- インタビュー
2021年07月20日
Give Firstを徹底して世の中の価値総量を増やすーー電通ベンチャーズの100億円ファンド
- 電通ベンチャーズ
笹本 康太郎 - マネージングパートナー
電通グループは4月27日に同社のCVCである電通ベンチャーズの2号ファンド組成を公表しました。運用規模は2015年4月に組成した1号ファンドと同じく100億円で、これまでに合計200億円を運用していることになります。1号ファンドではミドルステージ以降の海外スタートアップを中心に約40社ほどに投資されたそうですが、2号では国内にも注力し、事業共創については社内のR&D統括組織である電通イノベーションイニシアチブ(DII)と連携した活動も推進されています。
これまでの投資領域では、電通グループが主力とする事業とは直接関わりが薄いバイオやヘルスケアといった飛び地への出資も目立ちましたが、2号ファンドではマーケティングやセールス、リテール、メディアやコミュニティなど、より近い領域へのフォーカスを強めるという方針に変更されています。
本記事ではこの電通ベンチャーズにてマネージングパートナーを務める笹本康太郎さんに、スタートアップ投資の活動についてお伺いしました。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答は電通ベンチャーズの笹本康太郎さん)
今年4月に新ファンドを発表されましたね
笹本:電通ベンチャーズは海外のスタートアップへの投資をメインフォーカスに、100億円のサイズで2015年に設立された電通グループのCVCです。当初から財務リターンをしっかり出しながら飛び地での事業アセット構築を狙う方針で、ヘルスケアやEdtech、Foodtechなども含む幅広い領域に投資してきました。
一方、今年の4月に組成した100億円の2号ファンドでは今後、国内への投資も積極化していく予定です。2号ファンドの当初ターゲットは、より電通グループの現業に近い領域であるマーケティング・セールステクノロジー、コマース・リテール、メディア・コンテンツ・コミュニティ、XR、バーティカルDXなどとしています。これらは今後、継続的にアップデートしていく予定です。
改めてファンドの特徴や強みを教えてください
笹本:まずやはりグローバルの強みがあります。海外有力VCとのネットワークが強く、前述した通り投資先の9割以上が海外企業である点ですね。
次に幅広い事業支援です。電通グループの幅広い事業リソースを活用したサポートが可能なので、この点はスタートアップの成長にプラスになると考えています。それと顧客ネットワークです。ポートフォリオとのオープンイノベーションに関しては、電通とだけではなく、電通グループの顧客との連携にも力を入れています。
本体投資もある中でCVCとしてのポジショニングや役割をどのように考えていますか
笹本:全体としてはファンド投資、本体出資・連携、M&A等を有機的に組み合わせてオープンイノベーションを推進する方針です。
電通ベンチャーズはグループ全体のR&D統括組織である電通イノベーションイニシアティブ(DII)で管轄していますが、DIIには多くの実績を持つ事業開発部隊や、様々な外部機関と共に最先端領域の研究を進めるインテリジェンス部隊、Dentsu Internationalとのリソース連携を推進する専門部隊などがいます。
事業支援や事業共創を多面的にサポートすることが可能なので、取り組みの先にはより本格的な事業開発や資本業務提携、あるいは電通グループによる事業投資やM&Aの可能性も見据えています。現在はこれらのプロセス間の連携精緻化を進めているところです。
ファンドとして代表的な共創のケーススタディを教えてください
笹本:LiveLikeというスポーツ観戦の没入型ファンエンゲージメントプラットフォームを開発する米国のスタートアップです。放送事業者やIPホルダーに対してVR空間でスポーツ観戦等ができるプラットフォームを提供し、ユーザー同士のインタラクションやコマース展開の機能でエンゲージメントを向上させるようなサービスを提供しています。電通ベンチャーズとして彼らの日本進出をサポートしました。
例えばスポーツ領域でのビジネスに関しては権利保有者やスポンサー等とのパートナーシップ戦略が重要になります。そのコーディネーションやプロデュースを電通グループのリソースを活用して実施しています。
また一般消費者向けのサービスなので、ローカルユーザーのインサイトに基づいたUI/UX設計もポイントになるのですが、ここも電通のプランニングチームと連携して開発サポートを手掛けました。現在はVRに限らず、モバイルデバイスでのファンエンゲージメント機能の日本展開に関しても協業を進めています。
LiveLikeサービスイメージ
もうひとつ、コマース関連でNarvarのケースもあります。
彼らはオンライン購入後の配送や返品にフォーカスし、顧客体験を向上させるサービスを提供しています。自社ECを展開するブランドに活用いただいており、配送業者とも連携した配達タイミングの通知やシームレスな返品対応等のサポートを通して、顧客の購入コンバージョンやLTV向上を実現しています。私たちは彼らの日本拠点設立のお手伝いをしました。日本マーケットのフィージビリティ分析やサイト構築、人材採用等において全面的にサポートし、現在も引き続きサービスの拡販及び日本向けの独自機能やサービス開発で協業を推進しています。
Narvarサービスイメージ
出資における意思決定で重要視しているのはどのようなポイントですか
笹本:戦略リターン、財務リターンの双方をしっかり見て投資検討をしています。戦略面に関しては長期的・大局的な価値創造を目標に、投資先と長期的な共創関係を築けるかがやはり重要です。領域によっては電通グループが見据える将来的なエコシステムに関する戦略仮説を持っているところもあるので、相性が重要になるケースもありますね。
財務リターンに関しては恐らく他のCVCと比較しても厳しい基準で見ていますので、取り組みを継続していくためにも必要な財務リターンをしっかり追求していく方針です。
出資プロセスはどのようなものでしょうか
笹本:海外スタートアップを対象にしていたこともあって、検討プロセスは必要に応じて最短2週間〜1カ月程度で進められるよう、機動力のある体制を組んでいます。
ただし、当然時間があれば電通グループ内の関連部署と協業ポテンシャルをより深掘りして分析ができるため検討の精度は上がりますね。その方が投資先と長期的なwin-winの関係を築けるようになることも多く、その辺りのマッチングの質とスピードのバランスを意識しながら投資検討をしています。
Give Firstを徹底し、世の中の価値の総量を増やす「Value Creation」に全力を注ぐことで、スタートアップと大企業の共創関係を進化させ、起業家がより良い未来を作り出していくことを徹底的にサポートできればと考えています。
ありがとうございました。
関連記事
-
ビックカメラがCVCを設立、スタートアップ企業との協業で目指す脱小売への挑戦
2021年12月22日
-
オリエンタルランド・イノベーションズが目指す事業共創のカタチ
2021年06月10日
インタビューの記事
-
アジア市場を足がかりに、グローバル展開を加速するトリファの成長戦略を聞く
2024年11月07日
-
スタートアップに会いたい!Vol.88- 三菱商事
2024年11月05日