- インタビュー
2023年04月07日
ChatGPT連携も視野ーーメタバース「αU(アルファ・ユー)は何を目指す?総合プロデューサー天野氏【αUインタビューVol.1】
KDDIは、2023年3月7日、メタバースとWeb3時代のサービスを提供する新しいサービス「αU(アルファユー)」を開始することを発表しました。このサービスは、リアルとバーチャルの境界をなくし、音楽ライブやアート鑑賞、友人との会話やショッピングなどの日常体験をいつでもどこでも楽しめるようにすることを目的としています。また、国内外のパートナーと協力して、クリエイターエコノミーを創出し、日本のクリエイターやコンテンツのグローバル展開を支援することも目指しています。
このインタビュー連載ではαUに関わる「中の人」に焦点を当て、このメタバースが何を目指し、どのような世界を提供しようとしているのか、それぞれにお聞きしていく予定です。初回は、「αU metaverse」総合プロデューサーを務めるカヤックの天野清之氏です。(質問は全てMUGENLABO Magazine編集部・回答は天野氏。敬称は省略)
αUの世界観はメタバースという言葉を使っていますが、フォートナイトのような世界観もあればVRChatのような場所もあります。どのようなメタバースを作ろうとされているのでしょうか?
天野:我々が作っているメタバースはWeb3.0を掲げていて、インターネットの次に何ができるかというチャレンジだと思っています。インターネット上におけるコミュニケーションがどうリデザインされるのか。あるいは、メタバースという3D空間やアバターを用いたときにどういうことが行われていくことがインターネット上のコミュニケーションにおいて正しいのか。そんな視点で設計されています。あくまでもインターネットの延長という考え方です。
どういう方々がどういう目的でやってくることを想定されていますか?
天野:先にブロックチェーン系の話をしておきます。我々が作っているものは裏側でブロックチェーンの技術を活用しています。これを今後、NFTで知財管理できるようにしたいと思っています。もう既にいくつかのデジタルコンテンツ(以下、デジコン)の販売をしていますが、ここでも正しくNFTなどの技術を組み合わせた、安全なデータ管理での販売を考えています。
今の世の中では3Dのデジタルデータや画像のデジタルデータ、音楽データはSpotifyなどのアプリで管理されていますが、Web3.0の世界でもデジタルデータは同じようにしっかり管理されるべきだと思っています。
販売されるデジコンのデータを管理することで、データが外に流出しないようにしたいです。それができれば、コンテンツホルダーやアーティストがWeb3.0の世界の中で、クリエイティブなものを創作した際にも、権利が守られるからです。現状ではそういう世界が作り切れていないのがクリエイターの悩みだと思っています。
さらには、プロフェッショナルなクリエイターだけをフォーカスするのではなくて、一般のユーザーがクリエイティブなことに参加できるようにしたいと考えています。
ユーザーの参加イメージはどのようなものになりますか?
天野:構想として考えているのは、NFTのデータとして管理することで、例えばアーティストのイラストを購入してマイルームに飾って楽しむだけではなく、そのイラストデータを自分のTシャツにプリントすることができる。
さらに、そのTシャツを販売して著作者(アーティスト)と権利分配ができるみたいなことも想定した世界です。そうなれば創作物は権利が守られた形で、誰でもそれを使って自分のアバターを作ったり、あるいはマイルームを自分好みの世界に変えたり様々なコンテンツを生み出すことができます。
NFTならではのメリットはありますか?
天野:デジタルデータの管理の他にもう一つのポイントとして、メタ情報としてデータ管理されているということがあります。アーティストのライブを観に行く、サッカーの試合をみんなで楽しむみたいなことをメタバース上で行ったときに、NFTで管理することによってその情報、つまりちゃんと行っているか行ってないか、観たか観てないかが証拠として残るんです。
これをマイルームのアイテムにしたり、ビューアーとして見られる形をとっているので、自分がメタバースで行った行動がコレクション化されてビジュアライズ化されるっていうところも一つの面白みだと思います。
そういう世界が生まれることで、新たなコミュニケーションが生まれ、メタバースでのイベントとかライブ、あるいはアバターなどよりももっと深みのある体験に変わるだろうと考えています。
ライブのコンテンツはわかりやすいですよね。αU metaverseというメタバース空間でのライブ体験で何か特徴的なものがあれば教えていただけますか?
天野:まず、我々が考える「チケット」は紙切れみたいなものではなく、もう少し違う形のものです。例えば、マイルームに飾れるポスターであったり、アバターが着れるものだったり。そういうものがチケットに変わるという風に考えています。そのチケットという統一化されたアイテムを、ライブイベントの演出に絡めることも可能です。
ライブを聴くだけでなく、デジタルアイテムを購入するなどしてより一体感を出せるのですね
天野:そうですね。みんなが持っているものをライブ会場で活用して一体感を出すことができます。
クリエイターやクリエイティブに世界観を寄せた理由は何ですか?
