- 海外トレンドレポート
2022年02月21日
海外トレンドレポート 「開発、投資が進む中国のメタバース」
初めまして。KDDI Open Innovation Fundの中国担当として上海で活動している笠井です。U.S.、シンガポールに続く当ファンド3箇所目の拠点として昨年8月に上海拠点を立ち上げ、中国のスタートアップへの投資、事業連携の検討を行なっています。今回のレポートでは昨年来注目のトレンドとなっているメタバースについて、中国の状況をレポートします。
- 笠井 道彦KDDI中国
- 本誌の記者。KDDIオープンイノベーションファンドの中国 上海拠点でスタートアップとKDDIの事業創造を目指し、ディールソーシング(投資先探し)と投資評価に取り組み、既存の投資先企業もサポートしながらMUGENLABO Magazineの制作に携わる。
メディア、ネットに溢れる「元宇宙」
昨年以来、中国国内のテック系、投資系メディアで「元宇宙」というワードを見ない日はありません。「元宇宙」はメタバースの中国語訳であり、中国国内でも大きなトレンドとして注目を集めています。
IT業界や投資関係者はもちろん、中国国家語言資源モニタリング・研究センターが発表した「2021年ネット用語トップ10」にも「元宇宙」がランクインし、一般にも注目が広がっていることが伺えます。現時点では概念や投資が先行し、実際にどのようなものとして普及していくかについてはまだまだ統一的な定義は定まっていないように見えるメタバースですが、中国国内ではどのように捉えられているでしょうか。一つの参考として、精華大学の沈阳教授は以下の3分野をメタバースのコアテクノロジーと位置付けています。
- VRやARなどの拡張現実技術:これらのテクノロジーは、スマートフォンのスクリーンだけでは体験出来ない没入型の体験を実現します。
- デジタルツイン技術:現実世界を仮想世界にミラーリングし、また仮想世界のアクションを現実にも反映させる技術です。自身のアバターを仮想世界に送り操作するだけではなく、現実世界のシミュレーションや、仮想世界で行なった各種手続き等が現実世界にも反映されることをサポートします。
- 経済システムの構築:ここではブロックチェーンが重要な技術となりますが、ゲームの課金のようにメタバースにお金を使うだけでなく、お金を稼ぐこともできる経済システムを構成されることが想像されています。
- 笠井
- 今回は、中国におけるメタバース関連の状況についてレポートさせていただきました。
現時点ではまだVCと一部の人間のものに過ぎないとも言われることもあるメタバースですが、新しいアイデアとテクノロジーがどのような世界を創っていくのか、引き続き注目していきたいと思います。 -
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単純なバーチャルワールドではなく現実世界や経済活動とも密接に結びつく点に新たな可能性が見出されており、中国においても大手、スタートアップを含め様々な形での参入が相次いでいる状態です。
メタバースに参入する各社
モバイルインターネットに次ぐ新しいプラットフォーム、経済システムになる可能性があると見られるメタバースには、中国のテクノロジー大手も相次いで参入の動きを見せており、今後この分野を牽引すると見られます。まだ具体的なサービスのリリースは少なく、準備を行っている段階と言えますが、以下に各社の主な動きを見てみます。
テンセントはメッセージアプリQQと連動するアバター・コミュニケーションサービス「超級QQ秀(SUPER QQ SHOW)」の提供を開始しました。アバターや自身の部屋をカスタマイズできる他、バーチャル空間の中で他のユーザとコミュニケーションすることが可能です。また、同社は昨年新規開発計画「Z PLAN」を公表しました。明確にメタバースサービスと言及されているわけではありませんが、Z世代を中心ターゲットとしたゲーム+ソーシャルのサービスを開発しているとされ、多数のエンジニア採用を含め、大規模なサービス開発を行っている模様です。Fortniteを開発するEpicgamesやロブロックスを始め、投資という形では既に非常に多くの関連プレーヤーと関係していると言えるテンセントがどのようなサービスを準備しているのか、注目を集めています。
超級QQ秀 サービス画面
アリババは12月に元境生生科技有限公司を設立しました。メディアの取材に、同社の事業はメタバースに関連するものであることを明らかにしています。また、アリババと関連会社は、126の国/地域でメタバースに直接関連する合計302件の特許出願や、多くの名称の商標登録を行っており、コマースの観点でも新しいプラットフォームになるとみられるメタバースへの対応準備を進めていると見られます。
バイドゥは他社に先駆け実際にユーザ操作可能なメタバースサービスと位置付ける「希壤(Xirang)」をリリースし、同社のイベント「AI Developers Conference」を同スペース内で開催しました。但し、同社は完成版の提供までには6年ほどかかるとコメントしており、現時点ではテスト版のような位置づけに留まるようです。エンターテイメントやソーシャルに関するリソースを直接的に多くは持たない同社が、今後どのように魅力的な世界を作れるのか、ネット上では議論されています。
バイトダンスは昨年、中国のVRデバイス最大手Pico Technologyを、テンセントと競合の上97億元(約1700億円)で買収しました。また、1月には派対島(party island)という新しいサービスをリリースしています(現在は招待制でテスト運営中)。同社は本サービスはメタバースとは関連がないとしていますが、アバターを使って他のユーザとコミュニケーションをしたり、サービス内でライブに参加するなど同社のメタバース戦略の最初のステップではないかとも見られています。
今年から各社具体的なサービスの形が見えてくるかもしれません。それぞれに数億人単位のユーザを抱え、業界を牽引してきた各社がどのようなメタバースの将来を描くのか、引き続き注目されます。
中国版メタバースにつながる?AR、3Dサイネージ、デジタルツイン技術
中国は断続的、また局所的なロックダウンはあるものの、基本的にはかなり早い段階で新型コロナウイルスの封じ込めに成功しており、生活はコロナ以前に近い状態にあリます。オフィスへの出勤、対面での打ち合わせ、レストランでの食事等も通常通り行われており、逆に言えば生活や仕事のオンライン環境へのシフトは他国ほど強い形では行われなかったとも言えます。
これに加え、現実社会の中で没入感のある3D映像を利用したり、実際の風景にオーバーレイさせるARなどの分野ではすでにかなりレベルの高いサービスが提供されていますし、ショッピングセンターなどではゲームコーナーのような形で施設設置型のVRが置かれており、子供たちが遊んでいる姿もよく見かけます。メタバースというとオンライン空間上の仮想世界の構築にどちらかと言えば関心が向きがちかと思いますが、こういった様子をみていると中国のメタバースはより現実社会をベースに、それを拡張したものになるのでは?という想像も膨らみます。
ARナビゲーション
3Dサイネージ
施設設置型VR