- インタビュー
2020年10月26日
au IKEBUKUROにスタートアップが集結「スピード共創」はどう実現した Vol.1
課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。初回はKDDIのau IKEBUKURO店で実現した、感染症拡大を防止するためのスタートアップ共創事例をご紹介します。
KDDIの共創事業「KDDI ∞ Labo」では現在、パートナー連合全社が提供する多種多様なアセットを通じてスタートアップの事業を支援する「MUGENLABO支援プログラム 2020(以下、支援プログラム)」と、パートナー連合各社が公開するプロジェクトテーマごとにスタートアップとの共同事業化を目指す事業共創プログラム「∞の翼」の二つを実施しています。今回ご紹介するのは支援プログラムを通じたケースです。
ショップが抱えた「感染症拡大」問題
ことの発端はやはりコロナ禍です。お客様と店頭で働いてくださっているプランナーの安全、安心の確保が喫緊の課題と認識していました。我々として考えられ得る様々な支援、例えばカウンターへのパーテーションやフェイスシールド、手袋の配備等は実施していたのですが、安全、安心をもっとお客様向けにお伝えすることはできないか、そういう課題感はありました。
KDDI 直営店営業部 戦略グループリーダーの堀靖和さん
こう語るのはau IKEBUKUROやGINZA456など、全国で展開しているKDDIの直営店を管理運営するチームの堀さんです。感染症拡大は様々な場所で大きな問題を突きつけることになりました。特に堀さんたちが手掛ける店舗運営の現場は、不特定多数のお客さんと向き合う必要があり、課題解決は待ったなしの状態です。
この問題にいくつかのスタートアップがソリューションをそれぞれ企画して提供した、というのが今回の事例でした。au IKEBUKUROの店舗に設置されたのは以下の通りです。
- AWL:同社は店舗に対し混雑度や展示商品の接触検知が可能なプロダクトを展開している。混雑度測定では店舗入り口にエッジAIカメラを設置し、人通りに応じて店舗の混み具合を測定することが可能。目視せずとも遠隔から混み具合を知ることができる。加えて、展示商品の端末接触検知機能も提供し、除菌清掃が必要な端末を適時教えてくれる
- Idein:同社は店舗入り口に画像認識技術を活用した体温測定器を設置し、入店時の検温を自動で実施する。検知した体温やその他個人情報はクラウドなどに保存されず、カメラに付属するソフトウェア内で暗号化され必要に応じて活用される仕組み
- GREEN UTILITY:同社は紫外線をベースとした除菌ケースをカラオケ店などに提供。スマートフォンやマイクの除菌を約1分間で実施できる(au IKEBUKURO・JOYSOUND池袋西口公園前店にも設置)
- ファームロイド:同社はウイルス対策を目的としたUV照射ロボット「UVバスター」を病院や大学機関に向けて提供。利用施設は空間内の除菌清掃の自動化を図ることができる。特にウイルスが残り続けると言われる「床」の除菌清掃にも対応している
- プレースホルダ:同社は最新のデジタル技術を駆使し、カーディーラーなどのキッズスペースを必要とする施設へ知育体験ツールを提供。紙に書いたぬりえが3D化しゲーム画面に登場する設計などを特徴とする。導入企業はキッズスペースの除菌消毒を限りなく最小限に抑えることが可能
通常、こういった店舗で発生するような問題は、各店舗や本部機能を持つ堀さんたちのチームで解決するそうなのですが、問題が大きすぎたこともあり思案している状況だったそうです。ここで声をかけたのが他社とのコラボレーションを手掛けるビジネスインキュベーション推進部でした。彼らもまた、スタートアップとの協業支援において直営店舗を活用できないかと模索しており、両者の思惑が一致することになります。
結果、ビジネスインキュベーション推進部と連携して「自動検温システム」や「スマホ除菌ケース」など、社会的に関心の高い話題であるコロナ対策アイテムを直営店へ設置し、KDDIとしても旗艦店舗にてスタートアップのソリューション露出、およびこの時期のコロナ対策をしっかりとアピールできたと考えています
KDDI 直営店営業部 堀さん
KDDIとして共創事例をメディア向けにプレスリリースしたことから、その日の内にNHKを含め、主要な経済紙などに取り上げられるなどの結果を残したそうです。また、スマホ除菌ケースについては展示しているGINZA456店で、来店客から購入したいという話が持ち上がるなど、今後の具体的な事業展開への糸口のようなものも見えたというお話でした。
