- インタビュー
2025年08月19日
「Bandai Namco 021 Fund」 スタートアップへの投資総額を60億円に拡大──次世代 IP 創出で新戦略

- バンダイナムコ021 Fund
池田 一樹 - マネージングディレクター
- バンダイナムコ021 Fund
松田 愛里 - プリンシパル
バンダイナムコエンターテインメントが運営するスタートアップ投資ファンド「Bandai Namco 021 Fund」が新たなステージに突入しました。旧「Bandai Namco Entertainment 021 Fund」から名称を変更し、投資枠を総額60億円以上に拡大。
グループ横断での連携を強化し、特に次世代 IP 創出とゲームスタジオへの出資を重点領域に据えます。「若年層向けコンテンツの創出」を狙う同社CVC戦略の舵取り役、池田 一樹氏と松田 愛里氏に新戦略の狙いと展望を聞きました。
3年間の実績とグループ横断への戦略転換
旧「Bandai Namco Entertainment 021 Fund」から名称を変更した「Bandai Namco 021 Fund」
バンダイナムコエンターテインメントが2022年に立ち上げた同CVCは、2025年5月末時点で投資実績15件のうち海外案件が半数以上を占めています。チケットサイズは数千万円から3億円程度で、プレシードからレイターステージまで幅広い成長ステージの企業を対象としています。
投資戦略は、ユーザー軸と事業軸の2つの観点でポートフォリオを構築。既存事業に近い案件から新領域への挑戦まで、戦略的に投資先を選定してきました。その内、新興地域への参入については、インド市場を中心に展開する Super Gaming やGetstan(サービス名:STAN)、への投資を通じて、まだ参入できていない地域軸での展開も模索しています。
同ファンドは東京ゲームショウのサイドイベントを開催し、複数の同業他社との共同開催を積極的に行っています。
エンターテインメント業界では、様々な事業者が連携してプラットフォームやサービスを広げていく文化が昔からあります。
松田氏
このように、松田氏が述べる業界特有の横のつながりを重視するアプローチが特徴です。そして今回の発表で重要な変更点が、ファンド名称の変更です。
2025年6月11日に「Bandai Namco Entertainment 021 Fund」から「Bandai Namco 021 Fund」に改称の発表をした背景には、バンダイナムコグループ全体との連携強化という戦略があります。
「バンダイナムコグループでは、これまでも各事業会社がアライアンス構築などを目的とした企業投資を行ってきましたが、021 Fundはそれらに加えて、明確な投資戦略のもと、長期的な視点でスタートアップ企業への出資に特化した、グループ内でも独自の役割を担う組織」(池田氏)という特徴を活かし、従来のゲーム領域中心から、グループ会社のバンダイが手がけるトイホビー事業や映像・音楽事業等との連携も視野にいれるそうです。
大型投資が必要なゲームや映像から、スピード感持って取り組めるトイホビー等、我々グループはIPを拡げるためのあらゆるアセットやノウハウを持っているのが強みで、投資先のIPの成長ステージによって様々な手段でサポートすることができます。
池田氏
重点3領域と協業の意義
ポートフォリオ
投資枠の拡大と併せて、3つの重点投資領域を明確化しました。
第一は新規 IP の創出・獲得です。ショートアニメ制作を手がけるPlottとの協業では、グループ会社のバンダイナムコフィルムワークスと「魔神英雄伝ワタル」のショートアニメ制作やオリジナル作品の共同制作を進めています。Plott が手がける IP は約10個あり、YouTube で200万登録者を獲得するチャンネルもある成功例です。
第二はゲームスタジオへの出資です。AI の発展とともに新進気鋭のクリエイターが新しいゲームスタジオを立ち上げる動きが盛んになる中、同社のワールドワイドでのパブリッシング力を活用した協業を目指します。「優秀なクリエイターと提携したい」(池田氏)として、出資先との連携を通じて世界中のファンに良質なゲームタイトルを届けることを目指しています。
第三は若年層向けコンテンツ分野への投資です。小中学生女子をターゲットとする2.5次元 IP の開発・運営を行うウタイテやVTuber事務所であるMillion Productionへの出資を実施しています。
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の視点から考えると、小中学生時代に出会ったIPは、価値観の形成期に接触するため、30代・40代になっても継続的な支持や消費行動が見られる傾向があります。
対象が小学生、中学生の女子で彼女たちが面白いと思うコンテンツは、創るのも投資判断も難しいです。
一方で中学生や小学生のときに熱量を持って接したコンテンツは、30代や40代になってお金を持ったタイミングでも思い入れがあってお金を使う傾向があります。VTuberなども10代のファンが多いフォーマットですから、投資枠の増額や追加出資などを行いながら、5年後・10年後のエンタメ業界の発展やグループにとって価値ある資産を育てていくことを重視しています。
松田氏
長期的な LTV の観点では、大きな可能性を秘めるのが低年齢層のコンテンツです。そうした側面からも、中長期で考える必要のある同社は、投資を通じてCVC という立場で補完する、というワケです。
もうひとつ、圧倒的なスピード感も重要な要素になってきます。
技術の発展やユーザーの趣味嗜好の変化の速さは、もう数年前の倍以上になっています。自社だけだとなかなか IP や面白いエンターテインメント体験を広げることに限界がある状況です。本当にスタートアップのアイデア力や、スピード感はマストで必要になってくることを、この3年間の活動で痛感しました。
池田氏
例えば Flickplay とは渋谷区と連携し、パックマンの IP を活用したデジタルトイによる新しいエンターテインメント体験を創出。Gaudiyとはガンダムのガンプラコミュニティ「ビルダーズノート」に同社が得意とする技術を活用し、新たなファン体験の創出を実現しています。こうした新たな技術との連携はスタートアップ協業ならではと言えるでしょう。
ぜひとも僕らと一緒に取り組みたいとか、取り組んでもらえるスタートアップがいらっしゃいましたら、ぜひお声がけしてください。
松田氏
バンダイナムコが持つ IP 展開力やグローバルな販売網と、スタートアップが持つ革新力を組み合わせることで、従来にない価値が生まれる。投資という枠を超えた真のパートナーシップの構築により、エンターテインメント業界全体の発展に貢献していくというお話でした。
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