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2025年07月30日

町工場から挑戦、たった一人でIVS優勝の快挙 世界で唯一「廃れた技術」を蘇らせた秘密‐アドバンスコンポジット

アドバンスコンポジット株式会社
AKIYOSHI
  秘書

2025年7月2日(水)~7月4日(金)の3日間に渡り、京都市勧業館「みやこめっせ」およびロームシアター京都をメイン会場として「IVS2025」が開催されました。この記事では、本イベントのメインコンテンツの1つであるピッチイベント「IVS2025 LAUNCHPAD」の参加企業様のレポートをお届けします!


今回ご紹介するスタートアップは、アドバンスコンポジットです。

「鉄の強度で重さが3分の1」——この常識を覆すような特性を持つ新素材を、世界で唯一の技術で量産化しているスタートアップです。同社が手がけるのは、金属基複合素材(メタルマトリックスコンポジット)の研究開発製造です。

実用化が困難だった「溶湯鍛造法」を独自に改良し、半導体製造装置から自動車、エアコンまで幅広い分野で量産を実現しています。

2025年7月に開催された国内最大級のスタートアップイベント「IVS2025」のピッチイベント「IVS2025 LAUNCHPAD」で優勝を果たした同社の取り組みについて、秘書のAKIYOSHI氏にお話を伺いました。


銅を超える放熱性能を実現

溶湯鍛造技術を支える高圧プレス機

アドバンスコンポジットは新素材の研究開発製造を行う企業で、金属基複合素材(メタルマトリックスコンポジット)の研究開発に取り組むディープテック領域のスタートアップです。同社が扱う溶湯鍛造法という技術は、実は古くから存在していました。しかし長年にわたって実用化の壁となっていたのがコストの問題でした。

この技術は作るのがものすごく難しく、コストパフォーマンスが悪かったため、何十年も細々としか存続していませんでしたが、当社が大幅にコストパフォーマンスを向上させたことで、ニーズが高まり事業が拡大してきました。

AKIYOSHI氏

現在では、溶湯鍛造法による金属基複合素材製造を事業化している企業は世界で同社だけとのこと。研究レベルでは他社も取り組んでいますが、実際に量産化まで実現しているのは同社のみであり、まさに世界唯一の技術です。

同社の技術が生み出す素材の特性は従来の常識を大きく覆すものであり、鉄の強度で重さが3分の1という、硬さと軽さという相反する特性を同時に実現する技術です。

さらに注目すべきは放熱性能です。同社の製品は銅よりも優れた放熱性能を持ち、銅の熱伝導性390W/m・Kを上回る460W/m・K以上の性能を持ちながら、熱膨張率は銅の約5分の1という特性を実現しています。
この特性により、従来は材料選択で妥協が必要だった用途でも最適解を提供できるようになりました。

アルミの軽さが必要でも、強度不足で破損や変形の問題がありました。一方、鉄を使うと重くなり、動作が遅くなったりエネルギー消費が増えたりします。当社の素材であれば、軽さと強度の両方の長所を兼ね備えています。

AKIYOSHI氏

半導体からエアコンまで量産化が本格スタート、データセンターにも展開

アドバンスコンポジット株式会社 本社

同社の技術は既に複数の分野で量産化が始まっています。
まず半導体製造装置分野では、微細化と高性能化が進む中で従来素材では性能の上限に達してしまったため、同社の技術が採用されており、技術者からは同社の素材について非常に高い評価を得ているそうです。

さらに自動車分野、特にEVやハイブリッド車の製造工程でも導入が進んでいます。製造スピードの向上や不良品率の削減に明確な効果が確認されており、量産が開始されています。
そして最も大きな市場として期待されているのがエアコン分野です。

また、同社の軽量高性能素材は、データセンターの空調システムやサーバーラックの放熱性能向上に大きく貢献できる可能性を秘めています。
データセンターの空調システムを同社の素材に置き換えることで効率が大幅に向上し、またサーバーラック自体の放熱性能向上についても取り組んでいるそうです。
現在、同社は生産能力の制約から高単価の分野から順次参入していく戦略を取っていますが、データセンターはまさにその対象となる市場なのです。

IVS 優勝から見える今後の展望、日本の素材技術を世界に

「IVS2025 LAUNCHPAD」での登壇の様子

2025年7月に開催されたIVSのピッチコンテストで、同社は約350社が応募した中で優勝を果たしました。しかし、その参加方法は極めて異例だったといいます。

決勝進出が決まった時点で会社に報告はしましたが、会社に黙って応募して、単独で出場して優勝しました。本来はピッチコンテスト向きではない分野での優勝ということで、珍しいケースだったようです。

AKIYOSHI氏

同社は地方の町工場ということもあり、社員のメンバーは誰もIVSの存在を知らなかったという状況でした。決勝進出の報告をしても「それは何ですか、出場する意味があるのですか」という反応だったそうです。
さらにディープテック分野は一般的にピッチコンテスト向きではないとされる中、AKIYOSHI氏は分かりやすさを重視したプレゼンテーションを行いました。エアコンという身近なテーマを取り上げ、軽量化の効果を実際に秤で示すなど、視覚的な工夫を行ったという具体的な演出が評価につながったのです。

同社が目指すのは、自社の素材を「身近に広く使われる素材の一つにすること」です。
現在は生産能力の制約もあり、高単価の分野を中心に展開していますが、将来的には一般家電、建材、医療関係など幅広い分野への応用を計画しています。

海外展開については既に実施中で、半導体、エアコン、自動車の分野では日本以外の国とも取引を行っています。
今後は再来年から国内での新工場建設、その次は海外工場の建設も検討しており、生産能力の拡大を図る予定です。

素材は、ものづくりの中でも特に日本が非常に強い分野です。しかし、ディープテック系の分かりにくさや、それがどのように身近なものになっていくかが伝わりにくく、知名度が上がりにくいという課題があります。

AKIYOSHI氏

日本が世界をリードする素材技術を、より多くの人に知ってもらい、産業全体の革新につなげていく。同社の挑戦は、日本のものづくりの新たな可能性を世界に示すことになるのではないでしょうか。

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