1. TOP
  2. インタビュー
  3. DNPとACROVEが提携!企業のECを支援する両社が協業で目指すもの
  • インタビュー

2024年01月17日

DNPとACROVEが提携!企業のECを支援する両社が協業で目指すもの

株式会社ACROVE
松崎 保英
ECプラットフォーム事業部長
大日本印刷株式会社
上野 賢志
ABセンター事業開発ユニット 事業開発部第1グループ リーダー
大日本印刷株式会社
外村 大介
ABセンター事業開発ユニット 事業企画部ビジネスデザイングループ

2023年9月、大日本印刷株式会社(以下DNP)とECブランドの育成と販売支援を行う株式会社ACROVE は、資本業務提携しました。両社はこの提携を通じて、技術やノウハウを組み合わせ、企業のD2C(Direct to Consumer)事業の推進や新サービスの開発を進めるとしています。


ECと言えば、数あるインターネットサービスの中でも歴史は比較的長いので、一見、機能やサービスとしては出尽くしたように思えますが、まだまだ進化の余地があるようです。DNPが通販事業支援を始めたのが2004年、そして、ACROVEが事業を始めたのが2018年と、DNPがACROVEより14年早く始めたと見ることができますが、互いに同業でもある両社はタッグを組むことで何を得ようとしているのでしょうか。提携に至った背景と展望をお聞きしました。


ACROVEさんとDNPさんの最初の出会いについて教えてください。

松崎:前の会社は、顧客のデータ解析を手掛けるトレジャーデータ株式会社です。その会社が買収されてソフトバンクグループにジョインした際に立ち上がった、データを基軸にしたマーケティングコンサルファームにてアカウントマネージャーやパートナー開拓を担当していました。そこで、データを活用したオンラインとオフラインを組み合わせたデジタルマーケティングの共同提案をDNPさんに行っていたことがきっかけです。そこでのお付き合いがあり、転職をした際にご連絡し、ACROVEでの協業の提案をいたしました。

バックエンドの仕組みは、紙でチラシを作るにしても、雑誌を作るにしても、場合によってはコールセンターにおいても、デジタルだけでは済まないことがほとんどです。デジタルだけではなく、オフラインでの展開を考えた時に、全ての施策の実行や事務局運営ができるのが、DNPさんでした。DNPさんは歴史も長く日本企業として信頼があり、多くの知見を有しています。そこで、ACROVEに転職をして、EC販売支援を行う上で戦略立案と運用代行、さらには消費者の手に届くまでのバックエンドの強化を目的に、DNPさんに一緒にやりませんかとお声がけしました。

外村:DNPとしても自社ECを運営していくという点で、何かしら自社で強みを作り、蓄積していくことが必要と考えておりました。その時に、まさにACROVEさんは、単にECを支援するだけでなく、自らECブランドを運営している点で、私たちも学ぶべきことが多いと感じました。そこで、ぜひ一緒にお取り組みさせていただきたいという形で話が進みました。

DNPさんのプロジェクトのミッションや役割について教えてください。


DNP 外村氏  


DNP 上野氏

外村:私と上野はABセンターに所属しています。ABセンターは、DNPの事業セグメントの一つであるスマートコミュニケーション部門における社会課題解決に取り組んでおり、オールDNPで新しい事業を継続的に創出することを目指しています。私はビジネスデザイングループに所属しており、私のミッションとしては、スタートアップ企業を中心としたアライアンスパートナーを開拓し、彼らが持つサービスや技術と弊社の事業やアセットを融合させ、協業を推進することです。

上野:私はABセンターの事業開発部に所属しており、主にEC領域での新規事業の探索と事業化の検証を行い、新しいビジネスチャンスを創出する役割を担っています。現在は、自社でECサイトの事業を運営することと、アライアンスパートナーであるACROVEさんとの事業開発を、両方同時に推進するというミッションの下で進めています。

決済やECに関しては30以上のサービスを提供されていますが、EC事業の全体像について教えてください。


DNP D2C支援サービスの全体像

外村:元々は通販事業の支援で、企業のEC事業者向けに「CommerceLine SP」というパッケージサービスを提供しています。これが我々の基軸で、中心として取り組んでいる事業になります。もちろん、そこだけではなく、バックオフィスの運営や運用に対しても、様々な機能を提供しています。

たとえばDNPの物流やDMの発送など、製造面での支援も行っています。また、自社にクリエイティブスタジオを持っており、商品の撮影や広告のクリエイティブ制作運用なども依頼を受けています。DtoCは現在増えている中で、特にAmazonや楽天などのモールに対して小規模なECからスタートするメーカーさんやお客様が増えています。我々もその分野での支援はまだ発展途上にあり、小規模や中規模のEC支援を強化したいと考えていました。そのため、ACROVEさんとのパートナーシップを組むことで、総合的な強みを生かせると考えて、今回その話を進めさせていただきました。

コロナ禍におけるEC市場の拡大が、提携の動きを加速させたのでしょうか?


