- インタビュー
2022年04月15日
【Web3起業家シリーズインタビュー】Gaudiy 代表・石川裕也氏に聞いた Web3 の現在地と、日本での社会実装のゆくえ(後編)
- Gaudiy 創業者兼代表取締役
石川裕也 氏 - 10代から先端テクノロジー業界で事業開発を経験し、19歳でAI企業を創業。2018年5月、株式会社Gaudiyを創業。ブロックチェーン×エンタメ領域で、ファンコミュニティやNFTなどを活用したソリューション事業を展開中。23才で毎日新聞の技術顧問に就任、25才でLINE Payのブロックチェーン技術顧問に就任。その他大手企業でアドバイザーや技術顧問を兼任。
MUGENLABO MAGAZINE では、ブロックチェーン技術をもとにした NFT や 仮想通貨をはじめとする、いわゆるWeb3ビジネスの起業家にシリーズで話を伺います。Web3についてはまだバズワードな要素も含んでいるため、人によってはその定義や理解も微妙に異なりますが、敢えていろいろな方々の話を伺うことで、その輪郭を明らかにしていこうと考えました。
2回目は、NFTをはじめブロックチェーンでエンターテインメント業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む Gaudiy の創業者兼代表取締役の石川裕也さんです。業界を代表する企業と手を組んだサービスの提供を通じて、テクノロジーに明るくないユーザにも、Web3を日常の身近なものにする取り組みをしておられます。
今なぜ、Web3か?
Web3 に携わる一つのモチベーションとして、Web3 だからこそできる社会実装というのがあると思います。現実の社会は必ずしも理想形ではない。しかし、理想形を Web3 で実現していくようなことも可能だと思いますか?
石川:坂井先生(慶應大学経済学部教授の坂井豊貴氏。Gaudiy の経済設計顧問。)ともよく話すんですが、経済学者は国の制度が実験対象なので、生物学とか物理学とかみたいな実験ができないわけです。だから、実験できていない理論があふれちゃってるんですよね。でも、ここで面白いのは、ブロックチェーンというのはめちゃくちゃ試せるじゃないですか。
Web3 ではいろんな国家みたいな制度(=DAO)が存在していて、今の間接民主主義みたいな日本の政治体制が正しいか正しくないかとか、もっと言えば、現実的には試せないベーシックインカムとかも導入したらどうなるかとか、世界中で同時多発的にいろんなやり方で試すことができるので、こういった学問は進むだろうと思います。
確実に言えることとしては、DAO や Web3 におけるガバナンスは絶対にいっぱい失敗します。だけどそこから何回も失敗することによって学んで、なんとなくこれが一番のスタンダードだよねっていうことを編み出す。そこから生まれたものは Web3 だけではなく、根本的な政治哲学や、政治のあり方にも適用できるような、理論が生み出されるのではないかと思います。
ユーザからすれば、そうやって、数多くの試行錯誤を経て生まれた理論が適用された国の方が安心な国ということになるので、そこを一つの自分の国としてのアイデンティティに近い所属を作っていくような時代の流れになるんじゃないかな思います。イノベーターの人が入ってきて、制度が整ってきてマス化されていくという、これまでとそんなに変わらないでしょう。
Image credit: Gaudiy
Web3 は、どのような人たちが参加しているとお考えですか? 数年前の仮想通貨ブームの時には、いわゆるテック系ではない、デイトレーダーや投資家の人たちもたくさん参入してきたのが見受けられました。Web3 のメインプレーヤーやターゲットは誰なのでしょうか?
