- インタビュー
2023年12月25日
日本の主要鉄道会社とスタートアップ企業との共創!~「JTOS」発足~
- JR東日本スタートアップ株式会社
萱沼 徹 - 営業推進部 アソシエイト
- 東急株式会社
武居 隼人 - フューチャー・デザイン・ラボ 主事
- 小田急電鉄株式会社
和田 正輝 - デジタル事業創造部 ポリネーター
- 株式会社西武ホールディングス
青木 啓史 - 経営企画本部 西武ラボ 課長補佐
JR東日本スタートアップ株式会社、東急株式会社、小田急電鉄株式会社、株式会社西武ホールディングスは、共同でスタートアップ企業の先進的な技術や課題解決のアイディアを社会実装まで昇華させることを目的とした鉄道横断型社会実装コンソーシアム「JTOS」(以下、JTOS)を2023年9月21日に発足しました。
JTOSは、スタートアップ企業を取り巻く社会実装に向けたさまざまな障壁を乗り越えるために、各社が有する駅や鉄道、不動産などの経営資源、グループ事業における情報資源を掛け合わせた広大な実証実験フィールドを提供し、スタートアップ企業の挑戦者の皆さまと共に未来の当たり前を創造します。
今年度、複数回の実証実験を予定しており、第一弾の共創スタートアップとして、生物多様性ビッグデータから自然環境保全に取り組む株式会社バイオームとネイチャーポジティブな社会の実現を目指します。第二弾として、街じゅうを「駅前化」する新しい短距離移動インフラづくりに取り組む株式会社Luupとマイクロモビリティ領域においてすべての人が安全・便利に移動できる社会の実現を目指し共創します。
そこで、JR東日本スタートアップの萱沼 徹氏、東急株式会社の武居 隼人氏、小田急電鉄株式会社の和田 正輝氏、西武ホールディングスの青木 啓史氏にお話しを伺いました。
「JTOS」ビジョン
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、貴社の鉄道事業における最大の課題は何でしたか?
JR東日本 萱沼:人々の行動や価値観の変容が最大の課題であり、具体的にはリモートワークの浸透、Web会議の普及による定期券収入やビジネス利用の減少です。こういった変化は不可逆的な変化であり、今後も以前の水準には戻らないと考えています。
東急 武居:鉄道業界を取り巻く環境は、新型コロナウイルス感染拡大を経て大きく変化しました。通勤・通学を中心とした収支構造からの変革や、安全・安心を追求し公益性と収益性の高次元での両立を目指す必要性を感じました。これらの課題に対して、テクノロジーを活用したオペレーションによる変革を中期経営計画の中でもうたっています。
小田急 和田:将来的な人口減少による輸送人員の減少は予測していましたが、想定よりも10年ほど早く瞬間的に訪れ、もう輸送人員は過去の8~9割しか戻らないことです。また、鉄道部門では定期券のユーザーが戻らない中、いかに定期外(日常利用)を増やしていくかが課題です。これまでの鉄道、不動産、商業という従来の私鉄モデルが限界になっており、新たな事業の柱を探していく取り組みを加速させることが重要になっています。
西武 青木:戻らない定期収入による売上です。コロナ禍で定着したテレワークなど人が移動しなくてもコミュニケーションが取れたり、体験をオンラインでできるようになってしまったのは大きいです。お出かけしなくても良くなった世の中で、わざわざお出かけしたくなるような魅力的なコンテンツやアセットが必要になっています。鉄道を走らせていれば一定の収入があったところから、急激に魅力的でわざわざお出かけする何かや新しい事業を考える必要が出てきました。
貴社が「JTOS」に加盟して実現したいことは何ですか?
