- インタビュー
2024年11月01日
海外名門VCがダイニーに初出資したワケーー約75億円を調達した山田CEOに聞くその顛末
- 株式会社ダイニー
山田 真央 - 代表取締役
飲食店向けクラウドサービスを提供するダイニーは9月、海外VCからの大型資金調達を発表しました。出資したのはアメリカのBessemer Venture PartnersとHillhouse Investment Managementで、この二社が共同でリードし、Flight Deck Capitalと、Eclectic Managementが参加しています。
このラウンドで同社は合計74.6億円(4,800万米ドル)を調達。これは2021年7月のシリーズAラウンドに続くものです。今回出資したBessemer Venture Partnersは1900年代に事業開始した伝統的なベンチャーキャピタルで、これまでにもShopifyやLinkedin、Boxといった有力企業を支援したほか、最近では生成AIでトップティアを走るAnthropicなども出資先に持つ超名門です。同VCにとって初めて日本のスタートアップへ投資を実施したのがダイニーでした。
ダイニーは2018年6月、現在 CEO の山田氏が東京大学在学中、飲食店でのアルバイト経験をもとに起業。飲食店の売上増を支援する「ダイニー POS レジ」「ダイニーモバイルオーダー」などのクラウドサービスを開発・提供してきました。直近では、9月にファイナンス領域への進出を発表しており、業界最安水準の手数料となる飲食店向けキャッシュレス決済サービス「ダイニーキャッシュレス」の提供を開始。さらにHR事業「ダイニー勤怠」の展開も公表しました。
本記事では代表取締役の山田氏に、グローバル進出への構想や、日本のスタートアップが世界で戦うために必要なマインドセットについて語っていただきました。
世界進出は「グローバル企業の自覚から始まる」
「ダイニーモバイルオーダー」の利用者が2,000万ユーザーを突破(リリースより)
山田氏は日本のスタートアップが世界で戦うために最も重要なのは、マインドセットの変革だと考えています。もし自社を「日本のスタートアップ」として捉え、グローバル投資家を遠い存在と見なしてしまうのであれば、これが根本的な誤りだと指摘します。
私は帰国子女なのですが、大学時代には世界一周を経験したこともあり、幸いにも日本人が欧米人に対して抱きやすい憧れや恐れ、気後れといった感覚がありません。漫画『BLEACH』の有名なフレーズの一つに “憧れは理解から最も遠い感情”とある通り、憧れているだけでは永遠に理解も超越もできないままだと考えています。
山田氏
そこで山田氏はダイニーを最初から「グローバルスタートアップ」として位置づけ、海外の投資家と対等な立場でコミュニケーションを取ることや、グローバルな視点から自社を評価することを強く意識していたそうです。こうしたマインドセットがあれば、海外VCへのアプローチ方法は極めてシンプルなものになります。そう、SNSです。
山田氏はLinkedInを活用し、直接トップティアのVCにコンタクトを取ったのです。Bessemer Venture Partnersのようなトップティアのファームでも、パートナー全員がLinkedInを使用しており、直接メッセージを送ることが可能です。
しかし、多くの日本人起業家はこの方法を活用していないと山田氏は指摘します。
ダイニーの資金調達プロセスは、綿密な計画と戦略的な投資家へのアプローチにより実行されたそうです。まず、山田氏は300社ものVCや投資機関をリストアップ。次に比較的知名度の低いVC約10社と対話し、ピッチをブラッシュアップしていきました。この準備段階を経たことで、トップティアの投資家とコミュニケーションを取るときには、ピッチの質が洗練されていたといいます。
(投資家を)300社ほどリストアップして、チャレンジしやすい投資家から当たっていきました。10社ぐらいの方々と話をして、ある程度論点もクリアになったところで、残り40社ぐらいとコミュニケーション取りました。(トップティアVCであったとしても)別に会えなくないんです。LinkedInなどは全員やっているので、つながろうと本気で思ったら繋がることは可能なんです。
山田氏
海外VCの心をつかむ
同社リリースより
投資家との対話において、山田氏が重視したのは2つです。一つは市場規模の大きさを示すこと、もう一つはその市場で勝てることを証明することです。これらを具体的な数字や戦略で裏付けることが、投資家の心をつかむ鍵となったといいます。
興味深いのは、海外の投資家と日本の投資家との質問の違いです。
海外の投資家は大局的な視点から質問する傾向があり、市場規模や勝算に焦点を当てている一方、日本の投資家はより細かい点に注目し、マネタイズ戦略や会社の運営面に関する質問が多かったと話しました。