スタートアップとの共創で重要なのが具体的な課題とゴールの設定です。
堀さんのお話によれば、今回の共創ソリューションは話が持ち上がってからどれも1、2カ月以内で素早くプロトタイプが完成し、実店舗での実証実験が開始されたということでした。このスピード感を出すためには、やはり協業する各社が明確な課題に向かい、具体的なアウトプットをイメージとして共有する必要があります。
では、ここからはスタートアップ側の視点で共創の裏側をお伝えしてみたいと思います。
伝えにくい技術を「可視化」するメリット
私たちは現実世界のあらゆる情報を取得するというのをミッションに掲げているのですが、現場の課題の可視化というのは様々な企業にとってニーズがあります。例えば小売店やオフィスビル、領域についてもスマートシティや広告、製造業など多岐に渡っていて、こういった課題をアンテナ高くお持ちの方々にしっかりリーチして導入検討いただけることはやはり高い価値がありますね
Idein代表取締役の中村晃一さん
支援プログラムに参加したメリットをこう話すのは、エッジコンピューティングを活用したAI/IoTプラットフォーム「Actcast」を展開するIdein代表取締役の中村晃一さんです。同社は出資しているグローバル・ブレインからの紹介で、今回の企画に参加しました。
彼らが提供したのは画像認識技術を活用した体温測定器です。コロナ禍にあって、店舗入り口での検温は密集を避けるために必要不可欠な作業になりました。一方で、対応する店舗側には導入のコストや運用、そしてプライバシーへの配慮といったハードルが存在しています。また、この状況で一気に需要が高まりましたが、そもそも人を見分けて体温を検知する技術はそれなりに高度な計算処理が必要になるそうです。
そこでIdeinでは展開するプラットフォーム「Actcast」を活用し、安価なエッジデバイスを用いてAI解析が可能な体温測定器を、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)と共同開発していました。彼らのプラットフォームを使うことで仕組み自体を遠隔で操作できることから、多数の店舗への導入についても管理の面でメリットがあります。またプライバシーの問題についても、エッジ側で画像を破棄することで個人情報の漏洩リスクを減らすことが可能です。
画像クレジット:MUGENLABO Magazine編集部
中村さんは今回の共創プログラムに参加した反響のひとつとして「技術の可視化」を挙げられていました。
IoTプラットフォームの使い方って分かりにくいものなんです。それを具体的な事例としてこういう使い方があるんだよと示してくれるのは非常に重要で、じゃあこういうことができるのだったらこれもできますかというケースを発信していくことが大切なんですね。AI関連の事業はやはりPoC(開発コンセプト)状態のものが多く、情報発信がしたくてもできない場合があります。そこを次のフェーズに進めて情報発信する機会を提供してもらうことで、会社に対する理解度、信用を上げることに役立ちます。また、実際の店舗に置いたことで得られる経験値も相当にありましたね
Idein 中村さん
スタートアップとの協業に限らず、この形になるかならないか、こういったタイミングのソリューションをどうやって、ライトパーソンにマッチングさせるか。この鍵はやはり中村さんの体験談の通り、課題感を高いレベルで持ったコミュニティと、その人たちに分かりやすくショーケース化した状態で伝える仕組みが必要になるのではないでしょうか。
次回も引き続きau IKEBUKUROの支援プログラムに参加したスタートアップの話題をお届けします。ハードウェアを短期間でショーケース化したGREEN UTILITYの企画の裏側と、北海道を拠点に展開するAWLの共創ストーリーです。お楽しみに。(次回につづく)
Idein https://idein.jp/ja/近年進歩の著しいパターン認識や信号処理の技術をセンシングへ応用し、実世界のあらゆる事象をソフトウェアで扱えるようにする事を目指すスタートアップ。IdeinのサービスであるActcastを使用すると、Raspberry Piなどの市販の非常に安価なコンピュータを用いて実世界情報を扱うIoTシステムを簡単に構築することができる。
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