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2025年07月24日

JR東日本とKDDI、高輪で挑む「思いついたらすぐ試せる街」ーー大企業とスタートアップをつなぐ新たな共創拠点の全貌

東日本旅客鉄道株式会社
天内 義也
マーケティング本部 まちづくり部門 マネージャー
KDDI株式会社
武田 裕子
オープンイノベーション推進本部 BI推進部 部長

2025年3月にまちびらきを迎えたTAKANAWA GATEWAY CITY。約85万平米の大規模開発地域で、JR 東日本は「100年先の心豊かなくらしのための実験場」をコンセプトに、一日約10万人が訪れる未来体験フィールドを構築しています。

7月に本社移転したKDDIと共に、両社が目指すオープンイノベーションの形と、大企業とスタートアップの新たな連携モデルについて語りました。


TAKANAWA GATEWAY CITYとは

KDDIオープンイノベーション推進本部 BI推進部 部長の武田裕子氏

6月20日、TAKANAWA GATEWAY CITYでオープンイノベーションをテーマとした特別セッションが開催されました。2025年3月にまちびらきを迎えたこの大規模開発は、単なる商業施設や住宅の集合体ではありません。「100年先の心豊かなくらしのための実験場」として、未来都市の姿を体験できるフィールドを目指しています。

高輪は古くからイノベーションの地として知られてきました。KDDI BI推進部部長の武田裕子氏は、その歴史的背景を語ります。

この高輪という町は、古くから交流とイノベーションの町として知られており、江戸時代には江戸の玄関口、明治時代には画期的な土木工事技術により海上に鉄道を敷設するという、イノベーションが始まった場所でもあります。

武田氏

現代においても、この地のイノベーション精神は受け継がれています。JR東日本マネージャーの天内義也氏は、街全体を実験場として位置づける壮大な構想を描きます。

約85万平米という大規模な開発を進めています。この一帯の建物が全て完成すると、一日約10万人の方が訪れ、これらの方々に実証実験にご協力いただける、未来を体験できるフィールドを街全体で構築していくということで、実験場をコンセプトとした開発を進めています。

天内氏

2025年7月には KDDI が本社をこの地に移転し、大企業とスタートアップが出会い、オープンイノベーションを加速させる新たな共創拠点としての役割が期待されています。

JR東日本:LiSH、ファンド、データ基盤で支えるエコシステム

ビジネス創造施設「LiSH」について

JR東日本が高輪で展開するスタートアップエコシステムは、3つの核となる戦略で構成されています。場づくり、資金提供、そして実証実験の場の提供です。この三位一体の仕組みが、従来の大企業とスタートアップの関係を大きく変えようとしています。

最初の戦略の核となるのが、ビジネス創造施設「LiSH(TAKANAWA GATEWAY Link Scholars' Hub)」です。天内氏は都心でのディープテック拠点の必要性を強調します。

都心のビルで研究施設を設置することは非常に困難ですが、未来を支えるディープテック企業が都心で活躍できる場所を作る必要があります。都心では珍しいウェットラボを備えたディープテック向けのビジネス創造施設として、LiSHを5月13日に開設しました。現在100社を超えるパートナー企業にご参加いただき、非常に活発な活動を展開しています。

天内氏

運営パートナーには全国約50を超えるコワーキングスペース運営実績を持つATOMicaが参画。LiSH の特徴は、単なるコワーキングスペースを超えた点にあります。

研究施設と出会いの場が一体化し、隣の席で研究している人との会話から即座にビジネスが生まれる環境を提供しています。また、JR東日本の社員が常駐し、街の中でどのような実証実験が可能かを日々相談できる体制も整えています。

2つ目の戦略が、独自のファンド運営です。天内氏はファンド組成の狙いを次のように説明します。

JR東日本 マーケティング本部 まちづくり部門 マネージャーの天内義也氏

高輪地球益ファンドは、弊社の既存 CVCとは異なる役割でスタートアップ支援を行います。JR東日本の事業に直接的に関係のないスタートアップに対しても、100年先を見据えた投資を可能にする仕組みを構築したいと考えています。また、単独企業による支援では視野が限定されるため、複数のLPと連携してファンドを組成し、新しいアプローチでのスタートアップ投資をグローバル・ブレインと共に実現しました。

天内氏

このファンドは2024年12月の設立以来、すでに4社への出資を決定しており、アクティブな投資活動を展開しています。

さらに5月13日と14日に開催されたビジネス創造イベント「GATEWAY Tech TAKANAWA 2025」イベントには数千人規模の方々が来場し、レベル高いスタートアップピッチが行われました。

3つ目の戦略が、高輪最大の強みとも言えるTAKANAWA INNOVATION PLATFORMです。もともと車両基地だった土地と建物を全て自社で所有するため、街の中のあらゆるデータを集約できます。

このデータ基盤は、JR東日本が持つ駅や移動に関するデータとも連携し、改札通過情報を基に個人最適化された情報を提供する「タッチトリガー」のサービスもまちびらきと同時に開始しています。

本社移転で始まる未来のコンビニとARアート

2025年7月、KDDIが本社を高輪に移転しました。この移転は単なる拠点の変更ではなく、大企業とスタートアップの連携によるオープンイノベーション加速の象徴的な出来事です。
そしてKDDIの高輪戦略の中核となるのが、ローソンとの協業による「未来のコンビニ」の実現です。高輪のビル内に開設される2店舗のローソンをKDDI自身がフランチャイズオーナーとして運営し、複数のスタートアップ企業の革新的な技術を使った新たな店舗運営を実施する予定です。KDDI がオーナーとなることで、実証実験をより迅速かつ柔軟に実施できる環境を整えています。

