1. TOP
  2. インタビュー
  3. 韓国発AI映像解析がローソンを変える──Deeping Source、プライバシー保護で描く小売DXの未来
  • インタビュー

2025年07月24日

韓国発AI映像解析がローソンを変える──Deeping Source、プライバシー保護で描く小売DXの未来

Deeping Source Inc.
Pete Tae-hoon Kim  (キム・テフン)
CEO

防犯カメラの映像から顧客の行動を分析し、店舗運営を最適化する。そんな AI 技術を武器に、韓国発のスタートアップDeeping Sourceが日本市場に本格参入します。同社は高輪ゲートウェイシティのローソンに AI 映像解析ソリューション「PlusInsight及びPlusAgent」を導入し、日本のコンビニ業界に新たな変革をもたらそうとしています。

創業者で CEO の Pete Tae-hoon Kim(キム・テフン)氏は映像 AI 分析のパイオニアです。プライバシーを侵害することなく顧客データを分析する独自技術で、韓国では既にコンビニや韓国大手コスメドラッグストアなどへの導入実績を持ちます。

人手不足が深刻化する日本の小売業界において、AI が店長の役割を担う時代は既に始まっています。キム氏が描く「プライバシー保護と効率化を両立した小売 DX」の全貌を聞きました。


映像とデータの融合で実現する「AI店長」

弊社は映像を基盤として活用しますが、映像だけでなく、売上データや店舗運営データ、周辺商圏、天気など様々な情報をすべて総合して、複数の店舗を分析しています。

キム氏

Deeping Source の「PlusInsight」は、防犯カメラの映像解析を起点に、売上データや気象情報まで組み合わせた包括的な店舗分析ソリューションです。複数店舗のデータを同時に処理し、各店舗に最適な運営方針を自動で提案・実行する点が特徴です。

今回導入されるローソン高輪ゲートウェイシティ店では、2店舗を同時に比較運営し、相互に自動で感知・制御する仕組みを構築します。これにより、人的リソースが限られる環境でも最適な店舗運営が可能になります。

キム氏は AI の役割を「専任アシスタント」と表現します。AIは各職位間で、報告やタスク調整により店舗運営を円滑化します。

小規模な店舗では、そのような人を別途雇用することはできないため、AIがその役割を担っていきます。

キム氏

韓国では既に50店舗以上での導入が予定されているそうです。というのも、韓国のコンビニは日本よりも小規模で、多くが1名体制で運営されているため、AI による効率化のニーズがより切実だからです。

キム氏によると、韓国のコンビニは非常に小さく、面積が日本の1/3程度で1名がすべてを担う構造になっている一方、日本のコンビニは空間も広く、商品の SKU もはるかに多いため、より複雑な最適化が求められるといいます。

この違いにより、韓国では「1名でいかに負担を減らすか」が重要なポイントですが、日本では「どのように効率化し、売上向上につなげるか」という視点での展開を想定しています。

プライバシー保護で実現する顧客体験向上

同社の競争優位性を支えるのが、独自のプライバシー保護技術「SEAL」です。従来の映像解析では個人識別情報(PII)の除去により AI 学習用データの精度が低下する課題がありましたが、SEAL では顔や車のナンバープレートなどを匿名化しながらも、オリジナルデータと同等の精度を保持できます。

この技術により、プライバシーを重視する現代社会においても安心して AI 映像解析を活用できる環境を実現しています。世界の主要企業からも支持を得ており、サステナブルな AI 技術開発の基盤となっています。

キム氏が究極的に追求するのは、顧客体験の向上です。

いつもそのコンビニに行けば、私が必要な商品はすべてあると感じてもらうこと。そして店舗の状態がいつも良好であることです。

キム氏

ここで言う「状態」とは、清潔度や陳列、動線の便利さ、待機時間など、店舗体験全体を包含する概念です。

お客様が来店すれば、探している商品がすべてある。そして良い体験をして帰っていただく。まるでプレミアムな店舗を利用したかのような感覚を提供したいのです。

キム氏

これらの体験向上は、結果的に店舗の収益向上にも直結します。特に大型店舗では、目的購買の後に「他に何があるか」という動線の延長が売上成長の鍵となるため、AI による最適化効果がより顕著に現れます。

日本市場での本格展開へ

キム氏は今後の展開について「まずはコンビニで確実に成果を出したい。そして迅速により多くの店舗で活用されることを目指します」と意欲を示します。また、KDDI との連携により「他の分野でも進行中の案件があるため、相乗効果により展開が加速するでしょう」と、市場拡大への期待を語ります。

同社は先日、Forbes Korea から「韓国の AI 企業50」に選ばれるなど、その技術力と市場での存在感を高めています。約50名の社員を抱える規模ながら、AI 映像分析分野でのパイオニアとしての地位を確立しています。

キム氏は「Deeping Source のミッションは『安心安全で危険のない AI を実現させ、世界中を取り巻くすべてのデータを守りきる』ことです。プライバシー保護と技術革新を両立させながら、日本企業が安心して革新的な AI を利用できる環境構築を目指しています」と語ります。

人手不足と効率化要求が高まる日本の小売業界において、Deeping Source の AI 技術がどのような変革をもたらすのか。ローソン高輪ゲートウェイシティ店での実証実験は、日本の小売 DX の新たな可能性を示すリトマス試験紙となりそうです。

関連リンク

関連記事

インタビューの記事

すべての記事を見る記事一覧を見る

Contactお問い合わせ

掲載記事および、
KDDI Open Innovation Program
に関する お問い合わせはこちらを
ご覧ください。