- インタビュー
2025年12月16日
「声」が変えるBtoBマーケティングの未来―― 新東通信×AIdeaLabが仕掛ける「AIタレントコンシェルジュ」の真価

- 株式会社新東通信
備前島 拓人 - 統合ビジネスソリューション本部 本部長 Wonder.3 プロジェクトオーナー
- 株式会社AIdeaLab
冨平 準喜 - 代表取締役
企業のマーケティング活動におけるAI活用が加速する中、次世代マーケティングエージェントコンソーシアム「Wonder.3」を主導する株式会社新東通信と、最先端AI技術を擁する株式会社AIdeaLabが戦略的な業務提携を発表した。 両社が提供する「AIタレントコンシェルジュ」は、単なる効率化ツールではない。それは「信頼」と「実在感」を武器に、企業のコミュニケーションをどう変革するのか。
新東通信の備前島拓人氏と、AIdeaLab代表取締役の冨平準喜氏に、その提携の背景と未来への展望を語ってもらった。
AIドリブン戦略を支える「声」のチカラ
「9月に弊社は社長・谷哲也より『AIドリブン宣言』のリリース発表しました。全社員がAIを習得し、クライアントに対してAIを活用したコンサルタントになるという方針です」
新東通信の備前島氏は、提携の背景の生成AI取り組みのオリジナリティの重要さを語る。広告・マーケティング事業会社として生き残りをかける中、同社が出会ったのが筑波大学発のスタートアップであるAIdeaLabだった。 両社の接点は、スタートアップ支援プログラム「KDDI∞Labo」だ。冨平氏は当時をこう振り返る。
「我々はAIひろゆき等のアバターを手掛けてきましたが、広告領域での活用にポテンシャルを感じつつも、アプローチの方法が課題でした。そこで新東通信さんと出会い、BtoBマーケティング領域でのソリューションとして振り切ることができました」
備前島氏がAIdeaLabを選んだ決め手は、圧倒的な「技術力」、特に「声」の質だった。「クリエイティブチームがどうしても欲しかった技術を持っていた。他社との比較もしましたが、AIひろゆきの身振り手振り、そして音声変換の完璧さを見て、この会社とご一緒したいと思いました」 と、備前島氏はその衝撃を語る。

株式会社新東通信 統合ビジネスソリューション本部 本部長 Wonder.3 プロジェクトオーナー 備前島 拓人氏
「本人らしさ」を極限まで再現する、音声クローンとLipSyncの舞台裏
今回、第1弾としてローンチされたのが、元E-girlsの武藤千春さんをモデルにした「AIコンシェルジュ CHIHARU」だ。エンタメ領域ではなく、あえてBtoB、そして企業の顔となるコンシェルジュとしての起用には、明確な戦略がある。
「BtoBマーケティングにおいて重要なのは、しっかりと商品を推奨できる『信頼たる声質』です」備前島氏はそう断言する。武藤さんは現在、ラジオDJとしても活動しており、その「声」には定評がある。「彼女のIP(知的財産)としての魅力はもちろんですが、どうしても譲れなかったのが『声質』です。ナレーターやMCとしての信頼感があり、企業のサービスを説明する際に、ポジティブなイメージに繋がると確信しました」