このほか、高輪ゲートウェイ駅前に設置されたARアートインスタレーションも注目を集めました。武田氏はその体験価値を説明します。

TAKANAWA GATEWAY CITYは”100年先の心豊かなくらしのための実験場”と位置づけられており、100年の時の流れを100色で表現した「100 colors no.53『100色の道』エマニュエル・ムホー」という作品が設置されています。この作品にSTYLY社のAR技術を掛け合わせたアートインスタレーションをお客様は体験することができます。

武田氏

この体験は訪問者から高い評価を得ており、他の街への展開要望も寄せられているそうです。アートに加え、アニメやアパレルブランドとのコラボレーションなど、コンテンツの広がりも検討しています。

KDDI は高輪での実証実験を、より広範囲なスマートシティ戦略の出発点として位置づけています。JR東日本と共同で進めるスマートシティ事業を「WAKONX(ワコンクロス)」というプラットフォームブランドで展開し、他の街にも応用していく計画です。

街中を走るロボット「すぐ試せる街」の価値

高輪を訪れた人なら、街中を移動するモビリティ・ロボットを目にしたことがあるでしょう。これらは単なるデモンストレーションではありません。規制の壁を乗り越え、未来のモビリティ社会を先取りする本格的な実証実験です。天内氏は、現在運用中の2種類のモビリティ・ロボットについて詳しく説明します。

1つはゲキダンイイノの自動走行モビリティで、歩行者と同等速度の時速5キロ以下で走行します。もう1つはデリバリー用ロボットです。

天内氏

ゲキダンイイノのモビリティ(iino)は、まちびらきから1カ月で1万人以上が体験し、「遊園地のアトラクション状態」(天内氏)というほどの人気となっています。一方、デリバリーロボット(ZMP の自律配送ロボット DeliRo)も様々な実証実験を展開しています。

高輪の実証実験を支えているのが、ロボットプラットフォームです。建物内のセキュリティゲートやエレベーターなどの障害物を越えるため、ロボットプラットフォームを構築し、このプラットフォームに接続すればエレベーターなどのビル設備が利用できる仕組みを作っています。清掃、警備、デリバリーなど順次様々なタイプのロボットを接続し、街の至るところで異なる目的のロボットが同じルールで動ける環境を構築中です。

このプラットフォームは、街全体のデータ基盤TAKANAWA GATEWAY URBAN OSとデータ連携しています。ロボットが街のどこが混雑しているかをリアルタイムで把握し、最適なルートを選択して移動する仕組みが既に稼働中です。

これらのロボット実証実験が可能になった背景には、高輪特有の環境があります。JR東日本1社のグリーンフィールドで街全体をJR東日本グループで管理・運営していること、JR東日本の社員がスタートアップと二人三脚で伴走支援することで、「振り切った実験」を可能にしています。天内氏は、既存のスタートアップ集積地との違いを明確に示します。

渋谷や六本木は既に街のイメージが確立されており、人が集まっています。新興の高輪で施設を建設する際に、どのように集客するかを慎重に検討した結果、人が集まる場所があっても、アイデアを実際に試験できる環境がないことに困っている方が多いことが分かりました。TAKANAWA GATEWAY CITYでは、ビジネスアイデアを思いついたらすぐに実証実験で検証できます。街が実験場であることが最大の差別化ポイントと考えています。

天内氏

進化し続ける街への期待

KDDIのスタートアップとの連携

高輪の真の価値は、完成形ではなく「進化し続ける街」であることかもしれません。まちびらきは始まりに過ぎず、今後数年間にわたって新しい施設が次々と開業し、街の機能と魅力を拡張していきます。天内氏は今後の開業スケジュールを明かします。

現在の THE LINKPILLAR 1(ザ リンクピラー ワン)はまだ全ての施設が開業していません。9月にNEWoMan(ニュウマン)高輪、10月にJW マリオット・ホテル東京が開業予定で、以降は毎月新しい施設が開業いたします。ぜひその際にもご覧いただければと思います。

天内氏

2026年春には、THE LINKPILLAR 2が開業し、新しいクリニックやエネルギー施設、複合文化施設も完成予定です。最終的には850戸の賃貸住宅棟も加わって、働く・住む・学ぶ・楽しむの全てが融合した未来都市が姿を現します。

しかし、街の進化を支えるのは新しい建物だけではありません。天内氏は、パートナー企業の積極的な参加も期待して次のようにコメントしていました。

実証実験の街と銘打っている以上、実験の対象となる技術やアイデアが不可欠です。ぜひ皆様には新しいアイデアをお持ちいただきたいと思います。月に一度お越しいただく際にご相談いただいても結構ですし、実現したいことがございましたら一緒に検討させていただき、魅力的で革新的な街を共同で構築してまいりたいと考えています。

天内氏

高輪が提示するのは、従来の大企業とスタートアップの関係を超えた新しい連携モデルです。単発のプロジェクトや出資関係ではなく、継続的な実証実験の場を共有することで、より深い協業関係を構築しようとしています。

重要なのは、この環境が一企業の私有地内に構築されていることです。複数の利害関係者による合意形成の複雑さを回避し、「振り切った実験」を可能にする意思決定の迅速性。これは、日本のイノベーション環境における新しいモデルケースとして注目されます。

TAKANAWA GATEWAY CITYは、日本のオープンイノベーション環境に新たな可能性を示しています。「思いついたらすぐ試せる街」という価値提案が、どこまで実現され、どのように他地域に波及していくか。その動向は、日本のイノベーション戦略全体にとって重要な試金石となるでしょう。

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