JR東日本 萱沼:JTOSが目指す「挑戦者の想いを未来の当たり前に」というビジョンこそ、我々JR東日本スタートアップが実現したいことでもあります。弊社はJR東日本グループのCVC企業として活動しており、スタートアップ企業と共に新しい未来の創造を掲げてきました。そして今回、想いを共有する4社のJTOSという枠組みを通して取り組むことで、こうなったらいいなという未来の実現に向けて取組みをより加速させていきたいと思っています。
東急 武居:1社単独では解決できないような社会課題解決への挑戦を通じて、未来の当たり前となるようなサービス、プロダクト、文化を創ることです。従来、弊社単独では限りがあったスタートアップへのアセット提供を4社共同で行うことで補完し合い、さらに高めていきたいです。
小田急 和田:短期的には、日本の課題をスタートアップの皆さんとともに解決していくことです。長期的には、スタートアップの成長が当社の成長にもつながるように、JVやM&Aなども検討しシナジーを求めていきたいです。
西武 青木:挑戦するスタートアップと一緒に未来の当たり前を創っていきたいです。挑戦する人の熱意や課題意識・プロダクトと鉄道4社のアセットを掛け合わせることができれば、当たり前を創ることが可能であると考えています。個人的には、鉄道4社と共創するのにこんなにクイックにできるの!?と思われるくらいスタートアップと同じスピード感をもっていきたいです。
新たな価値創造
「JTOS」を通じて、鉄道会社4社がタッグを組む意義は何ですか?
また、どのように企画を進めていますか?
JR東日本 萱沼:鉄道会社は沿線という線状の経営資源を持っていますが、その鉄道会社同士がタッグを組むことで、線を面に広げることができます。第1弾の共創となったバイオーム社との連携も、各社の沿線でのクエスト実施や他イベントとのコラボレーションに加えて、4社の沿線に跨った面状のクエストも実施し、鉄道会社を股にかけた共創を実施することができました。企画の進め方については、JTOSのHPからのエントリー、JTOS主催のミートアップイベントなどを中心にスタートアップ企業の提案を受け付けています。そうして出会ったスタートアップ企業と企画を具体化し、その後は実証実験、社会実装を目指すステップへと進めていっています。
東急 武居:1社単独では限りがあったアセット量を格段に増やせることだと思います。スタートアップから見ると、従来はバラバラに連絡する必要があった負荷の軽減にもつながると考えています。また、1つの技術やサービスに対して、例えば、ビルや駅、商業施設などの4社が異なったアセットの提供を行うことで、より効率的なPoCを実現できると考えています。企画の検討は、NATURE、MOVE、CULTURE、WELL-BEINGという4つのテーマ毎の社会課題の深堀りと、具体的な協業先の探索を同時並行で進めています。週に一回のミーティングに加えて、月に一度は意思決定レイヤー全員が顔を合わせるミーティング、日ごろのコミュニケーションはチャットベースで適宜といった形で同じ社内にいるかの如く高密度でコミュニケ―ションを取っています。
小田急 和田:4社の事業エリアを合わせると関東一円に広がっており、スタートアップの実証実験が広範囲で実施できます。具体的には、交通広告などリアルアセットの強みと多数の顧客タッチポイントを活かしたPRができることです。また、実証にかける費用が単独でやるよりも4社で行うことで可能性が大きく広がることです。
西武 青木:JTOS側からみると、1社では挑戦できなかった領域に挑戦できることや4回分のデータや実証実験結果が1度に集まり迅速な事業判断ができます。スタートアップ側からみると、4社にプロダクト説明をしなくても良いということがあります。アポをとって資料を該当の会社用にアレンジして説明をするってなかなか骨の折れる作業です。4社間とスタートアップとはチャットツールでやり取りをしながら企画を推進しています。毎週木曜のお昼はJTOS実務者会議で、オンラインとリアルを併用しながら実務を進めています。JTOS全体での会議も月一回おこない、毎回20名弱が集まり議論や検討を深めています。
「JTOS」ミッション
バイオーム社との連携において、貴社の沿線エリアのテーマはどのように考えましたか?