CommerceLine SP サービス内容

外村:ECパッケージシステムの「CommerceLine SP」は、システムベンダーとしてだけでなく、クリエイティブ制作、プロモーション支援、バックオフィス業務など、ECのバリューチェーン全体の支援を行っています。確かに、コロナ禍においてEC市場が拡大しており、従来の印刷物を含む店頭支援が強みであったものの、デジタルシフトが必要になりました。そのため、ECサービスの強化を課題として捉え、協業に着手しています。

松崎さんの仕事、経歴、今回の協業における役割について教えてください。


ACROVE社 松崎氏

松崎:私たちの会社はEC売上最大化に向けた支援を全般的に行っているベンダーですが、特にユニークな点は、自社ブランドの運営を行っていることです。比較的女性の方が購買活動が活発であり、EC市場も女性の需要が多いので、私たちが持っているブランドも、女性向けの商品が多いです。最初に始めたのはプロテインでしたが、そこからアパレルや日用品雑貨、食品やコスメなど、幅広い事業を展開しています。私たちのコマーストランスフォーメーション事業は、蓄積したノウハウを外部に展開していくことです。私の経歴について言えば、元々はEC業界ではなく、直近10年間はマーケティングとテクノロジーのベンダーで顧客体験やUI/UXに取り組んできましたが、私はフロントラインの商売に興味を持ち、現在の会社に参加しました。

私のキャリアは、テクノロジーベンダーからデータ分析、AIの導入、インフラ構築、さらには接客業にも携わってきました。一般的にはその逆のキャリアパスを辿ることが多いのですが、逆に上から下に降りてきたというような経歴になっています。私の役割は、社外に向けて、私たちがブランド事業で蓄積したノウハウを発信、展開することです。DNPさんとの関係では、私たちとDNPさんのパートナーアライアンスによるプロジェクトマネジメントも担当しています。ECにおける広告戦略や販売支援の部分は重なっているので、そこでシナジーを生み出しています。販売に関わる支援の先、具体的にはコールセンターといった、消費者の手に届くまでのバックエンドの仕組みは、DNPさんがより多くの経験と知見を保有しているので、協業により補完することで、お互いの強みを最大限に生かして価値を生み出すと考えています。

ACROVEさんの強みや独自性について教えてください。


ACROVE社の強み

松崎:一般的なECサポートベンダーは、顧客に代わって作業を行う運用代行のような会社が多いのですが、私たちのサービスは異なります。単にECサイトの運用をするだけではなく、事業者様の商品についてデータに基づいて販売戦略を立案、提案することが出来ます。元となるそのデータは弊社独自のBIツールである「ACROVE FORCE」に蓄積されたビッグデータです。

例えば、プロテインの販売戦略をたてる上では、競合分析や健康関連製品のECモール上での売れ行き動向などをデータで分析して、当該商品の健康関連製品における位置付けと訴求対象者の方向性を提案します。私たちは、戦略から戦術、オペレーションまで一貫して支援を行います。コンサルティングや運用代行だけではなく、一貫した販売支援サービスを提供していることが私たちのユニークな点です。私たちは実行まで責任を持っています。

ACROVEさんとDNPさんがこの度の協業を進める上で遭遇した課題や困難はありましたか?

外村:ABセンターとして新しい方針を立て、社内を動かしていく必要がありますが、何百人、何千人もいる営業チームの全員にこの協業の意図やACROVEさんと組んだ目的を理解してもらい、サービスを売り込むマインドセットを持ってもらうことに時間がかかるところが最大の課題です。

上野:事業を推進する上でパッションは非常に重要だと考えています。ACROVEさんがものすごく持っていらっしゃって、我々からするともう眩しいというか、非常に刺激を受けています。まだ我々自身がそのマインドに完全になりきれていないので、教わりながら伴走し、一緒に新しいものを作っていく気概で取り組めるといいと思います。

どうのようにして困難を乗り越えましたか?

松崎:連携を開始してからまだ2ヶ月ということもあり、現在は歩幅や歩速をすり合わせているところです。連携開始からすでに10件以上の提案を一緒に行っています。多くの大切なお客さんに提案をするスピード感や意思決定の早さは、よくある大企業の動きを超えたものだと思います。スタートアップのスピード感にも理解を示してくださり、とてもありがたいと思っています。素晴らしい組織で大好きです。

スタートアップと大企業が協業する際に意識すべき点はありますか?