石川:興味深いのは、Web3 の世界には、投資家じゃない人たちもめちゃくちゃ入ってるということなんですよ。仮想通貨をやっている人たち(投資家)と、Web3 と言われる DeFi、NFTFi、GamiFi みたいなものをやっている層は全然違う。みんなこれを理解していなくて、まるっとブロックチェーンとひとまとめにしてしまってますよね。
さらに面白いことに、世界で最大の仮想通貨取引所は Binance でした。Binance には、仮想通貨を発行している会社や、チェーンを運営している層が入っていました。この人たちは、金融をはじめ、結構 Web リテラシーが高い人たちでした。でも、今は Binance Chainで扱われているものの多くが NFT なんですよ。
この流れを分析してみたら、すごく面白いんです。東南アジアやブラジルで GameiFi が盛り上がってますが、彼らはあまり文字を読まないんですよ。読んでないので、こういう企業がこういうプロトコルをやっているなんてのはよくわからない。ただ、イラスト見て流行りそうとか、ゲームを見てうまく行きそう、音楽を聞いて当たりそうとか、わかりやすいじゃないですか。
現代において、海外の人たちが Twitter じゃなくて Instagrarm や TikTok を見るのは、画像という非言語のインターフェースなので、マス層に行きやすいんだと思います。日本人も英語を読めないんで、この画像いいんじゃないとか、この アカウントはフォロワーが多いからいいんじゃないとか。でも、投資って結局、流行りそうか流行らなさそうか、なわけですよ。
特定の会社の株価がどうなるかはわからないけど、このゲームが流行りそうかどうかなら、みんな楽しみながら投資できる。そうやってめちゃくちゃ層が増えたんですよ。株の UX をよくしてライト層でもわかるようにした「Robinhood」は時価総額200億米ドルになりました。でも、UX だけじゃなくて層の拡大を促したのが NFT や DeFi と見ることができるわけです。
証券会社などが投資家を増やそうと、いろいろハードルを下げるための手立てを行ってきたのとは比べ物にならないインパクトですね。
石川:これまで投資家と言えば人口全体の数割程度しかいなかったのが(※)、一般的な人々、エンタメが好きな人々が金融的なリテラシーを身につけて、金融的な動き方をするようになれば、どれくらいの市場規模になりますか。どれくらいのインパクト、DAO、投資家が生まれますか。そういう話で言えば、株式市場がひっくり返るほどの規模ではないかと思います。
※野村総合研究所の調べによれば、25~69歳の全人口のうち、投資を行っている人は21.1%。
「俺、このアーティストを昔から応援してたんだよ」とか、「この漫画家、応援してたんだよね」とか、そういう層が投資家になり始めた。彼らは応援の仕方もしっかりしているので周りにも勧めるし、何かを拡張していったり、何かに投資したりするところが、「自分ごと化」しやすいし、分かりやすい UX になったのが NFT なわけです。
だから、「NFT って投資だよね」という人たちがいるんですけど、それは金融から来ているから。金融的な投資からエンタメに向かっているので、当然のことなんです。徐々に投資的ではなくなり、ゲーミフィケーションを大事にしたアクティブステーキング(ゲームに積極的に参加した人に報酬を還元できるようにした仕組み)というのが今後の流れになっていきます。
そうなってくると、次に何をしなきゃいけないかが普通に計算できる。Gaudiy はそこをやっていこうというわけです。
「どの仮想通貨が上がるか」というのを人に聞かなきゃわからないのは、その人が理解できてないからなわけですが、「このアーティスト・漫画家、行きそう」「このゲーム行きそう」というのはユーザでもわかる。NFT を買う人はお勧めされたものを買うのではなく、自分の信じたものを買うので、この分野には、そもそも詐欺師とかも出てこないです。
2020年に BTS の事務所(Big Entertainment、現在の HYBE)が上場した時に、女性で初めて株式投資する人たちがめちゃくちゃ増えた。彼女たちに、HYBE の株をなぜ買っているのかって聞くと、BTS の一部を持つことができるグッズなんです。株自体が、彼女たちにとってはグッズの感覚なんですね。自分が好きなものを買っているので騙されることもない。
Image credit: HYBE
Web3 の社会実装に向けて
投資の観点から見た時に NFT の可能性はどうでしょうか。評判が価値の高い低いを決めるがゆえに、実体価値と離れた評価がされてしまったり、ボラティリティが高くなってしまったりするリスクはありませんか?
石川:株式や仮想通貨と同じく、どの NFT が上がる下がる、といった予測や知見を与えてくれるサービスも確かに出てきています。確かに、今の NFT がめちゃくちゃマーケティング勝負になってるのは事実です。しかし、だからダメって話ではなくて、そうじゃない方向にみんな向いているので、時代と共に変わっていくだろうなと思います。
むしろ、今の課題で言うと、今のブロックチェーンの上場ですね。何千億とか時価総額ついたりするじゃないですか。あれって、金融の歴史をガン無視してるんですよね。何が言いたいかと言うと、創業一年目の会社が、ブロックチェーンだと上場できてしまうスキームなわけじゃないですか。
なぜ創業一年目の会社が東証に上場できないのかというと、条件が厳しいとか既得権とかではなくて、ボラティリティが高過ぎると投資家が傷つくからです。だから、3年以上監査法人が見て、主幹事証券会社が「あなたたちは相場的にこれくらい」とバリュエーションを提示して上場させ、ボラティリティを抑えることで、投資家を保護しようというのが金融の歴史ですね。
こういう歴史は正しい UX だなと思っていまして、ブロックチェーン上場する人たちが、以前からある株式市場の仕組みをレガシーなシステムだからと一蹴して、創業まもないスタートアップを上場させてしまうのはそもそも違うよね、と思います。ボラティリティが高いと、今は上場してお金が集まるかもしれないけど、結局、そういうものを皆は買わなくなる。
だからこそ、重要になってくるのはボラティリティを下げる方法が超重要になってきます。それには3つのアプローチが考えられます。
- エコシステムが回り始めてからでないと、上場できないようにする。
IDO・プレセール後にゲームを出すような、マーケティング先行型の上場をなくし、会社として利益が上がっているブロックチェーンからのみパブリックチェーンに上げられるようにする。東証や監査法人のような審査機関が必要で、Gaudiy もそれをやろうとしている。 - 安定的な株主を作る。
株を投資する人だけではなく、自律的に株というものが買われ、売上も安定的なものを作れるようにする。Gaudiy では、インフラ的な収益も入るように設計している。 - 投資的な人をできるだけ排除する。
上の 2. にも関連するが、例えば、BTS が上がりそうだよね、ではなくて、BTS が好きだから、という人たちを増やす。
ですから、2019年に書いた「Trust Economy Bonding Curves(※)」というのは、そういう施策になっていて、計算式も書いているんですけれど、ファンであればあるほど高く売れて安く買えるという設計にしています。ファンでなかったり、その分野に全然詳しくなかったりする投資的な人は損しやすくすることで、ある程度、投資的な人を排除できるわけです。
Web3 の知識が全く無い人が身につけなければならないことは何でしょうか。知識がないとお金をぼられたり、損したりすることはあるでしょうか?