JR東日本 萱沼:JR東日本では、青梅線の特に自然豊かな青梅~奥多摩間を「アドベンチャーライン」と名付けており、その地域をもっと多くの方々に感じていただきたいという想いがありました。また、今回の企画を通して自分の普段の生活圏の中にはどのような生物たちが暮らしているのかにも気付いていただき、バイオーム社の掲げる「生物多様性の保護を社会の当然に」の実現のためのワンステップになればという想いから今回のテーマを設定しました。
東急 武居:郊外エリアのこどもの国、都心エリアの武蔵小山緑道、中間に位置する二子玉川の3エリアをクエストの対象エリアに選定しました。 こどもの国は、広さ約100ヘクタールの雑木林をベースにした自然の中に、たくさんの子どもの遊び場が点在しており、親子で楽しみながら自然環境と触れ合えることができます。
武蔵小山緑道は、目黒線の立体交差事業によって地下化した線路の跡地を活用して作られました。住宅地においても様々な生物や植物を観察することができます。二子玉川にある二子玉川ライズでは、生物多様性「JHEP認証」の最高ランク(AAA)を取得するなど、開発当初から自然環境と調和する街づくりを目指してきました。大規模施設内にある豊かな自然環境を感じることができます。 いずれも人の暮らしに近いところに自然があり住宅街を沿線に多く持つような、自然と調和するまちづくりを進める東急線沿線を体験していただけるエリアです。
小田急 和田:都心と海・山がある沿線の特性を生かして、わかりやすいスポット(都心:新宿 海:江の島 山:箱根)を選定しました。普段何気ないところにも多数の生物がいることを知っていただき、環境保全の意識を高めて、エリアに愛着を持っていただければと考えています。
西武 青木:西武線の沿線は自然が多く、いきものコレクションをするには絶好の場所です。グループのスローガンである「でかける人を、ほほえむ人へ。」から、人だけではなく沿線のすべてのいきものをほほえませるまちをつくるんだ!!多くの方が生物多様性やネイチャーポジティブを考えるきっかけになって欲しい!という想いで「すべてのいきものが”ほほえむ”まちへ」としました。今回の連携の中で、バイオームさんから約100万種の生物が絶滅の危機(IPBES 2019)であることや、地球上で大量の絶滅が進行中であり100年で生物の50%以上が絶滅の見込みがあるなど、課題を多く学びました。生物多様性を数値化し、それを基礎データとして行動を起こし、消失していく生物の保護に少しでも近づくことができればと思っています。「世界を守りたい!!」ですね!
鉄道各社沿線エリア
いきものコレクションアプリ「Biome」との連携において、貴社の沿線住民の反響はいかがでしたか?
JR東日本 萱沼:参加者アンケートでは「時間をつかって生き物を探すようになった、どんな生き物がいるか興味・関心を持つようになった」と声が多数寄せられており、これをきっかけに環境保全に興味を持ったという方が多く見受けられました。また、このアプリをきっかけに親子や家族で外出する機会が生まれたといった声も数多く頂いております。こういった沿線住民の方々の行動変容を生み出すことができ、目指していた反響は得られつつあると感じています。
東急 武居:こどもの国では、現地で開催予定であった企画と連携するなど、好印象で受け止められています。また、今まで意識していなかった家の近所に自然があることに気付けたり、企画の参加を通じて植物の名前を気にかけるようになったりと、生物多様性保全に対する意識の高まりにもつながっていると思います。
小田急 和田氏:沿線の皆さまに多数参加をいただいており、我々の想定を超える結果になると考えています。詳細についてはデータを精査してみないとわかりませんが、ファミリーの利用が相当あり、お子さんと一緒に街を歩き、その中で見つけた生き物をアプリを使って知ることはまさに「体験学習」であり、子供たちの成長にも役立ったと考えています。藤沢市と協力して実施した長久保公園での取り組みでは高齢の方の参加も見受けられ、外出の機会の創出や運動の促進につながった可能性もあり、その面での効果も検証したいです。
西武 青木:沿線の自治体や企業からも好意的な意見をもらっています。飯能では連携の期間中にBiomeを使ったイベントを西武鉄道と協力して開催しました。より多くのお客さまに電車に乗っていただくことができたと感じています。
二子玉川 ルーフガーデン
Luup社とマイクロモビリティ領域での共創において、貴社が期待することは何ですか?
