELYZA、曽根岡CEOが語る「30%業務効率化」と「日本らしい世界戦」の方法


KDDIとELYZAの出会い

実は、KDDIとELYZAの関係は設立以前から続いていました。曽根岡さんは今回業務提携をした、KDDI Digital Divergence Holdings代表の藤井彰人執行役員と10年以上前から交流があったそうで、2015年には「KDDI∞Labo」のプログラムに参加するなど、グループとは様々な接点があったことを明かしてくれました。

藤井さんとは、経産省がやっているエンジニア育成を行う未踏プロジェクトでメンタリングをいただいていて古くから繋がりがありました。また、2015年にはELYZAの前に作った会社にてKDDI ∞ Laboに参加させていただき、当時のラボ長の江幡(現・経営戦略本部 副本部長)さんや、当時の髙橋専務(現・代表取締役社長)とも一度だけお会いする機会がありました。

曽根岡氏

そのような経緯があった上で両社の連携の話は2023年の5月頃、藤井さんから食事に誘われたことをきっかけに動き出します。曽根岡さんによると、当初はシンプルな業務提携を想定していたそうなのですが「対話を重ねる中でより大きな協業の絵を描けるのではないかと考えるようになった」と振り返ります。

本当にこのLLMという市場の中で、どう勝ち上がり、どのようなアクションプランを作りますかという話し合いの中で、SaaSプロダクトや研究開発の取り組みの具体化ができていきました。

曽根岡氏

ChatGPTがもたらした「ゲームチェンジ」


国産LLM「ELYZA LLM」のウェブインターフェース(KDDIと手を組んだELYZA、曽根岡CEOが語る「30%業務効率化」と「日本らしい世界戦」の方法より)
  

一方、このディールをKDDIとして担当したのが経営戦略本部の木村塁さんです。彼は曽根岡さんと藤井さんの会話からほどなくした昨年8月、ELYZAと出会いました。当時は ChatGPTの熱狂が世界中を駆け巡り、各社の対応が社会に出始めた頃、その状況を木村さんは次のように振り返ります。

当時はバックオフィス業務やCS業務といった特定の領域でユースケースをいくつかピックアップしながら全社プロジェクトを動かし始めていた時期ですね。何か動くものがあったというよりも、どの領域でどういうものを作っていくべきかを検討しているレベル感でした。いつかはファインチューニングをしたりとかモデルを自分たちで作る必要があるかなと思いながらも、社内で実装していくというところを重視していた時期でした。

木村氏

一方の曽根岡さんは当時、単独でIPOを目指す成長ストーリーを考えつつも、ChatGPTの登場によりLLM開発には計算インフラと資本力が重要になったことを受け、大企業との連携も選択肢に入れ始めていたそうです。成長ストーリーを変化させた当時の心境を次のように語ってくれました。

弊社は単独でIPOをすることを目指していたので、2022年ぐらいまでは大企業のグループ入りや提携をすることは考えていませんでした。そんな中でご存知の通り、OpenAIのChatGPTが世間で認知され、この LLM、大規模言語モデルの世界が資本も計算インフラも揃っていることが非常に重要になってきたわけです。研究開発力だけで勝つというよりは『お金の力』も含めて、継続的な事業を作っていかなきゃいけない。この大きなゲームチェンジに対して我々は、昨年の4月や5月ぐらいから、より広く考えたときに、大企業のみなさんとのパートナーシップを組む道もあると思うようになりました。

曽根岡氏

LLMへのアプローチをスピード感をもって対応する必要があるKDDIグループと、大きなゲームチェンジを目の当たりにして戦略を練り直す必要があったELYZA。個人・法人含めて関係性もあり、思惑が一致した両社は具体的な連携についての協議を進めることになります。木村さんはELYZAと手を組むことになった決め手を次のように語ります。

LLMを作るだけでなく、大企業を中心としたお客様にLLMを使ったプロダクトを導入するという実装力があることです。そして、何よりもLLM市場に対する考え方が一致しており、現時点ではゼロからLLMを作ることにこだわっていないことや曽根岡さんの誠実さも長期的なパートナーシップを考える上では重要な点でした。

木村氏

「スイングバイIPO」が変える共創の形


ELYZAとKDDIグループ、生成AIの社会実装に向け資本業務提携を締結
  

KDDIグループはELYZAとの連携により、オープンモデルを活用した国産LLMの開発を加速させるとともに、特定の業界や業務に特化した領域特化型LLMの開発にも取り組むとしています。具体的な形はまだこれからですが、そのひとつの答えとしてクラウドサービスとしての提供があります。今後の連携に関して木村さんは次のようなイメージを持っていると語ってくれました。

我々も何かしらに特化したモデルを作っていく必要性があると思っておりました。例えばアプリケーションの上に載せたりとか、SaaSやクラウドインフラ上にのせて、お客さんに提供することが一般的なLLMを使ったソリューションの形態になります。

木村氏

重要なメッセージが「スイングバイIPO」です。今回のELYZAのグループインは決してゴールではありません。この言葉を作り、公開市場に打って出たソラコムと同様、ここからが新たな成長ステージのスタートラインになったわけです。曽根岡さんは「今回のグループ入りは目標ではなくあくまで手段」と語るように、その点を強調して次のようなコメントをくれました。

今回の資本業務提携が本当に成功するかどうかは、この後の我々の数年間の努力次第だとは思います。やはりご一緒する背景にあった『スイングバイIPO』というコンセプトの通り、ご一緒するのがゴールでは全くありません。グループ入りしてからの成長を重点的に話しましたし、対話の内容が未来に向いていたというのが、非常に良かったと思っています。

曽根岡氏

受け入れる側となった木村さんも、今回の連携に際し、次の成長ステージとしてのスイングバイIPOを意識した「KDDIグループならでは」の役割分担を考えたといいます。

ELYZAさんと一緒になったことにより、KDDIグループとしてはLLM領域の大きな力を得られたと考えていますので、単なるLLMの性能スコア争いではなく、生成AIを社会実装し、両社で社会変革を生み出していきたいと思っています。そのためにも、KDDIがまず実験台のような形で、KDDI社員の働き方をどんどん変えていくように社内に導入していくことも進め、それを社会全体に広げる、そんな活動をしていきたいなと思っております。

木村氏

インタビューの終わり、改めて曽根岡さんは次のように今回の連携の展望を語ってくれました。

我々自身、強く意識してることは二つあります。一つ目が国内トップクラスのKDDIのみなさんのお力をお借りできるという状況になったので、国内No.1の大規模言語モデル、LLM生成AIの開発者、そして社会実装の担い手に確実に近づけていくことです。二つ目は今回の取り組みの中で、グループ入りをさせていただいた形になりますが、ELYZAらしい文化を捨てることなくコラボレーションを進めていきたいです。世の中にしっかりと貢献する、本当にAIの社会実装において継続的かつ、長期的に使われるためにやるべきことは全部やる。このスタイルは変えることなく進んでいきたいと思っています。

曽根岡氏

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