石川:最初は、めっちゃぼられると思います。でも、ぼられて学ぶんです(笑)。
リスクとリターンは必ず相関するので、損したくないけど儲けたいみたいなものは存在しません。ぼられるかもしれないけどワンチャンあるよね、って飛び込んだ人たちが、イノベータやアーリーアダプターになります。一般人にも受け入れられるように、サービスをわかりやすく、使いやすくする努力は必要ですが、それは企業側の力量でしかない。社会がどう思うかは放っておいていいと思うんですよ。
株式も全部そうだったじゃないですか。何百年の歴史を経て、今のようなルールになっているのですが、ブロックチェーンなんてまだ生まれて十年しか経っておらず、NFT などに関しては生まれてまだ2〜3年の話なので、そりゃミスるよね、と。人間で例えるとなんか赤ちゃんみたいなもんで、これはみんなで育てていって、凄い迷惑を掛けられる人も出てくるでしょう。
企業は、Web3 について今何をすべきなのでしょうか。時代に乗っていかなければ、と考える企業の方々から意見を求められませんか?
石川:まぁ置いていかれますよね。だから、頑張んなきゃいけない。僕は、でもまだギリギリ日本にはチャンスがあると思うんですよ。世界を代表するWeb3企業に、日本企業が一社もいない状態だと、今後30年日本はきついよなって、本当に思っています。だから、自分達に近いステークホルダは勝たせなきゃいけないというミッションがあります。
しかし、Web3 という領域はものすごく大きいので、僕たちのステークホルダ以外の人たちについてまで、どう行動すべきかを言及することは難しい。一度、なんらかの破壊(ディスラプト)が必要でしょうね。
そういう点では、コロナはいいきっかけになったと思います。コロナがなかったらリモートとか無かったわけですから。こういうインタビューも移動の時間が無くなった分、生産効率は3倍に上がった。これは破壊なわけですよ。もう一つは選択と集中ですね。日本で伸ばす産業をちゃんと絞ること。Web3 という大きな括りではなく、そこから絞る必要があります。
アジアを一世風靡するメタバース「Axie Infinity」
一回壊れた後に選択と集中となると、国が力を発揮するのは歴史が証明しています。日本の自動車産業が強くなったのは、終戦後 GHQ が航空関連の企業を全部解体した時に、優秀なエンジニアの多くが自動車産業に流れたから。これが全てですね。エリートは通常分散しますが、これが選択と集中されると、他にどれだけ強い国や会社があっても勝てない。
ちなみに、これが完全に行われると思うのは東南アジアです。東南アジアは Axie Infinity が出たじゃないですか。東南アジアから創業たった3年で時価総額8,000億円、世界で一位のプロダクトを作れたと言っている。今まで先進国のオフショアや受託ばかりやってきた金融やエリートの人たちが転職してきて一箇所に集まった状態になっている。
Web3 を国家戦略にするみたいな選択をする国も出てきてます。僕がエンタメをやっているのも、日本の〝地の利〟を生かしているんです。カラオケ、コスプレ、二次創作、切り抜き動画、つまり、日本はエンタメ拡張 UX 大先進国なんですよ。これらを生かしてやりたいなと考えて、Gaudiyでは、その〝地の利〟を生かした、Web3時代のファンコミュニティでブロックチェーンをやっているんです。