日本と海外の投資家の思考は、大きく異なります。
グローバルの投資家は大きな資金を投じて大きなリターンを得ることに重点を置く一方、日本の投資家は投資から得られる最大限のパフォーマンスを求める傾向があるように思います。
山田氏
最終的にダイニーは、世界的に知名度の高いVCからの投資を獲得することに成功しました。これらの投資家を選んだ理由として、山田氏は大きなチケットサイズと将来的な追加投資の可能性、さらには彼らが持つグローバルネットワークへのアクセスを挙げています。
特にBessemer Venture Partnersについては、過去の投資先である有名テック企業の経営者との直接的な繋がりを提供してくれる点を高く評価しています。これにより同じフェーズにある世界トップクラスの企業の経営者から、直接アドバイスを得られる可能性が開かれました。
山田氏
海外投資家が高評価したポイント
「ダイニーモバイルオーダー」の利用者が2,000万ユーザーを突破(リリースより)
ダイニーの事業モデルとポジショニングは、投資家から高い評価を受けた重要な要素です。山田氏は「多くの人々がダイニーをモバイルオーダーの会社として認識している一方、投資家たちは既にダイニーを飲食店のインフラを提供する企業として評価しています」と強調しました。
この「インフラ」としての位置づけは、ダイニーの事業ビジョンと戦略を反映しています。ダイニーは単にモバイルオーダーシステムを提供するだけでなく、飲食業界に必要なありとあらゆるソフトウェアを開発・提供することを目指しています。
この戦略は、日本国内の巨大な飲食市場を基盤としつつ、さらにアジア市場への展開可能性を見据えたものです。山田氏は、日本の飲食業界の市場規模の大きさに加えて、まだ手つかずのアジア市場の潜在性に注目していました。
特に、日本企業がアジア市場に進出する際の優位性を指摘しています。
北米企業と比較して、日本企業はアジア市場により高い親和性を持っています。これは文化的背景や商慣習の類似性によるものです。日本企業でさえ商慣習や制度の違いから、アジア進出には困難を感じる場合が多いですからね。
山田氏
さらに山田氏は、日本の飲食店の海外進出を総合プロデュースする事業の可能性も示唆しています。これは単なるソフトウェア提供を超えて、日本の飲食文化の国際展開をサポートする包括的なプラットフォームを創る取り組みです。
投資家たちは、このようなダイニーの戦略的ポジショニングと市場機会を高く評価しました。特に、アジア市場でのリーダーシップを獲得する可能性に大きな期待を寄せたのです。
ダイニーの飲食店インフラとしての評価は、現在の事業モデルだけでなく、将来の成長潜在性と戦略的位置づけも含めた総合的な判断に基づいています。投資家たちは、ダイニーが日本とアジアの飲食産業のデジタル化を牽引する可能性を見出し、その成長戦略に大きな期待を寄せてくれたのです。
山田氏
グローバルスタートアップに必要な長期視点
ダイニーは海外VCからの大型資金調達を受け、具体的なグローバル展開の計画を進めています。まず人材面での国際化から着手しています。ダイニーは既に6カ国から人材を採用し、多様な文化的背景と専門知識を持つチームを作り上げようとしています。
ビジネス面での海外展開戦略については、2つの方向性を示しました。
一つは、現在日本で展開している飲食店向けのインフラサービスを海外市場に移植すること。もう一つは、日本の飲食店の海外進出を支援するサービスを展開することです。
特に日本の飲食店の海外進出支援は、ダイニー独自の強みを活かせる分野だと考えています。日本の高品質な飲食サービスをグローバル市場に展開する際、言語や文化、現地の法規制など、多くの壁があります。ダイニーはデジタル技術とグローバルなネットワークを活用することで、これらの課題解決を支援していきます。
山田氏
もちろん課題もあります。例えば特定の国や地域への進出については、現地のパートナー企業との調整や、規制の精査などを慎重に進める必要があります。海外展開が長期的かつ段階的なプロセスであり、市場の状況や機会に応じて柔軟に戦略を調整していく必要があるといえるでしょう。
まず強調したいのは、海外の投資家も普通の人間であり、直接コンタクトを取ることで多くの機会が開けるということです。また、海外展開では常に長期的な視点を忘れないことが重要です。グローバル展開は一朝一夕には実現しません。
人材の国際化から始まり、段階的に事業を拡大していくプロセスが必要です。グローバルな視点を持ち、積極的にコミュニケーションを取ることで、日本から大型のグローバルスタートアップが誕生する、その成功事例となれるよう進み続けたいと思います。
山田氏
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