外村:大企業側のルールやカルチャーがスタートアップのスピード感やチャレンジ精神を損なわないように、大企業として意識して取り組む必要があります。パートナー関係を重視し、受発注ではなくアライアンスパートナーとして互いの強みを掛け合わせ、対等な関係で協業を続けることを意識しています。

松崎:スタートアップは大企業ができないことを補完することが役割だと思っています。今回の出資の意図は、大企業では試しにくいことも、機動力の高いスタートアップであれば実行できると期待されているからだと思っています。期待されている、ECに関わることを何でも提案する自由度と実行に移す速さを意識して取り組んでいます。

現況のEC市場に関する課題と、協業を踏まえた可能性について教えてください。

松崎:課題について言えば、特に大企業に多い現象として、アフターコロナの中でEC事業の扱いをどうするかが問題です。コロナ時代にECを始めた会社が多く、コロナが終わり店舗販売が再び可能になると、ECをどう継続していくかが問われています。巣ごもり需要によりECをただ出しておけば売れていた時期がありましたが、今は購入の意味をしっかり作る必要があります。DNPさんとの協業において、目指していくこととしては大きく二つあります。一つは、購入の意味を作ることです。モールや自社ECでの購入の動機は、プロモーションと密接に関連しています。デジタル広告やCM、SNSを通じたファンマーケティングなど、デジタルとリアルを横断してブランドのファンになってもらうことが重要です。

もう一つの目標は、中長期的に購買ができる場所、体験ができる場所を作ることです。我々もブランドを取り揃え、特定のカテゴリーで購買体験を提供する場を作りたいと考えています。DNPさんは技術や支援ベンダーを抱えているため、そういった場の創出に適しています。それがモール形式か、それ以外は未定ですが、そういったことを目指しています。

DNPさんにとっての、クライアント支援における課題について教えてください。

上野:実際、一概には言えない難しい部分があります。大手メーカーは豊富なリソースを持っているように見えますが、市場環境の激化により厳しい状況にあります。複数のブランドを持っている企業では、事業運営の幅が広がることでリソースが分散し、やりたいことができない、または改善が必要な箇所が放置されている場合があります。また、ブランドごとに組織が縦割りになることで部分最適化され、顧客価値の最大化ができていないこともあります。たとえば、クロスセルの機会がうまく利用されていないなどの課題があります。

また、商品やサービスの品質が同質化してきている中で、差別化が難しくなっています。ブランドに対する興味を持たせ、選ばれ続けることが大きな課題です。自社の顧客に対してアップセルをかけることが基本ですが、他企業の顧客へのアプローチや新たな顧客の創造に関する仮説づくりも重要であると考えています。こうした潜在的な需要に対して、先回りしてサービスを提供できることが重要と考えています。

中小企業のD2C事業者や、EC事業を始めたばかりの事業者が抱えている課題について教えてください。

松崎:シンプルに「人」ですね。正確に言うとEC運用担当者と人材に伴う運用ノウハウ不足です。特に首都圏を除くエリアの事業者様において、いいものは作っていても売り方や売る仕組みが分からないということがあります。「良いCommerceが、届く世界へ。」をビジョンに掲げる私たちは、東京だけではなくエリアの事業者様の支援を強化したいと思っています。

地方創生を本当の意味で行いたいと考えているものの、ACROVEだけではリーチが難しいこともあり、歴史と信頼のあるDNPさんとのパートナーシップにより事業拡大を期待しています。EC売上最大化に向けて販売支援の幅をより拡充し、支援する事業者様を拡大したいと思っています。DNPさんと協力することで、中小企業の課題であるノウハウと人材不足を補い、安心感を持ってサポートできると考えています。

出資に至った経緯について教えてください。

外村:受発注の関係では案件がないと話が進まないことがあり、既存のサービスを代理として売るだけでは限界があるため、協業を進める方向で出資を検討し始めました。目的としては、EC人材の強化とACROVEさんの人材交流を通じて、社員が知見を学ぶことです。専門人材の育成が一つの重要なポイントです。

松崎:協業のお話のご挨拶から資本業務提携に至るまで全て、私が入社してから1年以内の出来事です。ゴールデンウィーク明けくらいに協業の相談に行きました。その当時、ACROVEが資金調達のタイミングということで、業務提携を超えて資本業務提携のお話もしました。DNPさんには、ACROVEとの長期的な関係によるシナジー効果、今後の展望への期待を感じていただき、この度の資本業務提携に至りました。大企業が4、5ヶ月で意思決定して資本業務提携に踏み込むことは多くなく非常に速いと思います。EC領域に本気で取り組んでいるなと感じ、私たちも本気で取り組む必要があるなと思いました。