第1弾ローンチ:武藤 千春氏
AIdeaLabの技術は、この「本人らしさ」の再現において遺憾なく発揮されていると冨平氏は言う。
「千春さんには実際に弊社にお越しいただき、オリジナル技術を駆使した動画撮影と音声収録を行いました。音声クローン自体は10分程度の音声でも技術的には可能ですが、“本人らしさ”を追求するために、約1時間収録させていただきました」
録音時のポイントは、「台本読み」っぽさをなくすこと。
「ただ読むのではなく、普段喋っている感覚に近いテンションで話していただくことで、その人らしい言い回しや間合いが乗った音声データになります。動画も同様で、“動画撮影用の振る舞い”ではなく、自然体で話している映像を撮ることを心がけました」
さらに、AIdeaLabが強みとするのが日本語に最適化されたLipSync技術だ。
「日本語に合わせて口の動きが自然に連動する独自技術を持っていて、ここは“国内でもできている会社がほとんどない”というレベルの強みです。」
実は、今回公開されたβ版動画には、あえて“AIらしさ”を少し残しているという裏話もあると備前島氏は語った。
「本気で修正すれば、ほとんど本人と見分けがつかないレベルになります。でも、それをそのまま出してしまうと『ふつうの動画』としてスルーされてしまうかもしれない。なので、あえて“撮って出し”に近いバージョンを出し、クライアントさんから『ここ、ちょっとAIっぽいよね』と言われたところで、『そこはちゃんと直せるんです』とお話しする。むしろそれをビジネスチャンスとして設計しました」
時間と場所からの解放。「三方よし」のタレント活用
タレントのAIアバターとなると、気になるのが権利や倫理の問題だ。ここについては、あくまで“本人と同等”の扱いを徹底していると備前島氏は語った。
「AIコンシェルジュCHIHARU」は疑似アバターですが、本人を模した存在であることに変わりありません。ですから契約は従来の広告契約と基本的に同じ。1年間の広告出演契約を結ぶ、という形で、クライアントにもタレント&事務所様にも安心していただけるスキームにしています」
またこのソリューションがもたらす最大のメリットは、タレントの時間的制約からの解放だ。 「有名な方であればあるほど、映画や番組の撮影でスケジュールが押さえられない。しかし、AIであれば稼働時間を気にせず、例えば営業部門がタブレットを持って全国を回り、その場でお客様に合わせた説明を動画でリッチにアプローチすることが可能になります」
これはタレント側にとってもメリットが大きい。稼働を伴わずに露出を増やし、自身のブランドを広げることができるからだ。 「これはタレントの仕事を奪うのではなく、タレント、クライアント、そして社会や生活者に社会にとってもプラスになる『三方よし』のモデルです」 と備前島氏は強調する。
広告会社としては、撮影日程の調整や衣装・スタッフの手配、媒体別の出演料など、現場特有の“苦労”もよく知っている。
「テレビのムービー撮影と、Web用のスチール撮影ではスタッフも衣装も変わる。そのたびにスケジュールと費用が積み上がっていく。AIタレントコンシェルジュは、こうした課題をまとめて解きほぐす“新しいエコシステム”の入り口になると思っています」
AIが拡張する未来の生活・働き方・都市のかたち
今後の展望について、冨平氏は「リアルタイム性」をキーワードに挙げる。「今も、武藤さんのAIとWeb上でリアルタイムに会話できる仕組みは動き始めています。ただ、リアルタイム性を高めるほど、通常はどうしても性能を落とさざるを得ないトレードオフがある。そこを“リアルタイムでも高性能”という次元まで引き上げたい」
目指すのは、「Zoomの画面越しでは人間かAIかわからないレベル」だという。
「対面ならまだ“なんとなくわかる”かもしれませんが、オンライン会議ツール上では、音声と映像だけが情報になります。そこにAIが入ってきても、“これ、本当に人?”と迷うレベルを狙っています」

株式会社AIdeaLab 代表取締役 冨平 準喜氏
備前島氏は、その先に見据える未来をこう語る。
「各自動車メーカー様他が未来ビジョン発信や展示会発表などで示しているように、クルマは“運転するもの”から“移動中のホスピタリティの場”へと変わっていきます。その中で、道案内やおすすめ情報を伝える“声”や“画面上の案内人”が、誰の声で、どんな存在感で話しかけてくるかは、体験価値を大きく左右します」
街づくりの文脈でも同様だ。「高輪ゲートウェイのような新しい街では、駅からビルまでの導線上に、すでに多くのサイネージや音声案内があります。そこに、知的財産としてのAIタレントやAIアバターが入ってくることで、来訪者の気持ちを豊かにする新しいソリューションになり得ると考えています」
さらに、AIdeaLabで大企業の会長のAIアバターを開発した実績を踏まえ、その発想を広げ、「企業トップの“AI版レジェンド”」構想も始動しつつある。
「創業者や歴代社長の考え方やエピソードをAIに蓄積し、10年後・20年後の新入社員が“AI会長”に直接聞けるようにする。経営哲学や企業のDNAを、文字だけでなく“声と表情”で受け継ぐ仕組みを作れたら面白いですよね」と備前島氏は未来のAIアバターの可能性について語った。
冨平氏もまた、「広告領域のAIアバター活用には、まだまだポテンシャルがある」と語る。
「私たちは、人間と変わらないレベルのAIを目指して研究開発を続けます。そして、新東通信さんのようなパートナーと一緒に、スタートアップだけでは届かない領域まで、AIタレントコンシェルジュを広げていきたいと思っています」
「AIタレントコンシェルジュ」は、単なる広告ツールではなく、企業のマーケティング、ブランディング、そしてコミュニケーションのあり方そのものを変革する可能性を秘めた第一歩と言えるでしょう。
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