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2025年05月26日

ラップより薄いフィルムで宇宙大型構造物の実現を目指す「cosmobloom」世界初の成功を支えた解析技術とは

株式会社cosmobloom
福永 桃子
代表取締役

サランラップより薄いフィルムを宇宙で大きく広げ、アンテナや太陽電池パネルに変える。日本が世界をリードする「宇宙柔軟構造(ゴッサマー構造)」技術を武器に、宇宙ゴミ対策や宇宙太陽光発電に挑む気鋭のスタートアップが、cosmobloomです。同社代表取締役を務める創業者の福永桃子氏に、同社の歩み、独自技術をもとに目指す今後の展望などを伺いました。


「常に美しく、広がる技術で宇宙開発に革新を。」


宇宙太陽光発電(同社リリースより)

宇宙開発における最大の課題の一つは、地球から宇宙へものを運ぶ方法です。私たちが日常で経験する「輸送」とは異なり、宇宙への輸送は途方もないコストと技術的制約を伴います。地球の重力から脱出するためのエネルギーは膨大で、現在の技術では大型ロケットが唯一の選択肢となっています。

宇宙で大きな構造物を実現するためには、まずロケットに収めて打ち上げる必要があると福永氏は説明します。どれほど大きな構造物であっても、打ち上げ時にはロケットに収まるサイズでなければならないのです。

この課題に対し画期的な解決策を提案しているのがcosmobloomです。サランラップより薄いフィルムや布、細い糸といった柔軟素材を用いて、宇宙で大きく広げられる構造物の開発に取り組んでいるスタートアップです。この「宇宙柔軟構造」と呼ばれる技術は、コンパクトに折りたたんで打ち上げ、宇宙空間で展開することで、太陽電池パネルやアンテナなど様々な大型構造物を実現できます。

薄いフィルムや布は折り紙のように畳むとコンパクトになり、軽量です。従来の硬い素材の構造物よりも、大きく展開できるのが強みです。

福永氏

世界初の成功を支えた解析技術


デオービット装置(同社リリースより)

cosmobloomの強みは、この柔軟構造物がどのように宇宙で展開するかを正確に予測する計算技術にあります。

宇宙製品は様々な試験をクリアした後に打ち上げられますが、私たちの扱う柔軟構造物は地上試験での評価が困難です。柔軟構造物は空気や重力の影響を受けやすく、地上環境と宇宙環境では振る舞いが大きく異なるからです。

福永氏

この課題に対し、cosmobloomは独自の非線形弾性動力学解析コード(NEDA)によるシミュレーション技術を保持しています。この技術は、2010年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた小型ソーラー電力セイル「IKAROS」の膜面展開シミュレーションにも使用され、世界初のソーラーセイルを主推進装置とする惑星間航行の成功に貢献しました。

私たちが取り組んでいるのは、人工衛星やロケットとは異なるニッチな分野です。しかし、この宇宙柔軟構造の分野において、日本は世界をリードしています。

福永氏

この日本が先行する貴重な技術を継続・発展させるため、日本大学理工学部航空宇宙工学科宮崎研究室(現JAXA宇宙構造システム研究室)を前身とするスタートアップとして、福永氏をはじめとするメンバーは会社を立ち上げました。

三つの主要プロダクト開発で未来を拓く


膜面アンテナ(同社リリースより)

cosmobloomは現在、三つの主要プロダクト開発に取り組んでいます。
一つ目は「デオービット装置」と呼ばれる宇宙ゴミ対策のための装置です。宇宙ゴミに関するルールが世界的に厳しくなるなか、特に環境意識の高いヨーロッパやアメリカ市場での需要が見込まれています。

特にヨーロッパは、SDGsの観点からサステナビリティへの意識が非常に高いです。宇宙ゴミが増え続ければ、将来的に宇宙での活動自体が困難になるという危機感があります。こうした背景から、私たちの技術が受け入れられやすい市場だと考えています。

福永氏

二つ目は、超小型人工衛星に搭載可能な「膜面アンテナ」です。この超軽量大型アンテナは、地上との通信や様々なミッションに活用できるため、多くの衛星に採用される可能性を秘めています。

そして三つ目が、将来を見据えた「宇宙太陽光発電」システムです。
「一般家庭の太陽光パネルは天候や昼夜の影響を受けますが、宇宙では常に太陽光が当たり、天候に左右されず安定した発電が可能です」と福永氏は説明します。宇宙で発電した電力を地上に送る技術は、24時間発電可能な究極のクリーンエネルギーとなり得るのです。

福永氏によれば、同社は一度設計したものを複数の衛星に搭載できる量産型のビジネスモデルを目指しているとのこと。宇宙開発特有の高いカスタム性を抑え、コスト効率の良い製品提供を実現しようとしているのです。

cosmobloomの技術は国内外から注目されています。JAXAからはシミュレーションの受託業務を受けるほか、欧米をはじめとする海外からも問い合わせが増えているといいます。ニッチな分野ながらも、学会や展示会でのアピールを通じて、着実に認知を広げているのです。宇宙柔軟構造の開発において、日本とアメリカでは異なるアプローチをとっていると福永氏は指摘します。

アメリカでは資金力を背景に、失敗を恐れないアプローチをとっています。宇宙で失敗しても再度チャレンジするという方法で実証を進めています。一方で、私たちは精密な計算で事前に問題を回避する手法を用いています。

福永氏

どの国の企業も本質的にはコスト効率を求めているということで、この計算技術を活用すれば余分なコストを抑えられるため、cosmobloomの技術には世界的な需要があるとの見方を示しています。

cosmobloomしかできないと言われる存在に

宇宙ビジネスのトレンドとしてcosmobloomが注目しているのが、「コンステレーション衛星」の増加です。これは一つの衛星ではなく、多数の衛星を打ち上げて通信網を構築するものです。

特に宇宙は、衛星をたくさん打ち上げて、何か一つのミッションをする、それこそ通信であったりとか、地球の観測だったりとか、一つの衛星じゃなくて、たくさん打ち上げて何かしますというものが増えています。コンステレーション衛星というふうに私たちは呼んでいるんですけれども、それがすごく増えているんです。

福永氏

この流れに合わせて、cosmobloomも同じデザインのコンポーネントを多数の衛星に提供するビジネスモデルを構築。唯一無二の技術を生かし、特に海外の事業会社に対して売り出していく戦略をとっているのです。cosmobloomが描く未来について、福永氏はこう語ります。

宇宙でやれることが今後さらに増えていく中で、大型構造物が必要になった時に『これはcosmobloomしかできない』と言われるような存在になりたいです。宇宙の大型構造物と言えばcosmobloomと認識されることが、会社としての目標です。

福永氏

さらに、IKAROSの後継となるソーラーセイルプロジェクトも進行中で、打ち上げに向けて準備が進められています。
福永氏はcosmobloomを通して日本の宇宙技術の発展に貢献していきたいという意欲を見せています。その眼差しには、宇宙と地球の未来に対する確かなビジョンが映し出されているようです

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