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2024年11月22日

世界の最先端で勝負するには、マーケットを選べ──米国で起業した日本人起業家が語る、グローバル展開のリアル

AssetHub Inc.
後藤 卓哉
CEO

AIによって3Dアセットを素早く制作・編集できる3Dモデリングツール「AssetHub」を開発・提供するAssetHub CEOの後藤卓哉氏。同氏は2018年にWeb3スタートアップのGaudiyを共同創業後、2023年に米国でAssetHubを創業。2024年9月にはプレシードラウンドとして、Progression Fund、Techstars、三井住友海上キャピタルを引受先とした第三者割当増資により、約1億円を調達しました。


米国VCをリード投資家に迎え資金調達を実現した後藤氏に、日本とアメリカのスタートアップエコシステムの違いや、日本発スタートアップが世界で戦うために必要な視点について、話をお聞きしました。


「最先端のトレンドで勝負したい」米国での起業を決意した理由


AssetHubウェブサイト

「世界の最先端のトレンドで勝負していきたい」。後藤氏がアメリカでの起業を決意した背景には、前職での経験が大きく影響しています。2018年に共同創業したWeb3スタートアップGaudiyでの経験を通じて、どのマーケットで事業に取り組むかによって、可能な事業の幅や成長の方向性が大きく変わることに気づいたと、後藤氏は振り返ります。

日本国内のマーケットだと、どうしてもBtoBで、よりエンタープライズに近い事業が立ち上げやすいという側面がありました。

後藤氏

Web3のように最先端の技術を扱う場合でも、日本市場では従来型のビジネスモデルに落とし込まざるを得ない現実があったといいます。
「最先端の領域に取り組むなら、場所もそれに適した場所がいい。ユーザーの検証、採用、資金調達など、すべてアメリカをベースにやっていく」。そう考え、後藤氏は世界最大のテック市場アメリカでの起業に取り組み始めました。

アメリカを選んだ要因は、その市場規模だけではありません。「新しい技術を採用する敷居が日本よりも低く、アメリカで広まったサービスは他の国への展開も容易」という特性に加え、シリコンバレーの豊富な資金へのアクセスも重要な要素でした。現地のVCから出資を受けることで、他の海外投資家への紹介も自然と生まれます。実際に、ユニコーン企業を対象にした研究でも、これらは重要な成功要因のひとつとされています。

シリコンバレーのVCの特徴、資金調達の実態

1億円の資金調達を実現した後藤氏が指摘したのは、日米のVCの違いでした。特にサンフランシスコのVCは顕著な特徴として、投資対象となる事業分野への深い知見を挙げます。「AIを活用した3Dモデリングツールでゲーム制作をサポートをする」という後藤氏らの事業に対して、現地のVCはすでに知見を持っていたのです。

市場にいる先行プレイヤーの話を聞いていて、ピッチも受けたことがある。各社の事業がどういう状況か、成長を示す各種指標がどのような数字になっているか、サンフランシスコのVCは知っているんです。

後藤氏

一方、日本のVCの場合、そもそも事業領域に対する詳しい知識を持っていないことが多いと後藤氏は指摘します。この解像度の違いは、投資判断の基準にも大きな影響を及ぼしました。
日本の場合、日本市場向けのローカライズや、海外で成功したモデルの導入(いわゆる「タイムマシン的」なアプローチ)でも投資検討の俎上に載る可能性がありますが、サンフランシスコのVCからは、より先の事業仮説、より革新的なアプローチを求められるのです。これは単なる要求水準の違いではなく、後藤氏はここに日米でトレンドの差が生まれるひとつの要因を見ています。そもそもの資金調達の基準が高いことで、事業自体がより洗練されていくというのです。

今回のAssetHubの資金調達では、面識のないVCとの商談は少なく、基本的に紹介経由で進めたそうです。実際の出資につながったのも、サンフランシスコの企業からの紹介がきっかけでした。エコシステムの中で、信頼できる紹介を通じて案件が流通する。これもシリコンバレーの特徴と言えるでしょう。

日米スタートアップの成長戦略の違い


Techstars Tokyo登壇時

日本とアメリカでは、スタートアップの戦い方そのものが大きく異なります。後藤氏はこの違いを、マーケットの特性から紐解きます。「日本はマーケットが限られているので、スケールをしていくときは2択になる」と後藤氏は指摘します。一つは「ホリゾンタル」戦略。財務やHRなど、特定分野の機能を全て網羅していく展開方法です。もう一つは「バーティカル」戦略で、業界特化で深く入り込んでいく方法です。どちらを選んでも、必然的にサービスは大規模化します。例えばHRならHR関連の機能を全て持つ必要があり、業界特化であれば高い柔軟性やカスタマイズ性が求められます。限られた市場で成長するには、サービスを広く、深くしていくしかないのです。

一方、アメリカの競争環境は全く異なると、後藤氏は説明します。

アメリカのスタートアップは、少数の会社が広い領域や大きなバーティカル市場を取っていくのではなく、競争が激しい中で、より小規模の機能に特化したり、最初は小さいスタートアップ向けにサービスを展開していくんです。

後藤氏

アメリカではユーザー側も、複数の小規模なサービスを組み合わせて使うのが一般的。つまり日本のスタートアップは、「日本の大規模で網羅的なサービス」を持って、「洗練された一つ一つの機能を持つたくさんのサービス」と競争することになるのです。

さらに重要な違いは、ユーザー層へのアプローチです。日本の場合、国内市場のみで成長するには、早い段階で「リテラシーの高くないユーザーをどれだけ巻き込めるか」という勝負に向かわざるを得ません。LINEでChatGPTを使えるサービスが伸びた例を挙げ、後藤氏は「新しいサービスを使いやすく、優しく提供して、より多くの層に広げていく」という日本特有の戦略を挙げます。

対照的に、アメリカを含むグローバル市場では、アーリーアダプター層だけをターゲットにしても十分な市場規模を確保できます。「アーリーアダプターの後、レイトマジョリティーにアプローチしなくても、アーリーアダプターだけをアメリカやヨーロッパで取っていける」というのです。
この違いは、プロダクト開発の方向性にも大きな影響を与えます。日本のような「網羅的で親切なサービス」は、「アーリーアダプター向けに徹底的に磨かれたサービス群」と競争する米国市場では、強みを発揮しづらいと後藤氏は指摘します。それはプロダクトの性質だけでなく、マーケティング手法の違いにも及ぶのです。

前回は日本でスタートアップを立ち上げて、今度はアメリカでゼロから新たに起業しているわけですが、立ち上げ方が全然違います。

後藤氏

実際に現地で事業を展開してみて初めて気づく違いが数多くあることを、後藤氏は強調します。グローバル展開を志す日本のスタートアップは、早い段階から現地での活動を通じて理論では掴みきれない違いを体感することが、成功への近道となるかもしれません。

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