JR東日本 萱沼:鉄道といった1次交通とLuupのような2次交通が上手く連動することでお客さまの移動はもっと便利で活発なものにできると考えています。今回のLuup社との共創では、未来の移動の当たり前を形作っていく取り組みにできればと思っています。
東急 武居:今行っている第一フェーズにおいては、地方観光都市の共通問題である「観光二次交通」の課題解決を図りたいと考えています。また、観光地でLuupを体験された首都圏にお住まいの方が、利便性を感じていただき、日常でもご利用いただけることを期待してます。今後は、二次交通としてマイクロモビリティが安全・安心なサービスとして世の中に普及し、当たり前に利用できる社会を推進していきたいです。
小田急 和田:3つあります。1つ目が新しいマイクロモビリティーが安心安全に社会に受け入れられるようにしていくこと。2つ目が観光地における交通の不便さ、使い勝手が改善され街中への回遊が生まれること。3つ目が利用データから街の回遊特性等を可視化し、観光振興や街づくりに活かしていくことです。
西武 青木:今回の実証場所である秩父も2次交通が課題です。電動キックボードを置くことで2次交通の課題解決を期待しています。将来的には都心部や住宅地においても、キックボードだけでなく他の様々なマイクロモビリティーの展開も検討を進め、目的地まで最適な移動方法でストレスなく移動できるまちをつくっていきたいです。
別府市の観光案内所
今後、「JTOS」を通じてどのような挑戦やスタートアップとの共創をしていきたいですか?
JR東日本 萱沼:JTOSには現在NATURE、MOVE、CULTURE、WELL-BEINGの4つをテーマに掲げており、この4テーマを中心に「未来の当たり前を創りたい」という熱意あるスタートアップ企業との共創を積極的に行っていきたいと考えています。交通系ICカードや相互直通運転を例に挙げていますが、鉄道会社の垣根を越えて、面で技術やサービスを展開していき、日本・社会を変えていくようなスケールの共創を生み出すことがJTOSが目指すことです。そこに共感してくれるスタートアップ企業の力強いパートナーになっていきたいと思っています。
東急 武居:NATURE、MOVE、CULTURE、WELL-BEINGという4つのテーマを中心に、単独では実現が難しい社会課題解決に一緒に挑戦できるような取り組みをしたいと考えています。また、JTOSという取り組みが共創するパートナー(挑戦者)の方々にとって価値あるものにしていくことが直近で必要なことだと思っています。
小田急 和田:NATURE、MOVE、CULTURE、WELL-BEINGの4つのテーマに合致している方で、社会の課題解決に挑戦している方と未来の夢を語りながら共に汗をかき泥臭くやっていきたいです。
西武 青木:JTOSでの活動自体が挑戦です。同じ鉄道ではあるものの文化や風土がちがう4社が手を組むことも挑戦だと考えています。まだまだ1年目なので手探り状態ですが、今後はJTOSとしてテーマで掲げているCULTUREやWELL-BEINGの領域でも未来の当たり前をつくる挑戦者を見つけ、挑戦者とともに汗をかき、未来の当たり前創りを進めたいです。もちろんMOVE、NATURE領域も未来の当たり前を創り続け、日本の時価総額をあげる集団になりたいです。我々JTOSは、日々挑戦者を探しています。この記事を見ている挑戦を続けているスタートアップの方は是非エントリーしてもらいたいです。
ありがとうございました
関連リンク
関連記事
インタビューの記事
-
ディープテックスタートアップの超新星! - OptQC
2024年10月30日
-
データセンターの 消費電力を50%削減! - TopoLogic
2024年10月29日