この度の提携により、既に開始されているサービス、更に今後始まるサービスについて教えてください。

上野:ACROVEさんの強みはECコンサルティング、モールの支援、データ分析などです。これらを両社の強みを補完しながら顧客に提供するサービスをバンドル化し、顧客に価値を提供することを考えています。また、DNPとしては、BPO領域にリソースを投下して拡大していく予定です。特にコールセンターやロジスティックスにおいて、顧客の声をデータ化し、分析することで、ACROVEさんの分析知見と組み合わせ、戦略的なEC支援を実現するサービスを考えています。

外村:営業活動を始めるにあたり、まず化粧品業界や家電業界など業界別の社内勉強会を開催しました。これにより、既にいくつかの提案を行い、約10社程度の販促活動が始まっています。特にACROVEさんのデータの強みを活用した提案が、顧客の興味を引いています。例えばモール内での特定の事象やカート落ちなどのデータを示しながらの提案が、商談の進展に繋がっています。

また、地方創生に関連して、東京だけでなく地方のエリアでも反響があります。地方の金融機関や酒造メーカー、お菓子メーカーなどからの問い合わせが増えており、これらのメーカーがECを展開する際に、我々が提供する新しいサービスが役立つと考えられています。パッケージとして提供することで、既存の取引先との関係性を深め、商品開発や製造に関わる企業への提案領域を拡大しています。これが反響として現れ、今後の展開にも繋がる重要なポイントだと感じています。

今後の展望について教えてください。

外村:ACROVEさんが行っているようなECロールアップ、つまりECブランドの買収運営を我々も事業として検討しています。また、海外展開に関しては、越境ECや海外で成功しているブランドを日本に輸入し、販売ライセンスを取得して日本でのEC運営を考えています。これらのテーマはまだ我々が取り組んでいない分野ですので、一緒にチャレンジしたいと考えています。

上野:今年度は、ACROVEさんとの取り組みをキックオフして数ヶ月ですが、スピード感を持って取り組んでいきたいと考えています。お互いの強みを補完し合い、新しい価値を創造することを基軸に展開していきたいです。特に今年度は、相互理解を深め、強みも弱みも明らかにして、積極的に交渉を進めることを大前提として考えています。そしてまずは、EC事業課題を抱えるクライアントとのコンタクトを増やし、深い関係性を築いてビジネスに繋げていくことを目指しています。来年度以降は、DNPの顧客だけでなく、ACROVEさんのユーザーにもサービスを提案し、幅を広げていくことができるといいなと思っております。

また、新しいソリューションや地方創生などのキーワードを踏まえた新サービスの開発を開始し、市場に提供していきたいと考えています。2025年度には両社のサービスを組み合わせた提案を加速させ、バーチャル空間での新しい買い物体験などの新しい付加価値を提供し、売上規模の拡大とお客様への価値提供を目指しています。

今後の意気込みを教えてください。

松崎:DNPさんというとても懐の深いパートナーと一緒に取り組むことができたことを本当に感謝しています。通常、セールスの現場まで速やかに進むことは難しいのですが、DNPさんは柔軟に「一旦チャレンジしてみよう」という姿勢で今お取り組みしていただいているので、それには本当に感謝しています。

上野::EC領域の事業開発を行う上で、自社の限界を知る中、協業やアライアンスパートナーとしてACROVEさんと協力することで、新しいサービスをEC市場に届けられることが非常に楽しみです。非常にチャレンジングな取り組みですが、ACROVEさんと一緒ならば新しい世界が見えると思っています。今後も協力していきたいと考えています。

外村:「何でもやる」という精神を持ち続けながら進めていきたいと思っています。このパートナーアライアンスがDNP内で成功事例として認知され、協業を加速させるきっかけとなるように努めていきます。これからも実績を作り、積極的に発信していきたいと考えています。

松崎:DNPさんと一緒に何かをするのであれば、世の中に価値やインパクトを与える取り組みをしたいと思っています。日本が今少し下火になっている中で、特に地方の企業が持つ素晴らしいものを国内外に広めたいと本気で考えています。海外から日本への流れも考慮し、この両方を一緒に進めたいと思っています。単独では時間がかかるため、DNPさんのような大きなプレーヤーと協力することでスピードを上げることができると考えています。収益を上げるだけでなく、世の中の流れを変えるような、盛り上がりを生むものを作りたいと思っています。

ありがとうございました。

関連記事

インタビューの記事

すべての記事を見る記事一覧を見る

Contactお問い合わせ

掲載記事および、
KDDI Open Innovation Program
に関する お問い合わせはこちらを
ご覧ください。