天野:2年ぐらい前からAIの動きが活発化し、この半年ぐらいでまた大きく変わってジェネレーティブAIと言われるものが増えてきています。これは素晴らしく便利なものではあるんですが、クリエイティブなデータをどう取り扱っていくかという新しいテーマが出てきました。
僕が着目しているのはデータ管理の部分なんです。これからはいかにソースデータをしっかり管理していくかが求められていく。日本は世界に誇る漫画やアニメといったコンテンツデータを大量に持っています。この大量に持っているコンテンツソースをこのタイミングで管理できるようになれば、僕は日本にとって素晴らしい未来が待ってると思ってます。
でも、それを管理しない形で行くと、今僕らが持っている資源と呼べるコンテンツがなくなってしまうと思うので、メタバースに移行していくタイミングでどういう風に扱っていくかが課題です。管理できるルールができた上で、ようやくメタバースの中にクリエイティブな世界を作っていくことができると思います。
音楽コンテンツなどのデジタルな著作物をクリエイターにきちんと還元することで経済循環が生まれる、という事例はNFTなどで大きく前進しました
天野:NFTは権利元を追いかけていったり、著作範囲内がどこまでかを見たりすることができる仕組みになっています。利益分配が可能だから安全な二次創作が可能なんです。今まではデジタルデータの権利というものはうまく扱えていなかったんですが、きっちり管理した形でクリエイティブなデジタルデータを扱っていける。これによって創作する側はかなり優位になるので、そんなところが変わってくるんじゃないかなと思っています。
一方、デジタル化が進んでいない既存のクリエイティブや企業はどのように参加すればよいでしょうか?
天野:先ほどから現在はデータ管理ができていないとお話ししてきましたが、今のメタバースの設計で言うと、コンテンツのデータを生データとしてダウンロードして改変や二次創作ができるので、そもそも安全にクリエイティブなものを作っていける社会が作れていないなと感じています。
今のメタバースでは、データを管理しつつ「ローカルにダウンロードをさせる」という考え方が多いのですが、僕はむしろ「ローカルに生データをダウンロードさせない」方が著作物を正しく利用してもらえると思います。ダウンロードできない状態でも、メタバース下で編集や改変ができ、その編集されたデータを系譜として連携されることが良いと思っています。
クリエイティブなものがきちんと管理された世界ができて、それに対して面白い、遊びたいなと思う人たちがやってくる、そういった世界を作ろうとしているのですね
天野:そうですね。そうしないとプロフェッショナルな方も、プロフェッショナルに憧れているセミプロみたいな方も活動していくことは難しい。そういうことができないと、プロレベルでの体験もこの中で作れないだろうなと思います。
経済の流れ、例えばコンテンツホルダーやゲームデベロッパー、興行する人、遊ぶ人、いろいろなステークホルダーが出てくると思います。どのような経済循環モデルが生まれるのでしょうか?
天野:今の多くのメタバースはゲームの開発に近いイメージで作られていると思うんです。つまり、一社だけがコンテンツを提供しつづける世界。でも、僕はそれではメタバースという大きなスペースを埋めることはできないと思います。多くの企業の方、多くのユーザーの方が参加していくことが重要だし、参加できるために必要な技術を我々が提供していくことが正しいと思っています。
そのためにもデータ管理や正しく収益分配される世界を作りたいと思っています。そういったインフラとなる部分を整備することがビジネスにつながると考えています。そうすれば一般のユーザーの方が我々の提供する仕組みを使って、メタバースの中で何らかのパフォーマンスをより行いやすくなるようになり、ユーザーの方にも企業の方にも収益分配される仕組みを設けたいです。
ここからも新しいブランドが生まれてきそうですね
天野:生まれてくれたら嬉しいですし、生まれたものをどういう風に守っていくかということも僕らの課題なのかなと思っています。守備力をちゃんと上げられるようにしておけば、プロフェッショナルブランドの協力も得られると考えています。
ここ数カ月で景色を変えた技術として、ChatGPTを始めとする対話型ジェネレーティブAIがあります。例えばNPC(ノンプレイヤーキャラクター)への対応などが想像しやすいですが、検討されている連携があれば言える範囲で教えてください
天野:音声を主体にしたコミュニケーションを考えているので、もちろんOpenAIは視野に入っています。NPC自体は入ってますが、対話は入れていません。そこの部分は今後視野に入れていきたいです。
ありがとうございました。
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